藤間爽子「先代であり祖母の舞踊家・藤間紫を感じる瞬間は。祖母、母、私『暴れん坊将軍』に3代で出演して」

2025年3月28日(金)8時0分 婦人公論.jp


撮影:米田育広

日本舞踊家・藤間紫の孫にして、三代目藤間紫を襲名されている俳優の藤間爽子さん。この春、ケラリーノ・サンドロヴィッチによる『ベイジルタウンの女神』に出演します。俳優と日本舞踊家、それぞれに第一線の仕事をこなす毎日がいつも自然体という彼女の元気の源とは。ざっくばらんに伺いました。(構成:岡宗真由子 撮影:米田育広)

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切り替え過ぎないように心がけ


なぜだか「生き急いでるね」とよく言われるのですが、私自身はそんなつもりがないんです。

ただオフの時におうちでゴロゴロゆっくりするよりも、ぎりぎりの合間を縫って旅や食事や観劇に出かける方が好きで、そのほうが充電できるのかもしれません。

自宅と稽古場は違うところにあります。幸いなことに、「オンオフの切り替えができない」という悩みを抱えたことがありません。

どちらの現場でも、ある程度自然体でいないと疲れてしまうと思っていて、あまり切り替え過ぎないように心がけています。

家族は裏切らない存在


私が俳優と舞踊家という二足の草鞋を履けるのは、家族の存在と祖母の代から支えてきてくださった門弟の皆さんのおかげだと思っています。特に家を共に守ってくれている兄の存在には本当に感謝しています。2021年、私が26歳の時に“藤間紫”を、2つ上の兄は“藤間翔”を襲名して、日本舞踊の家元を継ぐことになりました。最初の頃は、どこかライバル関係というか、ぶつかることもあったんです。でもいつの間にかお互いの足りないところを補い合えるようになりました。今となっては心から頼れる存在ですし、甘えられる相手でもあります。

よく、「仲が良いごきょうだいですね」といわれるのですが、毎日顔を合わせている日々を「仲が良い」という言葉で言い表せるのかどうなのか…とにかく助け合って生きています。


私の心の支えになってくれているのは母です。母(俳優・島村佳江)は、俳優をしていたこともあって、舞台、映画、エンターテイメント全般が大好きで、いつもあらゆるジャンルのものに足を運んでいる観客として最高の人。私に気を遣ってお世辞をいうことはないので、時には痛いところもついてきますし、母に褒められたら褒められたで嬉しい。舞台は必ず初日に観に来ていろんな感想を言ってくれます。

私が母に、「この作品よかったよ」と伝えれば母はすぐに観にいくし、私も母が勧めてくれた作品はおさえるようにしています。とにかく昔から幅広く観ている人なので私も信頼できる“情報筋”として母の言葉をあてにしています。母は舞踊家の家に嫁いだ身で、舞踊家ではないのですが、舞踊に関してもそんな母の評価に耳を傾けてしまうのです。

一方父は、私の作品を見ても感想をほとんど言いません。でも実は陰で母に「次の作品はなんなの?」と尋ねては、他所の方に宣伝していたりすると聞いています。「実はお父さんが一番楽しみにしているんじゃない?」と母からは言われているので、ありがたいですね。

ふとした動きが祖母に似ていると


私が14歳の時には、父方の祖母である初代・藤間紫は亡くなってしまいました。祖母とはそれほど長く一緒に過ごすことができなくて、私は人から聞いて「藤間紫」像を作り上げているところがあります。

祖母は、9歳の時の舞台に立つ私を見て、後継にもう決めていたとは聞くのですが、今となっては祖母が私のどこに目をかけてくれていたのかわからない。祖母には、舞踊家として、俳優として、どういった心持ちで生きていたのか聞いてみたい思いもあります。でももし今、側にいたらいたで祖母の影響を色濃く受けてしまうことを避けて、あえて聞かずに我流を通そうとしていたかもしれません。

話に聞く祖母は激情家でエネルギッシュで、私とはずいぶんと性格が違っていたように思います。それなのに踊っている姿だけはたまに似ていると言われるので不思議です。
迫力のあった祖母と比べて、今年で30代になる私は今も童顔に見られています。未だにお酒を頼むのに身分証明書を要求されることもあるのですが、着物を着ると、だいぶ実年齢より上に見られたり。やはり着物を着なれているからなのでしょうか。


時代劇や舞台で“着物は疲れる”と言われる方は周りに多いのですが、私にとっては着物も洋服もほぼ変わりなく行動できる被服。それだけは小さい頃から着物を着る環境だったことに感謝しないといけないのかもしれません。

時代劇と言えば、祖母、母、私と『暴れん坊将軍』に3代で出演した経験をもっています。それはそれで誇れることなのですが、3代が入れ替わる間、主演を続けておられる松平健さんの偉大さこそ、皆様に声を大にしてお伝えしたいです。

というのも、私が出演した時の話なのですが、殺陣指導の方と斬られ役の方が入念にリハーサルをされていました。でも松平さんは一度も加わることなく、それをただ側で見ているだけ。最後の最後、いざカメラが回るという時に松平さんは初めて出ていらして殺陣をされたのですが、それが完璧に美しく、一発でOKでした。舞踊をしている私から見て、もはや伝統芸能の域というか…。本当に松平さんの姿に感服したのが『暴れん坊将軍』に出演した一番の感想です。(笑)

心を空っぽにできる瞬間


オフの時は、旅行に行くことが多いです。今年はイギリス、フランス、ハワイへ行くことができました。友達とは、30歳の節目に今年はフィンランドに行こうという話になっています。なかなか長期の休みが取れないので予定が立っていないのですが、アフリカも行きたいし、まだ見たことのない景色をたくさんこの目で見てみたい。


私は美術館巡りや舞台など文化的なことと、ただ自然を目に入れること、どちらも好きでツアーなども欲張ってたくさん入れてしまいます。この辺も生き急いでいると言われるところなのかもしれませんが、欲張りなので仕方がありません。

最近はお家にいてあっという間に時が過ぎる趣味も見つけてしまいました。それは…編み物!母方の祖母は家庭的な人で、編み物が大好きだったので、このお正月には直接行って教わってきました。かぎ針編みを覚えたら楽しくて、ぐるぐるぐるぐると、あてもなく編み進んでしまって…何物でもない、巨大な帽子のようなものが出来上がりました(笑)。それからは毛糸を買いに走ったり、YouTubeで凝った編み方を学んだりして楽しんでいます。

編み物をしていると、心が空っぽになって本当にリフレッシュできますので、忙しい方にこそおすすめしたいです。

念願のKERAさんの舞台


これから稽古に入る『ベイジルタウンの女神』は、皆さんに心から楽しんでいただきたい作品です。


こちらは、KERAさんと緒川たまきさんが作られた、初演時コロナ禍の閉塞感を吹き飛ばした舞台。

今はコロナの心配こそないですが、世の中が平和になったかと言えばそうでもないかもしれません。

そんな今こそ、心温まる作品に触れて、心から明るい気持ちになっていただければ私も幸せです。

婦人公論.jp

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