柳家権太楼の「鰍沢」 落語初体験の客も引き込むパワー

4月1日(日)16時0分 NEWSポストセブン

爆笑派の落語家・柳家権太楼の魅力とは

写真を拡大

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、現代を代表する爆笑派の落語家・柳家権太楼が、聴き手を選ぶと言われる演目「鰍沢」でみせた、落語初体験の客も引き込むパワーについて紹介する。


 * * *

 福井を記録的な豪雪が襲っている真っ最中の2月8日、柳家権太楼の独演会「権太楼ざんまい」(日本橋劇場)で『鰍沢』を聴いた。三遊亭圓朝が三題噺の会で創作した『鰍沢』は身延山へ参詣に来た男が大雪の中で道に迷うのが発端。マクラで権太楼も福井のニュースに触れていたから、それがネタ選びのヒントになったのかもしれない。この『鰍沢』が、実に聴き応えがあった。


 この日で第24回となった「権太楼ざんまい」は、過去の演目がすべてプログラムに記載されている。主催しているオフィスエムズの加藤さんという人は根っからの演芸好きで、こういうアイディアも落語ファンの心理を知り尽くしている加藤さんらしい。もっとも「客の手元に過去の演目一覧がある」というのは演者にとっては相当のプレッシャーらしく、公演日の2日前にファクスで送られてきた一覧表を見て「これまで出てない噺は……」と、急遽『鰍沢』をさらったのだという。


 権太楼と言えば寄席の爆笑王、滑稽噺の徹底した可笑しさで定評があるが、人情噺系の大ネタも素晴らしい。十代目馬生の型に強烈な感情注入を施した『芝浜』、八代目文楽の型を「権太楼の個性」で染め上げた『富久』、五代目小さんの型を独自にアレンジした『文七元結』などは権太楼ならではの逸品だし、『百年目』『心眼』『たちきり』なども味わい深い。権太楼は「骨太な人情噺の名手」なのである。


 この日1席目に『鰍沢』を演じた後、2席目のマクラで権太楼は「爆笑落語を期待される地方の会で『鰍沢』はできない」と言った。『鰍沢』は、言ってしまえば「雪山で旅人が女に殺されかける」というだけの噺で、そこに笑いも感動も伴わない。ラストも「それで終わり?」みたいな感じでカタルシスに欠ける。確かに聴き手を選ぶ噺だろう。


 だが、権太楼の『鰍沢』は落語初体験の観客をも引き込むパワーがある、と僕は思う。旅人、女、亭主の3人の登場人物を生き生きと描く権太楼のダイナミックな『鰍沢』は、まるで一編のサスペンス映画を観ているようだ。地の語りの説得力といい仕草による視覚的効果といい文句なし。今年に入って他の演者でも何度か聴いたが、有無を言わせず物語の世界に観客を没入させるという点で権太楼の『鰍沢』は圧倒的に優れている。「この演者だからこそ」という迫真の『鰍沢』だ。


 ちなみにこの日、2席目に演じたのは『くしゃみ講釈』。東京で『くしゃみ講釈』とくれば権太楼、こういうバカバカしい噺はここまで賑やかにやってこそ。爆笑王の真骨頂を示す一席でお開きとなった。


●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。


※週刊ポスト2018年4月6日号

NEWSポストセブン

「落語」をもっと詳しく

「落語」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ