テレビ解説者・木村隆志のヨミトキ 第90回 新番組『タミ様のお告げ』スタート “ベテラン回帰”と“若手・中堅の抜てき”で揺れる現状が浮き彫りに

2025年3月25日(火)11時33分 マイナビニュース


ダウンタウン中居正広氏が不在の中…
24日夜、新番組『タミ様のお告げ』(TBS系、毎週月曜21:00〜)がスタートした。本来、新番組であれば月をまたいで4月にスタートするものだが、前倒しされたところにこの番組の置かれた難しさがうかがえる。
冒頭でMCのヒロミが「新番組ですか?」、東野幸治が「“心機一転”というか新しい感じで楽しくやりたいですよね」と語っていたが、これは2人の偽らざる本音だろう。昨秋にスタートしたばかりの『THE MC3』が中居正広氏の女性トラブルと芸能界引退の影響を受けて事実上の打ち切り。TBSはヒロミと東野に新たなMCを加えた“トリプルMC”ではなく、“ダブルMC”としてリニューアルする形を選んだことになる。
果たして新番組はどんな内容で、どんな変化が見られるのか。ひいては、現在60歳のヒロミや57歳の東野らベテランMCの現在地点についても、テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
○前番組からほぼ内容は変わらず
『タミ様のお告げ』のコンセプトは「明日の自分のためにタミ様(国民)のホンネを聞く日本一“余計なお世話バラエティ”。
最初に「タミ様1000人に聞いた! 余計なお世話ランキング! これならランクイン」というゲストが自ら考えたアンケートの結果を発表するコーナーが放送された。まず、あのが「声が特徴的な芸能人といえば」、続いて松田元太が「令和最新!天然タレントランキング」で相次いで1位を獲得。旬のタレントを押し出したことで、スタジオが新番組にふさわしい華やかなムードに包まれた。
続いて放送されたのは「タミ様の気持ちがわかるはずランキング!」と題してゲストがランキング1位を当てるクイズパート。「夫にイラっとする瞬間ランキング」にママタレの藤本美貴が挑む様子が放送され、番組は終了した。
あらためて『THE MC3』を振り返ると、当初はMCの3人を全面的にフィーチャーしていたが、わずか放送数回でゲストメインの構成に変更。最後の放送となった昨年12月9日も「1000人に聞いた! 余計なお世話ランキング! これならランクイン」などが放送されたが、アンケート規模も街頭インタビューの多用も『タミ様のお告げ』の初回とほぼ同じだった。
つまり、「番組名やスタジオなどは変わったものの、中身は中居氏の不在以外あまり変わっていない」ということ。これは制作サイドが昨年12月までの放送に一定の手応えを得ていたことの裏付けであり、だからこそ「MCが3人から2人にスケールダウンしてもいけるのではないか」という決断に至ったのかもしれない。
○1000人アンケート継続の難しさ
ただ、この手のアンケート番組は昭和時代から平成にかけてしばしば見られたコンセプトであり、令和の現在に合わせて採り入れた試みは見当たらなかった。そもそも『THE MC3』は「シンプルなアンケート企画だけでは厳しいから、大物MCを3人も集めてその個性で独自色をつけようとした」のではないか。
番組スタートにあたってヒロミは「いろんなゲストの方が来てくれるので、タミ様の意見をみんなで一喜一憂しながら、楽しく長く続けられる番組にしていけたらなと思います」などとコメントしていた。これは「アンケートというシンプルな構成のため、ゲストの人選で引きつけていかなければ難しい」ことへの警鐘に見えてしまう。
また、『1億2千万人アンケート』というサブタイトルがつけられているが、これはさすがに大げさと言わざるを得ない。SNSが発達した現在、このようなネーミングは「大風呂敷」とみなされ、批判のきっかけに利用されるリスクがつきまとう。
それどころか1,000人規模のアンケートでも継続していけるのか。街頭インタビューの多用も現場スタッフを疲弊させる構成だけに不安が募る。それでもこれを減らすと「調査人数の不正を疑われかねない」という難しさがあり、スタッフサイドの工夫と挑戦、努力と忍耐が求められることは間違いない。
●昨秋の改編でベテラン回帰の流れ
では、ヒロミや東野らベテランMCはどんな状況に立たされているのか。
半年前の昨秋、各局は番組改編でベテランの起用を進めていた。TBSはかまいたちら中堅芸人を集めた『ジョンソン』を終了させて中居氏、東野、ヒロミの『THE MC3』に切り替えたほか、生瀬勝久の『それって実際どうなの会』のレギュラー放送をスタート。フジテレビも新番組『この世界は1ダフル』のMCに東野、『ザ・共通テン!』のMCにヒロミを起用、テレビ朝日も有働由美子の冠番組『有働Times』をスタートさせた。
TBSはターゲット層の上限を引き上げた新指標「LTV4−59」(4歳〜59歳の個人視聴率)を導入。さらに日テレもコア(13〜49歳)に振り切っていた評価指標に個人視聴率全体を再び組み入れ、フジも家族などで楽しめる「共視聴(複数人での視聴)」を掲げるなどターゲットを広げていた。相変わらずオールターゲット戦略のテレ朝も含め、民放主要4局は中高年層の個人視聴率を獲得するためにMCの年齢層を上げたという感がある。
ところがそんな「ベテラン回帰」を思わせる流れは半年後、早くも変化が見られた。
○新たなスターMCを育てる余裕なし
今春の改編で日テレは『Golden SixTONES』のレギュラー放送スタートと『千鳥かまいたちゴールデンアワー』のゴールデン進出。TBSは『ニノなのに』(MC・二宮和也)をスタート。いずれもベテランというより中堅を起用した様子がうかがえる。
評価基準が変わって、知名度・実績・安定感のあるベテランに頼れるようになったが、それで高視聴率が得られるほど簡単ではない。実際、業界内には「ベテラン回帰はローリスク、ローリターンになりやすい消極策」とみなすテレビマンもいる。
また、ダウンタウンが不在の上に、内村光良、今田耕司、爆笑問題、くりぃむしちゅー、バナナマン、サンドウィッチマン、有吉弘行ら50代・60代の人気MCは「すでにスケジュールがパンパン。あるいは起用済み」「健康面やモチベーション面の不安」から起用しづらいなどの背景も見逃せない。
やはり本来の理想はスポンサー受けのいいコア層の視聴者と同年代の30代・40代であり、わずか半年間で各局の起用方針が揺れ動いている様子がうかがえた。いずれにしても「新たなスターMCを育てる」という余裕はなく、実際にお笑い賞レースファイナリストからの起用はほぼ見られないという現実がある。
それは日ごろ『ラヴィット!』で若手・中堅芸人を大量起用しているTBSですら、ゴールデン・プライム帯でのMC起用がないことを見ればわかるのではないか。結局、「ベテラン回帰」とも「若手・中堅の抜てき」とも言えず煮え切らないような現状がバラエティの難しさを物語っている。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら

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