樹木希林、20歳の五代目・中村勘九郎と語った<男と女>「女にやさしさを感じるときって、どんなとき」「何でもやさしいと思っちゃうから」

2025年3月25日(火)12時30分 婦人公論.jp


1976年頃、樹木希林さん(悠木千帆)と五代目・中村勘九郎さん(当時)(『人生、上出来 増補版 心底惚れた』より)

樹木希林さんが悠木千帆の名前で活動していた1976年、当時の男性著名人との対談連載が雑誌『婦人公論』で始まりました。30代前半の希林さんだからこそ聞けた、才人たちとの「男と女」にまつわる深い話。そして2025年3月、連載と新たに未公開インタビューを収録した『人生、上出来 増補版 心底惚れた』が刊行に。今回は、当時20歳だった五代目・中村勘九郎さんとの対談から一部抜粋してお届けします。

* * * * * * *

●五代目・中村 勘九郎(なかむら かんくろう)/歌舞伎役者
1955(昭和30)年5月30日東京都生まれ。59年、五代目中村勘九郎の名で初舞台。2005年、十八代目中村勘三郎を襲名。祖父と父の芸を継承し、古典から新歌舞伎までどんな役でも魅せる一方で、「コクーン歌舞伎」や「平成中村座」を立ち上げ、意欲的に新作に取り組んだ。芸術祭賞、第52回菊池寛賞、紫綬褒章、ジョン・F・ケネディセンター芸術金賞ほか受賞多数。12年12月5日死去。享年57。対談当時は20歳。この4年後、歌舞伎役者・七代目中村芝翫の次女好江と結婚。

女ってこわくないですか


悠木 今までフリーになったときあります。だれもいないときって。

勘九郎 ないですね。

悠木 やっぱり何となくダブっている。

勘九郎 そうですね。

悠木 それは女は平気なのよ。一瞬の空白というの持てるのね。男の人のほとんどは、みんなダブっている。それ見ると男というのは弱いものなんだって思うの。

勘九郎 そういう感じしますね。男のほうが何かかわいい感じ。ぼくが男だから言うのはおかしいけれども、何でも女の人って間違えたことあんまり言わないところあるんですよね。ぼくのほうがこけたり。それは絶対。

悠木 それを辻つま合わせようとするでしょう、男のほうが。

勘九郎 こけたのに、居直ってね。

悠木 もとのところが間違っているのにね。そういう迫力っていうの感じると、ますます女ってこわくないですか。それとは別に惚れますか。

勘九郎 そうですね。たとえば何かやって負けるでしょう。そうするとカッときておこるでしょう。わざと負けてくれたりする人がいるわけです。そういうのはとてもいやなわけ。こっちはおこっているのに、勝つ。そうすると、ああ、いいなと思う。

女にやさしさを感じるとき


悠木 最近、人のやさしさについてときどき考えるんだけど、女にやさしさを感じるときって、どんなとき。


『人生、上出来 増補版 心底惚れた』(著:樹木希林/中央公論新社)

勘九郎 そうですね、どういうときかな。自分が間違えたことをしているとわかっているでしょう。それでも押し通そうとしているときに、それは違うといわれたとき。とても、ああ、すごくやさしいなと思うんですね。間違えているときにいい顔して「そうね」ってあいづち打たれると、ひねくれているから。

悠木 でも、あとで傷つくものね、それが間違っていたと知ったときにね。

勘九郎 そのときはカチンとくるけれども、よく考えてみるとやっぱりやさしいなと思うんですよね。だから、芝居でも、けなされると、何か信じられるみたいな。それはまたちょっと考えすぎかもしれないけれども。

悠木 まあ、ほんとのことを言ってくれる人が。

勘九郎 ……人がいちばん自分を好きになってくれているような気がするわけですよね。

悠木 それは人のやさしさで、女というふうに特別感じたことはない? ああ、これは女のやさしさだなというふうに。

勘九郎 そうですね、何でもやさしいと思っちゃうから、フフフフ。


『人生、上出来 増補版 心底惚れた』より

何かあるんじゃないかと大学へ


悠木 いま学生? どこの。

勘九郎 國學院です。大学に行こうと思ったのは、何かあるんじゃないかと思って。好奇心が強いから、それで入ったわけですよ。友だちを見つけたい。勉強よりも。でも、未だに誘いの電話があったり、夜飲みに行ったりするのは、みんな高校の友だちですね。

悠木 珍しいですね。たいがい大学で友だちができるんだけれども。じゃ、ほとんど学校は、行かないときのほうが多いのね。

勘九郎 ええ、ことしになってからは……。去年は行きました。

悠木 それは大学で勉強する期間、惚れた人と一緒にいたほうがものにはなりますね(笑)。

勘九郎 なるほどね。

悠木 だって、何にもならないもの。行ってただ勉強しているよりはね、そのほうが人間も見られるし、すてきな発見もあるんだろうなと思う。

※本稿は、『人生、上出来 増補版 心底惚れた』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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