ドイツに70年代に移住した日本人アーティストが描く「ここではないどこか」とは

3月23日(土)11時0分 文春オンライン

 つくり手の生み出した世界に浸り切って、「ここではないどこか」としか呼べない空間で、しばし遊ぶことができる——。それが展覧会の醍醐味だとすれば、国立新美術館で開催中の「イケムラレイコ 土と星 Our Planet」展は、いま最も展覧会のおもしろさを味わえる空間といっていい。



イケムラレイコ《頭から生えた木》 2015 年 個人蔵


純真な少女や、黄泉の国を思わせる風景


 日本に生まれたイケムラレイコは1970年代にスペインへ渡り、スイスを経て、ドイツへと移り拠点を築き、創作活動を続けてきた。


 いつの時期も作品を生み出してきたけれど、何を用いてどんなものをつくるかは、そのときどきによってまったく異なる。油彩、水彩、彫刻、版画、写真、そして詩まで手がけ、モチーフもときに動物がたくさん現れたり、純真そうな少女や、黄泉の国もかくやと思わせる畏れに満ちた風景だったりもする。




「イケムラじるし」とはなにか


 それでもどの作品にも、ひと目で「イケムラ作品だろう」と感じさせるところが必ずあるのは不思議だ。「イケムラじるし」となっている特長とは何かといえば、おそらくはどんなものにも捉われないスケールの大きさのようなもの。イケムラが生み出す人物像はいつも、どこのだれかを特定する手がかりがまったくない。彼女が描き出す風景もいつの時代の、どこの国・地域のそれか見当もつかない。


 作品と向かい合っていると、そんな細かいことを気にする必要は感じなくなってくる。イケムラは作品を生むときに、きっと地球全体で起こっていることを意識しているし、時間軸だって人類史全体、いや生命史を見渡して、描こうとする思いにぴったりのものを探している。それで作品に触れる側も、自分自身という個人を超えて、自我を忘れた境地に至れるのだ。



道を見失わないような工夫


 今展はイケムラレイコの全体像を示すべく、ごく初期のものから最近作まで、あらゆる時期の創作が並ぶ。その数、200点以上。壮観のひとことではあるものの、そんなに膨大な作品を一挙に浴びて、観る側としては受け止められるかどうか、ちょっと心配になってしまう。





 が、そこはよくよく趣向が凝らされているのでだいじょうぶ。展示は「少女」「アマゾン」「有機と無機」「炎」「メメント・モリ」「コスミックスケープ」などと名付けられた16のテーマに分かれ構成されている。イケムラが表現においてこれまで探求してきたことがしっかり整理され、網羅してあるので、道を見失うことはなさそう。


 導線が複数あって、各テーマの展示を自在に行き来できるのもうれしい。観る側は思うがまま気の向くままに、大空間を逍遥すればいい。イケムラレイコがつくり出した豊穣な世界で、存分に想像の翼を広げたい。



(山内 宏泰)

文春オンライン

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