亀田誠治が語る音楽シーンの危機感「若いアーティストの苛酷な状況を改善したい」

3月24日(日)9時0分 オリコン

長らく音楽業界の第一線で活躍し続ける、音楽プロデューサーでベーシストの亀田誠治氏 (撮影:西岡義弘)

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 昨年、編曲を手がけたMISIA「アイノカタチfeat.HIDE(GReeeeN)」がロングセールスを記録するなど、長らく音楽業界の第一線で活躍し続ける音楽プロデューサーでベーシストの亀田誠治氏。プレイヤーとして活躍する一方、文化継承や人材育成など、良質な音楽を次の世代につないでいくための活動にも尽力している。時代とともに音楽を取り巻く環境は様変わりしているが、今のシーンに対してどのような思いを抱いているのだろうか。

◆今はヒットが点在する時代、流行歌が生まれにくい環境ではない

——平成という時代は、音楽業界にとって激動の時代だったように思います。振り返って亀田さんは今の音楽シーンをどう捉えていますか?
【亀田】 ネットで音楽を聴き、情報を得て育った世代が登場したことが一番大きな変化でしょう。それにより音楽の聴き方や在り方が多様化しましたから。古い音楽を遡ることができることで、OKAMOTO’STHE BAWDIESなど1950〜70年代の音楽をルーツに持つバンドが登場し、米津玄師を筆頭に、サウンドからビジュアルまでセルフプロデュースできる新時代のミュージシャンも次々と登場しています。それはネットの普及による教育的な裾野の広がりだと思うし、その恩恵は計りしれない。その状況は若者の音楽環境を豊かにしているはずです。一部では、ネットの普及によって音楽を聴く時間が奪われたとも言われていますが、僕はむしろ人々が音楽に触れる機会は増えていると感じます。

——椎名林檎さんや平井堅さん、大原櫻子さんなど、さまざまなヒットに携わっていらっしゃいますが、「ヒット」について時代を経て感じることは?
【亀田】 すべての年齢層、幅広いジャンルを網羅するヒット曲が生まれづらくなっているのは確か。ですが、決してヒット曲が生まれないというわけではなく、ある層に集中的に届いている楽曲、ネット上でバズっている楽曲など、今はいろいろなヒット曲が点在する時代なのだと思います。

◆制作費の削減で現場が疲弊、打開のカギはストリーミングに

——海外と比べ日本はストリーミング(SpotifyやLINE MUSICなどの定額制音楽サービス)の普及が遅れています。普及によってアーティストが利益を得づらくなるのではという指摘もありますが、ストリーミングについてどうお考えですか?
【亀田】 僕はストリーミング推奨派なので、その立場からお話ししますね。マーケットの縮小により、アーティストに利益が還元されないことも大きな問題ですが、それ以前に制作費の削減によって現場が疲弊していることを指摘したいです。僕が関わっている現場でも制作費は数年前に比べ、平均的に1/3くらいカットされていますが、このままでは作品のクオリティが担保できなくなる。さらに良くないのが、「それが当たり前」「しょうがない」という風潮がまん延していること。若いアーティストはもっと苛酷な状況に追い込まれているので、僕が先陣を切ってこの状況を改善したいと思っています。そういったなかで、ストリーミングは大きな可能性を秘めていると思います。世界的にもその勢いを止めることはできないし、ストリーミングに対抗する手を打とうなんて愚の骨頂。そうではなく、日本でももっと浸透するように努力すべきです。

——ストリーミングが浸透すれば、日本の音楽業界の問題も改善できる?
【亀田】 そう思います。日本では月額1000円程度ですが、その価値が浸透し加入者が増えれば、音楽業界全体にお金が行き渡るはずです。ですが、現状は加入者があまりにも少ないので、すべての音楽関係者に対して「ストリーミングに楽曲を解放して、新しい扉を開けませんか?」と言いたいです。制作費削減の問題もそうですが、多くの利益を得たミュージシャンが次世代や弱者のために動く、上から下に向けた音楽の流れを作ることはとても大事ですよね。

——ストリーミングの広がりによって、アルバムの価値が下がる、という一部の見解についてはいかがですか。
【亀田】 僕の考えはまったく逆で、ストリーミングの浸透によって、アルバムの意味合いはさらに強まると思っています。実はCDアルバムのほうが没個性的になっていて、たとえば最近CDの帯や資料を見ると、タイアップやコラボ情報ばかりで「売り文句はそれか?」と感じることが多々あります。そういう作り方こそ、アルバムをつまらなくしている理由ではないでしょうか。ストリーミングはむしろ、コンセプチュアルな作品を発表しやすいんですよ。ビヨンセとジェイ・Zの『Everything Is Love』もそうですが、しっかりとしたコンセプトやストーリー性のあるアルバムは今後増えていくと思います。できれば、楽曲に関わっているミュージシャン、プロデューサー、デザイナー、スタジオなどのクレジットを各プラットフォームで掲載してほしいですね。そういう情報を求めている音楽ファンは多いはずだし、次の世代の音楽関係者を育てることにもつながるはずです。

◆複数のクリエイターで楽曲を作る「コライト」の重要性

——海外と日本とでの“音質の差”について感じることはありますか。聴き比べると、クオリティにかなり違いがあるという話もあります。
【亀田】 実際、差はあると思います。その原因の1つは、楽曲制作の方法。海外は複数のクリエイターがコライトで作るケースが多いんですね。僕も毎年、L.A.でコライトの制作に参加していますが、トラックプロデューサー、メロディーや歌詞を考えるトップライナーなどが集まって一気に曲を作り上げる。そのスピード感やクリエイター同士のケミストリーがそのままサウンドのエネルギーにつながっているんですよね。もう1つは、海外のボーカリストの歌の上手さ。歌が良ければ音数を少なくできるし、そのぶんキックやベースの音を太くできます。日本の場合、たくさんの音を使って歌を飾ることによって逆に音の解像度が落ちてしまう。まずは、コライトを日本でももっと浸透させたいですね。日本ではシンガー・ソングライター信仰というか、“等身大の言葉を歌わせたい”という考えが強いですが、それより大事なのは、質の高い楽曲を作ることです。

——音楽シーンの変化に伴い、メジャーレーベルとアーティストとの関係が変わっていくことも予想されます。
【亀田】 そうですね。ただ、レーベルの伝統は大事にしてほしいと思っています。僕が愛してやまないEMIもそうですが、そこには脈々と受け継がれてきた歴史、刻まれた音楽のDNAがあって。それはとても尊いものだし、守らなくてはいけないと思います。良いアーティストを輩出するためには、特にA&R(アーティスト・アンド・レパートリーの略で、アーティストの発掘、契約、育成から楽曲の制作、宣伝までトータルで担当するプロデューサー)の存在、育成も重要です。ただ、近年はコストカット等の影響もあって、1人のスタッフが担当するアーティストの数が飽和している。一方では、働き方改革の流れもあって、アーティストとの関わりが薄くなる悪循環に陥っている。それも今後の課題だと思います。

◆人材育成で大切なのは「“成功体験」をさせてあげること

——亀田さんは音楽を総合的に教える亀田大学をWebで展開したり、業界に関心を持つ若者に講演を行ったり、若者との交流にも積極的です。
【亀田】 Eテレの『亀田音楽専門学校』やJ-WAVEの『BEHIND THE MELODY〜FM KAMEDA -』もそうですが、自分のノウハウを次の世代に渡す活動は常に行っています。それは音楽業界を志す若い人たちに、本物の良い音楽を作ってほしいという気持ちが強くあるからです。そのためには、教育が必要で。座学ではなく、現場で経験した音楽体験を惜しみなく伝えていきたいですね。僕自身がいろいろな世代の人たちと交わりながら、世代をつなぐのがミッションだとも思っています。

——音楽業界を目指す次の世代に向けたアプローチも必要ですよね。
【亀田】 若い人たちにとっては、音楽業界の大変さしか見えてないのかもしれないですね。それを解消するためには、ライブやレコーディング現場で、成功体験をさせてあげることかなと。音楽で人が感動している瞬間を早い時期に体験することが、モチベーションにつながると思うので。優れた人材を確保しているIT業界に見習うべきところがあるでしょうね。たとえばダブルワークの推奨、在宅勤務などもそうですが、今の若者の幸せの価値観に則した働き方があるはずだし、それを音楽業界も積極的に取り入れるべき。とは言え、頑張らないといけないことも多いんですが(笑)、まさにそこがポイントだと思うんです。よくアーティストやマネージメントの方にも言うのですが、「頑張らないといけない時期はある。だけど、心と体を壊してはいけない」と。今のアーティストは本当に苛酷ですからね。心身のケアは今後、さらに重要になってくると思います。

——この先、音楽業界発展のために考えていらっしゃることはありますか?
【亀田】 先ほどから申し上げているように、とにかく大切なのは音楽の素晴らしさを伝えていくこと。そこで僕は、6月1日、2日に『日比谷音楽祭』を開催することにしました。これは親子3世代で楽しめ、そしてフリーで誰もが参加できるボーダレスな音楽祭です。いろいろな音楽の魅力に、もっと気軽に触れられる“場”を作る。そこで音楽に触れた人が、もっと音楽を楽しむようになる。そんな、リアルに音楽と触れ合うきっかけを、皆の力で作りたいと考えています。

文/森朋之、写真/西岡義弘

●Profile/かめだ せいじ
 1964年、アメリカ、ニューヨーク生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、エレファントカシマシ、大原櫻子、GLIM SPANKY、山本彩、石川さゆり、D-LITE、SKY-HI、東京スカパラダイスオーケストラ、MISIAなど、数々のアーティストのプロデュース、アレンジを手がけている。『日本レコード大賞』では、07年の第49回(平井堅「哀歌」、アンジェラ・アキ「サクラ色」)、15年の第57回(いきものがかり「あなた」、大原櫻子「瞳」)で編曲賞を受賞している。04年には椎名林檎らと東京事変を結成し、12年閏日に解散。09年、13年には自身の主催イベント『亀の恩返し』を武道館にて開催。近年は自身が校長となり、J-POPの魅力をその構造とともに解説する音楽教養番組『亀田音楽専門学校』(Eテレ)シリーズも大きな反響を呼んだ。14年に、週刊エンタテインメントビジネス誌『コンフィデンス』で執筆した過去12年間分のコラム連載から厳選した書籍『カメダ式J-POP評論 ヒットの理由』を発売。

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