川崎市を環境先進都市にした「ゴミ列車」が役目を終える日

4月2日(日)7時0分 NEWSポストセブン

川崎市の環境意識を変えた「クリーンかわさき号」

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 貨物列車といえば、工業製品や野菜など、生産、製造しているものを遠隔地へ運ぶ手段のイメージが強かったが、今では多種多様なものを運んでいる。貨物列車の多様な運用の先駆けとして始まった、ゴミを運ぶ貨物列車「クリーンかわさき号」の誕生と今について、ライターの小川裕夫氏がリポートする。


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 トラックドライバー不足によって、人手が少なく輸送効率のよい貨物列車が見直されている。そうした貨物列車復権の流れの中、川崎市環境局は20年以上前から貨物輸送を活用してきた。驚くことに、川崎市環境局が貨物列車で運んでいるのは川崎市民が日々排出しているゴミだ。なぜ、川崎市環境局は貨物列車でゴミを運んでいるのだろうか?


「川崎市が貨物列車でゴミを運ぶようになった背景には、当時に直面していた川崎市のゴミ問題があります。川崎市は市域が南北に細長いのですが、住民の多くは北部に住んでいます。そのため、北部で大量のゴミが排出されます。ところが、北部は住宅街になっているのでゴミを処分する焼却場を建設することが容易ではありません。焼却場の建設が進まない中、人口はどんどん増え続けました。川崎市はゴミを処分するのが難しくなり、1990(平成2)年に”非常事態宣言”を出すほどの危機に陥ったのです。危機を回避するため、川崎市は1995(平成7)年に南部地域に焼却場を建設したのです。南部地域は工場が立地する埋立地なので焼却場建設が容易だったのです」(川崎市環境局施設部処理計画課)


 新たなゴミ焼却場が稼働するまでの間、川崎市は市民一丸となってゴミの減量化に着手。ゴミの減量化に取り組む一方で、住民が多い北部地域から排出されるゴミを減量化しても北部地域の焼却場だけで処理することは難しかった。そこで、川崎市は北部地域で排出されたゴミの一部を南部地域の焼却場まで運ぶことにした。


 だが、毎日100トンも排出されるゴミを清掃車で運ぶには、清掃車の台数もドライバーの人員も膨大になる。清掃車が渋滞を引き起こしてしまうことも避けたい。


 悩んだ川崎市は、北部地域のゴミ焼却場の近くにJR貨物の梶ヶ谷駅があることに着目した。梶ヶ谷貨物駅にゴミを集め、神奈川臨海鉄道の末広町駅まで貨物列車で運ぶ。そこからトラックで浮島処理センターへ輸送すれば、ゴミをスムーズに処分できる──。


 こうして、ゴミを運ぶ貨物列車「クリーンかわさき号」が誕生した。一日に一便が運転されている「クリーンかわさき号」は、17時57分に梶ヶ谷貨物駅を出発。JR川崎貨物駅でディーゼル機関車に付け替えて、神奈川臨海鉄道末広駅に19時18分に到着するというダイヤが組まれている。


 通常、貨物列車は野菜や工業部品などを運んでいる。川崎市が運行するゴミを運ぶ貨物列車は、野菜や工業部品と一緒に運ばれることはないが、列車でゴミを運ぶには衛生的な問題をクリアしなければならない。


「『クリーンかわさき号』を運行するにあたり、川崎市は臭気や汁漏れを防ぐために密閉型で強度のある特別なコンテナを独自に開発・製作しました。現在、川崎市は『クリーンかわさき号』のために一般ゴミ・焼却灰・破砕ゴミなどを運ぶ20フィートコンテナを92、ミックスペーパー・プラスチック製容器包装を運ぶ12フィートコンテナを95所有しています」(同)


『クリーンかわさき号』はトラック輸送と比べてCO2を排出しないため、清掃車でゴミを収集・運搬するより環境面で優れていることが注目されるようになった。ゴミの非常事態宣言を出すまで追い込まれていた川崎市は、一転して環境先進都市へと姿を変えた。埋立地を多く抱え、それまで工業都市のイメージが強かった川崎市は、『クリーンかわさき号』によって市のイメージが変わったのだ。


 しかし、皮肉にも市民の環境意識が高まってゴミの減量化が進んだことで、逆に『クリーンかわさき号』は役目を終えつつある。


「非常事態宣言が出された1990(平成2)年、ゴミ排出量は年間55万トンにものぼりました。市民の協力もあり、現在は年間37万トンにまで減少しています。減量化の取り組みは継続中で、今後はもっと減ることでしょう。そうなったら、わざわざゴミを貨物列車で運ぶ必要はなくなります」(同)


 当面、「クリーンかわさき号」が引退することはないようだが、川崎市のゴミ減量化がさらに進めば、いずれお役目御免ということになるかもしれない。「クリーンかわさき号」を見られなくなるのは、鉄道ファンにとっては残念だろう。しかし、それは貨物列車が社会を変えたという証でもある。

NEWSポストセブン

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