大関昇進の貴景勝 喜びも「弱化」「隠ぺい化」で感情を抑制

3月27日(水)7時0分 NEWSポストセブン

栃ノ心(右)を押し出しで破った貴景勝

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 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々を心理的に分析する。今回は、大相撲春場所で大関昇進を確定させた関脇・貴景勝を分析。


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 平成最後で最小の大関が誕生する。関脇・貴景勝の大関昇進が、臨時理事会の満場一致で承認されたのだ。貴景勝といえば、元貴乃花親方の廃業に伴い千賀ノ浦部屋へ移籍。その直後、昨年11月の九州場所で13勝を挙げ、初優勝を飾った初々しい姿が記憶に残っている。


 身長175cm、体重169kgという小柄ではあるが安定感のある体格は、民芸品の起き上がり小法師を連想させる。土俵で相手力士に突っ込んでいけば、その身長から、頭がちょうど大きな力士たちの胸に当たる。コロンとした体格は相手力士がまわしを取りづらいといわれ、体格を生かした突き押し相撲で白星を重ねてきた。どんな競技でも、小さな選手が大きな選手を倒すというのは、見ている者を魅了する。


 大関になると宣言して迎えた今年の春場所、千秋楽での大関・栃ノ心との取組みは、大関昇進がかかった大事な一番だった。昇進の目安は直近3場所で33勝とされるが、ここまでの彼の勝ち星は33と微妙。取組み内容によっては昇進が見送られる可能性もある。その重圧と緊張は相当なものではないか、と思いきや、取組み寸前土俵際の貴景勝は落ち着いた表情だ。


 運命の取組みは3秒で終わり。貴景勝が一気に栃ノ心を押し出した。勝った直後に大きく頬を膨らませ息を吐くが、その表情は変わらない。勝ち名乗りの声には何度も頷いていたが、千秋楽パーティでも表情が緩むことはなかった。一方、満面の笑みを浮かべていたのは師匠の千賀ノ浦親方だった。


 大関昇進を確実にした翌25日の会見でも、貴景勝の表情はほとんど変わらない。一夜明けた今の気持ちを聞かれても「ほっとした気持ち」と答え、その顔に笑みはない。勝った瞬間について聞かれても「(昨年九州場所で)優勝した時は頭が真っ白になりましたけど、今回はだるくなるような感じでした」と、淡々と答えるのみ。優勝後、「力士だから笑う必要はない」と言っていたことや他の番組で「あまり感情を表さないことが粋である」と語っていたことを思い出した。


 ポーカーフェイスを装うことで、感情を抑え、表に出さないようコントロールしているのだ。このように表情を使って感情をコントロールするにはいくつかの方法がある。貴景勝のように感情を表に出さないようにするには、感情を自ら弱めて平静を装う「感情の弱化」や、感情を感じていないように装う「中立化」が使われる。


 それでも、先場所から今場所までの重圧について聞かれると、表情は微妙に動いた。会見中、話をしながら軽く頷くことが多かったが、「チャンスは何度も巡ってこない」と話した時は深く頷いた。その後、眉毛を一瞬上げると「いつでもチャンスは巡ってくるよと言ってくれる人もいるが、」と話し、続けて「やっている方からしたら、何度もチャンスは巡ってこない」と眉根を一瞬、わずかに寄せた。勝負の世界にいれば、運命を左右するチャンスは滅多になく、それをモノにするのは難しいというのが実感なのだろう。


「どんな大関になりたいか」と聞かれた時も、眉がピクリと動く。その仕草から、横綱が目標である貴景勝にとって、その質問は愚問では、と感じた。だが、この質問にも、「次の番付(横綱)を目指すのが当たり前」と淡々と答えた。


 表情が緩んだのは、四股名について聞かれた時だ。この時、貴景勝が使ったのは「感情の隠ぺい化」。「隠ぺい」というと言葉はよくないが、これは、本当に感じている感情を他の感情で隠そうとすること。


「四股名はこのままなのか、改めるのか」という質問に、「自分は」と言って間が空き、口元が動く。予想していなかった質問に、どう答えればよいか戸惑ったようだ。だが、「この四股名でやっていきたい」とふっと微笑むように表情を緩めると、片側の口の端をわずかに上げた。今の四股名が好きで、思い入れもあるのだろう。いい思い出や感情がフッと浮かんできたのかもしれない。湧き上がった感情を隠そうとしたのか、貴景勝は口の端をわずかに上げた。いや、もしかすると表情を緩めてしまった自分に苦笑いしたのかもしれない。


 そんな笑わない大関が誕生する。さて大関・貴景勝は、新しい時代にどんな相撲を見せてくれるのだろうか。

NEWSポストセブン

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