同性愛者はなぜクラスに1人いるのか フレディー・マーキュリーの活躍から考える

3月31日(日)17時0分 文春オンライン

 映画『ボヘミアン・ラプソディ』の世界的大ヒットにより、社会が大きく変わった。これまでクイーンの「ク」の字も知らなかった人、ロックなんて……と敬遠していた人までもが、クイーンとフレディ・マーキュリーの虜になったのだ。


 特に、フレディの死後に生まれ、「せめて10年早く生まれていたら、フレディの生歌が聴けたのに」などと悔しがっている若者がとても多い。


 そのような人々に私はちょっと自慢する。私はクイーン世代の人間。彼らの音楽をリアルタイムで聴いていたのだよ、と。



©getty


 もっとも、そうは言ってみたものの、当時、私は受け身の聴き方をしていた。喫茶店などの有線放送やラジオから流れてくる彼らの音楽をただ聴くだけ。自らレコードやCDを買ったわけではなく、ましてライヴに出かけたわけでもなかった。私がクイーンとフレディの虜になるのは随分とのちのことだ。なぜそのようなことになったかは後で述べるとしよう。


映画は素晴らしい出来だった。だが…


 ともあれ、映画『ボヘミアン・ラプソディ』については、行こうか、行くまいか、散々迷った。フレディが好きすぎる……。見たら、私のフレディ像が崩されてしまうのではないか、と恐れたのである。


 それでもクイーンファンを名乗るからには、見ていないでは済まされるはずもなかった。


 映画は評判の通りの素晴らしい出来だった。だが、一つだけ不満が残ってしまった。それはとても大切な点であり、フレディの人生にも音楽にも大いに関わっているはずの、「性的指向」についてだ。彼はバイセクシャルであり、ゲイ(男性同性愛者)でもあった。それらについての描写があまり丹念ではなかったのである。


 映画の世界には何かと制約があるのだろうし、この部分をあまりにも強調すると、興行成績によくない影響を与える可能性もある。おそらくそのような事情からではないかと思いつつも、やはり不満が残るのである。



 私がクイーンとフレディの虜になったのは、1995年の初めこと。フレディの死から4年近くも経ってからだ。実はそれを遡る7年くらい前から私はうつ病を患い、大好きな音楽さえなのか、あるいは大好きな音楽だからなのか、とにかく久しく音楽から遠ざかっていた。しかしふと、音楽が聴きたいと思うようになったのである。少しばかり病状が好転してきていたのだろう。


 そこで何を聴こうかと考えた。元々クラシック好きなので、まずはクラシックのCDを以前持っていたレコードやカセットテープと同様のラインナップで買い揃えた(私が病んでいる間に世の中はすっかり、レコードからCDへと移行していた)。


私の世代ならクイーンではないか


 しかし何かこれまでとは違うジャンルの曲を、と考えたとき、「そうだ、私の世代ならクイーンではないか」と思いついたのである。


 そうしてまずベストアルバムである、「グレイテスト・ヒッツ」を購入したところ、何と素敵。特にフレディの声や表現が魅力的なことと言ったら!


 歌声を聴いただけでも彼がとても純粋で傷つきやすく、繊細であること、本当はとてもシャイな人ではないかと感じられた。



 ライヴのパフォーマンスを見ると、それらは確信に変わった。彼は自身の感性と才能のすべてを投入し、「フレディ・マーキュリー」というキャラクターを演ずる。そうしてシャイで傷つきやすいといった自身の本質を克服しているのだ。


「フレディなら仕方ない」


 そんなわけで私は、CD、関連本、ライヴのビデオ、はたまたオリジナルの音源によるカラオケのビデオまでも購入してしまった。そうこうするうちに病状は劇的に快方に向かったのである。


 関連本の中でも特に、フレディの最後の恋人である、ジム・ハットンが著した『フレディ・マーキュリーと私』(島田陽子訳、ロッキング・オン)でフレディの日常を知ることができた。繊細でシャイなだけでなく、子どもじみた、困った部分もあるが、誰もが「フレディなら仕方ない」と許してしまうのである。


 動物行動学研究者の私は、同性愛者、またはバイセクシャルの人々は子を残しにくいのに、なぜいつの時代にも一定の割合で存在するのかという生物学界最大の謎について、研究者たちが挑んだ研究の数々をリサーチしてきた。



男性同性愛に関わる遺伝子を残してくれる存在



 研究は主に男性同性愛者についてなされているが、双子の一方が男性同性愛者なら他方はどうか(一卵性双生児と二卵性双生児の比較)、二人とも同性愛者であるという兄弟を調べ、同性愛遺伝子のありかを探る、子を残しにくいのにどうやって同性愛遺伝子を絶やさないか、といった遺伝子からのアプローチによる研究。


 さらには女性ホルモンに脳はどう反応するのか、脳の構造の特徴、男と女の性フェロモンにそれぞれ脳はどう興奮するか、といった脳やホルモン、フェロモンからのアプローチによる研究である。


 近年、これでほぼ謎は解けたといってもよい研究も登場している。


 それはあまりにも単純にして明快で、なぜこれまで誰一人として思いつかなかったのか不思議なくらいの結論である。ネタバレになるので詳しくは語らないが、男性同性愛者になり代わり、彼の遺伝子、特に男性同性愛に関わる遺伝子をよく残してくれる存在が一族の中にいるのだ。


フレディの音楽や人生にどんな影響を与えていたか


 このようなリサーチの成果を、新刊『 フレディ・マーキュリーの恋 性と心のパラドックス 』として出した。実を言えば、この本は7年ほど前にやはり文春新書から出版された『 同性愛の謎 なぜクラスに一人いるのか 』の増補改訂版である。


『同性愛の謎』でも、フレディ・マーキュリーを初めとする、数々の天才的男性同性愛者たちのエピソードにも触れていたが、今回はフレディに視点を据え、バイセクシャルであり、ゲイでもあるという性的指向が、彼の音楽や人生にどう影響を与えているかという点、彼と恋人との関係などについて大幅に加筆した。


 映画で彼を知り、好きになった人、彼の心の葛藤について深く知りたい人に特に読んでいただきたい。前著を読まれたかたでも、新たな展開を見せた研究や情報も盛り込んでいるため、決して損にはならないはずである。


 そして何より、名曲、「ボヘミアン・ラプソディ」でなぜ彼が何度も「ママー」と呼びかけるのか。その答えがこの本にあるのである。




(竹内 久美子)

文春オンライン

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