まるで漫画みたい! 『パラサイト』ポン・ジュノ監督の「絵コンテ」が緻密すぎて驚いた

3月27日(金)18時0分 文春オンライン

『パラサイト 半地下の家族』が世界中の観客を魅了している。カンヌ国際映画祭で韓国映画として初の最高賞パルムドールを受賞、さらに第92回アカデミー賞で最多の4部門(作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞)を受賞。中でも作品賞受賞は、非英語映画初の快挙だ。


 日本の映画監督の中で、唯一、ポン・ジュノ監督の助監督を経験した人物がいる。


 昨春、『岬の兄妹』で自閉症の妹と兄の貧困や性を大胆に描き、「2019年最大の衝撃作」と話題をさらった片山慎三監督(39)だ。


 ポン・ジュノ監督の『TOKYO!〈シェイキング東京〉』(08年)、『母なる証明』(09年)の2作で助監督を務めた片山氏に、ポン・ジュノ監督の「創作の秘密」を語ってもらった。


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 これは、ポン・ジュノ監督が『母なる証明』の撮影に際して描いた絵コンテです。



 日本でも世界でも、これほど緻密に、全カットのシーンを描く監督は珍しいと思います。


『パラサイト』ではiPadで絵コンテを描いたそうですが、当時はまだ手描き。カメラの画が変わる1コマ、1コマを詳細に、まるで漫画のように描いていました。日本では、アクションなどの一部のシーンの絵コンテを描く監督はいましたが、全てを描く監督は初めてで、新鮮な驚きを感じました。


「このカットは君のおかげで撮れた」


『パラサイト』の脚本と絵コンテは本になっていて、昨年11月に監督にお会いした時にいただきました。映画の全場面に加え、『パラサイト』で描かれる裕福な家の断面図や、あるシーンでは登場人物の「血」がどのように役者にかかるかに至るまで、役者、スタッフの全員とイメージを緻密に共有していて、撮影前にここまで細部を作り込むのかと驚かされました。



片山慎三氏 ©文藝春秋


 僕は10代の終わりからテレビドラマの現場に入り、04年頃から助監督の仕事をするようになりました。その頃、日本ではテレビと映画の垣根がなくなり、映画がテレビドラマよりも低予算、短期間で作られることも珍しくなくなっていました。このままでは映画はダメになる。自分は映画を続けるべきか真剣に悩んでいました。


 韓国人の友人が『シェイキング東京』の現場に誘ってくれたのは、そんな時でした。



 監督は人を立てるのがとてもうまいんです。僕は『シェイキング東京』でエキストラへの指示出しをしましたが、ロケ地が坂道でエキストラをさばくのは大変でした。なんとか撮り終えた後、監督が僕に「This is your shot.」と声をかけてくれたんです。「このカットは君のおかげで撮れた」。これまで一緒に仕事をした監督から、そんな風に言われたことはなかったので、ちょっと感動してしまいました。


ポン・ジュノ監督の脚本料の使い道


「この監督はすごい」と心から感じたのは、作品にかける「姿勢」です。『シェイキング東京』は、セットではなく空き家で撮影したので、監督が思い描いていたカットを撮るには、勝手口を玄関にしなければなりませんでした。しかし、勝手口を玄関に見せるには美術費用がかさむので、プロデューサーが「ちょっと、予算が……。何とかなりませんか」と渋りはじめました。しかし、監督は穏やかに「私がお金を払いますから、やりましょう」ときっぱり断ったんです。結局、プロデューサーも「監督がそこまでいうなら」と、監督の言う通りに撮影することになりました。こうした監督の「男気」に、僕は感銘を受けました。



 日本ではヒットメーカーと呼ばれる監督でも、大作になるとバックにスポンサーやテレビ局がつき、作品をコントロールできなくなる。でも、ポン・ジュノ監督は、自分の理想に向かって全てをコントロールしようとしていたし、それが上手くいっていた。「こういう監督になら、なってみたい」。そう思ったんです。もし、ポン・ジュノ監督に出会っていなかったら、僕は映画を作ることをやめていたと思います。そういう意味で、監督は僕にとって恩人なんです。


 監督の映画に対する姿勢は今も変わっていません。『オクジャ/okja』(17年)で、予算が足りないからニューヨークロケが出来ないと言われたときは、監督は自分の脚本料の一部をロケの費用に充てたと聞きました。奥さんには内緒だったそうです(笑)。


 もっとこの監督のもとで映画を学びたい。そんな思いで、ノーギャラで良いからと頼み込んで、助監督をしたのが『母なる証明』でした。



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「文藝春秋」4月号(3月10日発売号)および「文藝春秋digital」に掲載中の片山監督のインタビュー「 『パラサイト』を観て悔しくなった 」では、助監督経験者だから分かった『パラサイト』での効果的な演出、ポン・ジュノ監督からのメール、韓国映画にあって日本映画にないものなどについて語りつくしている。


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(片山 慎三/文藝春秋 2020年4月号)

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