バイプレイヤーの泉 第152回 森本慎太郎 - 見た目はアイドルなのに、演じると昭和風で良き不均衡さを保ち続ける
2025年3月26日(水)7時0分 マイナビニュース
コラムニストの小林久乃が、ドラマや映画などで活躍する俳優たちについて考えていく、連載企画『バイプレイヤーの泉』。
第152回はタレントの森本慎太郎さん(SixTONES)について。冬ドラマの『アイシー〜瞬間記憶捜査・柊班〜』(フジテレビ系)で、刑事役の森本さんの姿を見た。見た目はアイドルのはずなのに、役にハマり込みすぎているのか、どうにも『太陽にほえろ!』の出演者にしか見えない。本作に限ったことではなく、彼の演じる役は端正な顔立ちを完膚なきまでに叩き壊す、独特な役柄が多いように思う。
少し前まで「ガタイが良くて、イケメン」の俳優領域は、同じ所属事務所にいた先輩・長瀬智也の専売特許だった。それを引き継いだのが彼なのかもしれない。そんな不均衡さを保ち続ける、森本さんがこれまで演じた役をいくつか振り返る。
○ガタイのいい先輩から、全身タトゥーの労働者まで
これまでに私が仕事でお会いした男性アイドルのみなさまは、皆一様に顔が小さく、細身で、女性用の衣装をすんなりと着こなしてしまう体型だった。そのサイズ感に慣れてしまったせいか、初めてSixTONESの高身長ぶりを目の当たりにしたときは「あ、大きい……」と、心で声が漏れるほど。グループ内でも森本さんはさらに筋肉があるので、体つきはその辺の男性よりもたくましい。
例えば2018年放送『部活、好きじゃなきゃダメですか?』(日本テレビ系)での、一色役。同じ所属事務所のアイドル軍がサッカー部員を演じていたものの、やはり姿見はヒョロヒョロと。その傍らで先輩の一色は肩幅も貫禄もあった。「誰だろう?」とクレジットを見て『GTO』(フジテレビ系・2012年)にも生徒役で出演していたことを知る。これが森本さんの第一印象だった。
翌年、いよいよ彼の真骨頂(?)となる、刑事役が回ってくる。『監察医 朝顔』(フジテレビ系)の森本琢磨役はシーズン2、スペシャルドラマもすべて、バイプレイヤーとして出演しているところが気持ち良い。初回から、本年放送までの数年間に彼はトップアイドルになったわけだが、役柄に関してはあくまでも初志貫徹。白い手袋をはめて現場を駆け回り、聞き込みを続ける姿はまさにスタント不要、特効上等の『西部警察』も彷彿させた。時代があと少しずれていたら、森本さんは石原プロの一員として、名物の炊き出しをしていたかもしれないと想起させる演技だった。
ただ森本さんは何も雰囲気が昭和風の刑事(デカ)、というだけではない。例えば体格を生かしたヤンキー役は、十八番の域。『ナンバMG5』(フジテレビ系・2022年)、映画『Gメン』(2023年)で見せた学生服姿の迫力は本当に怖かった。この姿が進化した役柄が映画『正体』の野々村和也だろうか。日雇い労働者で、全身タトゥーに金髪姿はもうワル以外の何ものでもない。おそらく新宿歌舞伎町を歩いていたら、スカウト軍に「おはようございます!」と挨拶されるはず。
○本人と見間違える、演技での"寄せ方"
恐怖心を煽るだけではなく、実在の人物に自分を寄せていく術も上手い。朝のニュース番組『ZIP!』(日本テレビ系)で、放送されていた『泳げ! ニシキゴイ』というドラマがあったことを覚えているだろうか。お笑いコンビ『錦鯉』の生い立ちから、M-1で優勝までを描いた内容だ。森本さんは長谷川雅紀役を演じ、最終的には本人に寄せて、スキンヘッドのヅラをかぶっていた。コントでもないのにアイドルが、スキンヘッドに……? この衝撃と朝ドラよりも短い、毎日5分間という放送時間が「明日も見なくては」という気持ちを煽っていた。実際に私は毎朝見てしまった。
『だが、情熱はある』(日本テレビ系・2023年)の山里亮太役も、件の長谷川役と同じく、本人と見間違えるほどの完成度。屈折した雰囲気が伝わるセリフの吐き方も、コンビを組んだ若林正恭(髙橋海人/King & Prince)との間合いも、ドラマそのもののスピード感もよく覚えている。この年、一番面白かったドラマだと各所でコラムを書き、コメントも話した。特に(失礼ながら)山ちゃんにそっくりになった森本さんに拍手を送りたいとも。
総じて、森本さんは役作りにかける熱量のリミッターが外れているのだと思う。でもそれが善悪で評するとすれば正しい。それが先ごろの『日本アカデミー賞 話題賞』受賞につながっているのだから、このまま邁進してほしい。ふつうの役ではいい男で終わってしまうので、とことん、癖のある役をどうか彼に。