本郷和人『べらぼう』「ずいぶん楽しそうだな、お瀬以」蔦重への嫉妬をギラつかせた鳥山検校。そもそもなぜ大富豪になれたかというと…そして盲目の侠客<座頭市>とも実は関係が?

2025年3月21日(金)16時7分 婦人公論.jp


(イラスト:stock.adobe.com)

日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築き、時にお上に目を付けられても面白さを追求し続けた人物“蔦重”こと蔦屋重三郎の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合、日曜午後8時ほか)。ドラマが展開していく中、江戸時代の暮らしや社会について、あらためて関心が集まっています。一方、歴史研究者で東大史料編纂所教授・本郷和人先生がドラマをもとに深く解説するのが本連載。今回は「鳥山検校」について。この連載を読めばドラマがさらに楽しくなること間違いなし!

* * * * * * *

嫉妬する様子を見せた鳥山検校


吉原一の花魁となった瀬川でしたが、盲目の大富豪・鳥山検校に身請けされてその妻に。名前も「瀬以」となりました。

一方、前回のドラマで、富本豊志太夫/午之助(寛一郎さん)に俄祭りへ協力してもらうべく、浄瑠璃の元締めでもあった鳥山検校の屋敷へ赴くことになった蔦重。

再会した二人の和気あいあいとしたやりとりを障子越しに聞いていた鳥山検校でしたが、部屋に入るなり「ずいぶん楽しそうだな、お瀬以」と言うと、その後には「もう花魁・瀬川ではない。わたしの妻だからな」と告げるなど、嫉妬する様子も。

市原隼人さんの演技も相まって、あらためてその迫力に震撼した視聴者の方も多かったようですが…。

今回はその鳥山検校について記したいと思います。

検校制度の成り立ち


鎌倉時代中期に城一という平家琵琶(平曲)奏者がいました。藤原行長(信濃前司)と協力して『平家物語』を創作し、初めて語ったのが生仏<しょうぶつ>という人。

この生仏の孫弟子が城一です。


本郷先生のロングセラー!『「失敗」の日本史』(中公新書ラクレ)

彼は世に大いに『平家物語』を広めました。それでこの人を”『平家物語』の中興の祖”といいます。平曲の弟子に城玄と如一の二人があり、城玄の系統を八坂流、如一の系統を一方<いちかた>流といいます。

目の不自由な人の多くは「城*」もしくは「*一」と名乗ることが多いのですが、それは城一に由来します。

如一の弟子が明石覚一です。足利将軍家の血縁といいますが、同時代資料ではないので、ぼくは疑わしいと思います。

彼がのちの『平家物語』のスタンダードともいうべき「覚一本」をまとめました。また彼は自分の屋敷に「当道座」を設立して、明石検校を名乗り、江戸時代まで続く検校制度を確立しました。

「当道座」には「座頭」の官も


「当道座」というのは目の不自由な人の互助組織です。

盲人の地位向上や生業の安定に貢献し、琵琶、平曲、箏曲、鍼灸、按摩などの技能を師匠から弟子へ伝える教育機関でもありました。

上から順に、検校、別当、勾当、座頭の官を置き、その内訳は16階と73刻みの位階で構成されたといいますが、実際に意味があったのは、あくまで検校以下の4官でしょう。上流貴族の久我家の庇護を受けています。

子母沢寛原作の「座頭市」はフィクションですが、こう見ていくと、よく考えられた名であることが分かります。

生没年や経歴は“ナゾ”の鳥山検校


その当道関係のものが含まれている久我家の文書。國學院大學に所蔵されている、貴重な歴史資料です。

ちなみに久我家の読みは<こが>。村上源氏の中心的な家で、当主は太政大臣に昇進する事例があります。

また女優の久我美子さんは侯爵・久我通顕さんのご長女。通顕さんはお嬢さんが女優になることに難色を示しましたが、「こが」でなく「くが」と名乗ることを条件に許可したそうです。

ああっと、つい中世史研究者としての興味ゆえに筆が滑りました。そろそろ鳥山検校について説明しましょう。

そもそもこの人、実在はしたのでしょうが、生没年や経歴は“ナゾ”。江戸っ子の噂話の中に登場してくる人物です。

江戸幕府は当道座を公認し、税金を免除しました。このため、盲人の中には、芸能・鍼灸以外に「官金」と呼ばれる金融業に従事する者が現れました。

鳥山検校はまさにその代表で、高利でカネを貸し付け、乱暴者を雇って取り立てを行い、莫大な財力を手に入れました。

瀬川の身請けが物語の題材になるも…


安永4年(1775年)、検校は吉原の花の井/五代目瀬川を身請けしました。それにかかった費用は1400両と言われます。現在の金額でいうと1億4000万円ほどでしょうか。

もちろん、当時としてもとんでもない高額でしたので、江戸中で噂になりました。それで多くの戯作者が、この一件を物語の題材として取り上げたわけです。

たとえば安永7年(1778年)、田螺金魚<たにしきんぎょ>は、「契情買虎之巻<けいせいかいとらのまき>」を書きました。伊庭可笑、十返舎一九も作品を世に出しています。

しかし身請けしてからしばらく、検校はある事件で摘発されて幕府から取り調べを受けることに…。

ドラマでも描かれるであろうこの一件、かつて瀬川と慕い合った男として蔦重はどう関わっていくのでしょうか? 今後の展開に注目です。

婦人公論.jp

「べらぼう」をもっと詳しく

「べらぼう」のニュース

「べらぼう」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ