樹木希林、型破りな夫婦生活を続けた結婚観「内田には感謝してます。自分の気持ちにどう折り合いをつけるか、大事な人生修行なんじゃないかと」

2025年3月21日(金)12時30分 婦人公論.jp


やわらかな表情で夫婦が並ぶ貴重な一枚(『人生、上出来 増補版 心底惚れた』より。写真提供:希林館)

樹木希林さんが悠木千帆の名前で活動していた1976年、当時の男性著名人との対談連載が雑誌『婦人公論』で始まりました。30代前半の希林さんだからこそ聞けた、才人たちとの「男と女」にまつわる深い話。そして2025年3月、連載と新たに未公開インタビューを収録した『人生、上出来 増補版 心底惚れた』が刊行に。希林さんが夫婦について語った未公開インタビュー(2015年収録)より、一部抜粋してお届けします。

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男は可愛らしい、女はしたたかだけど


ここへきて私たち夫婦もなかなかいい関係になってきましたね。ちっとも本質は変わらないのだけど、歳とともに、互いに互いの受け止め方が変わってきたんですよ。摩擦がなくなって、今はぜんぜん揉めません。

結婚当初、一緒に暮らしていた頃は毎日のように大喧嘩。言い合いじゃすまなくて、でも手だと痛いから、私はモノで叩いてたの。

内田(裕也さん)の頭から血が流れ出したこともあったけど、人から「どうしたんですか?」って訊かれて「女房にやられた」とは言えなかったんじゃない? 「ちょっと……」ってごまかしていたら、「どこの組の人にやられたのか」なんて騒ぎになったこともあったみたいですよ。(笑)

今は内田に同じことを同じように言われても、フワッと受け止めて、「なるほどね〜」とか「わかるわよ」って答えて受け流すの。そうするとあちらも気分がいい。

本題はともかく、自分の意見に同調してくれたってとこに反応して穏やかになるのよ。男は可愛らしいわね。女はしたたかだけど。

価値観の違う人と暮らすのは難しい


それに会うのは1年に一回か二回くらいですからね。毎日一緒になんかいられないわよ。いられないから別居したんだもの。

結局のところ、たまに会うっていうのが私たちにふさわしい距離感なのね。半年に一度なら話したいことも溜まってるし。たいがい私は聞き役で、内田がずーっと喋ってるんだけど。

家を新築したとき、夫の部屋も用意したんです。一応、表向きは「いつでもお帰りください」とは言ってるけど、戻れずにいますね。

まず荷物の分量が違うんですよ。一緒に暮らしてた頃から、内田の荷物はすごい量だった。私が「また買ってきたの?」って咎めると、「これ、安かったんだ」とか言い訳するんだけど。値段じゃないのよ、物が増えるのが嫌なんだから、私は。

近年も映画の賞なんかもらうと素直に嬉しいんだけど、トロフィーは全部関係者にあげちゃうの。そんなだから……。生理的に嫌な相手でなくても、価値観の違う人と暮らすのは難しいんですよ。

わりかし大事な人生修行


でも内田には感謝してます。世間の人は、私を勝手な夫に振り回された気の毒な女みたいに思ってるかもしれないけど、そうじゃないの。


『人生、上出来 増補版 心底惚れた』(著:樹木希林/中央公論新社)

私は若い頃のある時期、仏教書に引き寄せられていました。

なかでも心に残っているのが、お釈迦様にダイバダッタという、どうにもままならない弟子がいなければ、釈迦は悟りをひらくことができなかったというお話。私にとって内田は、ダイバダッタなんですよ。

どんな夫婦だって、互いが互いのダイバダッタなんじゃない? 人は一人で生きていかれないこともないんだけど、伴侶と出会うことで生じる摩擦にどう対処するか、どうやって自分の気持ちに折り合いをつけていくかってのは、わりかし大事な人生修行なんじゃないかと思いますね。

縁が結ばれるのは


あれはいつだったか、養老孟司さんと話していたら、養老さんが奥さんから「あなたって本当に人を見る目がないわね」と咎められたと言うの。

「どういうふうに返したんですか?」って訊いたら、「家内をじーっと見て、『本当にそうだね』と言いました。笑い合って、この話はおしまい」って。

長年連れ添った夫婦なら、こういうウィットに富んだ知的な会話をしたいもんだなぁって思いましたね。

結婚の縁に恵まれたとかよく言うけど、縁というのは、自分と同じレベルの人としか結ばれないと相場が決まっているんですよ。

だから私は誰かが夫の悪口を言い出すと、「あらー、大変じゃない」とか言いながら一通り聞いて、心の中で「この人も夫と同じレベルなのね」って思うんですよ。(笑)

相手のことを変えようというのは浅知恵ね。それより「自分はどうなの?」って考えなくちゃ。

夫婦間のストレスをなくすためのコツも、全部、原因は自分にあると思うこと。これに尽きます。「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、みーんな私のせいなのよ」って昔あったけど(笑)。私もそんな感じですねぇ。

※本稿は、『人生、上出来 増補版 心底惚れた』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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