菊池寛が落語に… 春風亭小朝の親しみやすい語り口が活きる

3月25日(日)16時0分 NEWSポストセブン

春風亭小朝の魅力を落語通が語る

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 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、若い頃から落語の天才と呼ばれ、近年、小説家・劇作家である菊池寛の作品を新作落語にする試みを続けている春風亭小朝についてお届けする。


 * * *

 2月1日、新宿・紀伊國屋ホールで「春風亭小朝独演会 菊池寛が落語になる日 VOL.6」を観た。小朝は2016年からこの会で菊池寛の短編を新作落語にするという試みを続けており、過去5回で計10作品が披露されている。国定忠治を題材にした菊池寛の短編『入れ札』を読んで「これは落語になる」と思ったのがきっかけだという。


 1席目は、女たらしの伯龍という漁師が、三保の松原で手に入れた羽衣をかたに、3ヵ月の約束で天女を妻にする『羽衣』。


 天女の素晴らしい肉体に溺れた伯龍だが、家事が何ひとつできないことに、次第に嫌気が差す。「羽衣を返すから出て行ってくれ」と言っても「約束は破れない」と天女は3ヵ月居座った。これに懲りた伯龍は、天女が帰った後しばらくは女を寄せつけなかった……というのが同名の菊池寛作品だが、小朝はその後の伯龍に天女とは正反対の後妻を娶らせ、すぐに「やっぱり天女が懐かしい」と後悔させる。


 このあたりに小朝の男女観が表われているようで、面白い。最後は落語らしいオチがついて笑わせた。


 2席目は、クーデターで長安を脱出した唐の玄宗皇帝が味方の兵士たちの要求で愛妾の楊貴妃を死なせる『楊貴妃』。


 容貌の衰えを苦にして自ら死を選ぶ楊貴妃、最愛の楊貴妃を失ってみると心の重石が取れたような心持になる玄宗。ギャグをちりばめ、地の軽妙な語りを駆使して落語化しているが、基本的には菊池寛の『玄宗の心持』そのままだ。ただし、その史実を振り返る現代の場面でサゲるのは小朝オリジナル。


 3席目は一転して古典で『芝浜』。「三木助〜談志」型の演出だが主人公は勝五郎ではなく金太、拾う金は50両。冒頭「芝三縁山増上寺は徳川家の菩提寺で……」と芝の魚河岸を説明してから夫婦の会話に入り、魚屋が家を出て河岸に着くまでの経路を道中付けのように語るのが印象的。


 3年後の大晦日、真実を打ち明けた後で女房に「お詫びのしるしだから」と酒を勧められた亭主が、除夜の鐘を聴きながら「俺な、お前と一緒になるとき大家さんに言われたんだ。『金公、いい女房もらったな、年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せっていうくらいだからな』って。そのときはわからなかったけど、今ようやくそれがわかったよ。俺は幸せ者だ」としみじみ言うのは小朝ならではのいい演出だ。


 全編軽やかなトーンで笑いを交えて演じた『芝浜』も良かったが、やはり前半の「菊池寛落語」の印象が強く残った。小朝の真骨頂は親しみやすい語り口の地噺にこそある。「菊池寛が落語になる日」は、その持ち味を存分に活かした好企画だ。


●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。


※週刊ポスト2018年3月23・30日号

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