世界選手権プレーオフ進出 カーリング歴7年の北澤育恵は「まだまだ伸びる」

3月23日(土)13時30分 文春オンライン

 デンマーク・シルケボーで行われているカーリングの世界選手権。日本代表の中部電力はラウンドロビン(予選リーグ)を6勝6敗の6位で終え、6枠のプレーオフにぎりぎり滑り込んだ。


 リードの石郷岡葉純、スキップの中嶋星奈、フォースの北澤育恵ら3選手にとっては初の世界戦だが、緊張を感じさせないプレーでチームを牽引する。躍進の理由と準々決勝のロシア戦の展望について、現地で観戦する両角公佑の解説から紐解く。



ストーンを投じるスキップの中島星奈(中央)、スイープするサードの松村千秋(右)とリードの石郷岡葉純(左) ©AFLO


「3人は初めての世界戦とは思えない」


「みんな伸び伸びと楽しそうに、いいカーリングしてますよ」


 6勝6敗のタイで終えたラウンドロビンを総括するのは、平昌五輪の男子代表で、現地でテレビ解説をしている両角公佑(ANAビジネスソリューション)だ。この秋から中部電力のコーチに就任した両角友佑の実弟でもある。


「もちろん、世界戦ですから勝ったり負けたりです。でも、どの試合も自分たちのゲームをやり切って、あるいはトライしての結果ですから、敗戦にも引きずられることなく、うまく切り替えていますね。特に年下3人は初めての世界戦とは思えないです。僕とは違って」


 両角公自身、初めての世界戦では「普通と思っていたんですけど、それも分からないくらい緊張していたんでしょうね」と1投目のガードストーンが、遥かにハウスを超えてしまった苦い経験があるという。



バックアップは万全と言っていい


 確かに中部電力の若い3人、石郷岡、中嶋、北澤は特にリラックスしてゲームに向き合えている印象だ。ミスは出るが、攻めた結果のものが多く、ショットのミスをスイープで取り返すといった場面も散見する。緊張感はあるが、必要以上に硬くはなっていない。


 理由はいくつもある。コーチボックスにはチーム最年長の清水絵美と、男子トップ選手の両角友、ナショナルコーチのJ.D.リンドが揃い、地元軽井沢からは平昌五輪の男子チームに帯同した鵜沢将司トレーナーが来てくれた。戦術面、フィジカル面、メンタル面でのバックアップは万全と言っていい。


 さらに中部電力の勝野哲社長以下十数人が、0泊3日の超弾丸ツアーを組んで現地応援に訪れた。日の丸が振られるスタンドに向かって選手が笑顔で手を振る、ホームに近い雰囲気でゲームに集中できている。



ロンドンの和食シェフを招聘し、ミニ選手村に


 アイス外のサポート、特に食事はこれまでにないほど充実している。日本代表のオフィシャルスポンサーである全農がチームを組んで現地に派遣した。会場近隣のレストランを貸し切り、そこにロンドンの人気和食店「TOKIMEITĒ」からシェフを招き、A5ランクの黒毛和牛をはじめ国内外の厳選した食材で、牛カツ、ハンバーグ、ビーフカレーなどのメニューを連日、提供した。ほとんどミニ選手村のような様相だ。


 予選から決勝まで最長9日間を戦い抜く世界選手権のような長丁場では、食事はネックになりがちだ。大会に入ってしまうと限られた時間しかなく、疲労も蓄積する中で買い出しに行ったり、自炊をする時間はなかなか取りにくい。かといって栄養を補給しないとパフォーマンスに影響する。


 両角友コーチは「時間を効果的に使いながら、食事そのものが大会中の楽しみになる。これまでの世界選手権でもっとも恵まれた支援なのでは」と感謝しつつ、自身のTwitterで「日本でもこんなに美味しい牛カツを食べたことがありません」などと紹介した。多くの人のサポートと期待に結果で応えた中部電力が、いよいよノックアウトステージの決勝ラウンドに挑む。



両角兄弟が太鼓判を押す、北澤育恵というタレント


 3月23日17時(現地時間9時)に開始する準々決勝は、ラウンドロビン3位だったロシアとの対戦だ。


 予選では4-8のスコアで敗れているが、ショット率は日本が76%、ロシアが79%とそこまで開きはない。両角公は展望を語ってくれた。


「今回のロシア代表、チーム・コバレワはジュニアの世界選手権、欧州選手権を制したことのあるチームで、世界選手権でも2016年に銅、翌17年には銀メダルを獲得している、年齢的にもキャリア的にも旬のチームです。予選でも負けていますし、正直、格上かもしれません。でも、だからこそ今の中部電力のリラックスした状態で打ち合って欲しい。


 仮に負けてしまったとしても、それでも彼女たちにとって非常に有意義な経験であることは間違いありません。この先は何が起こるか分かりませんし、何が起こってもプラスにしかならない。リスクとリターンのバランスさえしっかり見極めれば、チャンスは十分にあります」




「特筆すべきは彼女のカーリング歴です」


 ラウンドロビンの結果をおさらいすると、1位から順にスウェーデン、韓国、ロシア、スイス、中国、日本だ。中国以外には勝てていない日本だが、ポジティブに解釈すると開き直って挑戦者のメンタルで向かいやすいのではないか。


 また、両角公はフォースの北澤育恵のパフォーマンスについても言及する。


「最初は良くて、中盤ちょっと調子が落ちたんですけど、最終日、特に中国戦では難易度の高いフォースながら99%のショット率を残しました。日本選手権の時のような“育恵無双”状態ですね。


 ムラさえなくして高いパフォーマンスを維持できれば世界のトップとも互角以上の存在になると思うのですが、特筆すべきは彼女のカーリング歴で、まだ7年です。この先が恐ろしいですよね。『こうしろ』と決して言わず、自分で考えさせ、結論を導くようなアドバイスをする名コーチもついたみたいだし、来季以降も楽しみなタレントです」



あとは下克上だ


 その名コーチ、兄の両角友の北澤評が、奇しくも弟のコメントを裏付けている。


「テイクの技術は本当に高い。だから昨季までは自分の投げたいショット、自信あるショットを中心に投げていた印象でした。僕はコーチとしてあくまで選択肢としてドローのラインを挙げてきました。彼女はそれを投げる時もあれば、投げない時もある。


 コーチ席から試合を観てても『俺ならそのウェイトでそこには投げないだろうな』と思うことも正直、あります。でも、最後に投げる人は、選択肢さえ頭にあれば投げたいショットを投げる。特に今はそれで勝てているので、OKです。決まらなくなった時、勝てなくなった時にまたみんなで考えればいい。育恵もチームもこれからまた伸びると思いますよ」



 世界選手権の6位以上は確定した。あとは下克上だ。仮に今季、勝てなくても来季以降に伸びる根拠も十分にある。無欲でしかし貪欲に、残りのゲームを楽しんで欲しい。



(竹田 聡一郎)

文春オンライン

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