『ナタ 魔童の⼤暴れ』はなぜ最も売れたアニメ映画になったのか。見る前に知ってほしい3つのこと

2025年4月4日(金)20時30分 All About

アニメ映画世界歴代興行収入1位を樹立した中国のアニメ映画『ナタ 魔童の⼤暴れ』は、その評価もアニメ映画史上最高クラス。ここまでのメガヒットとなった理由と、事前に知ってほしい3つのことをまとめてみましょう。(画像出典:プロデュース&製作:可可⾖動画 彩条屋影業)

『ナタ 魔童の⼤暴れ』が日本で4月4日より劇場公開中。本作の何よりのトピックは、アニメ映画世界歴代興行収入1位ということです。

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』も追い抜いた

あの『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や『アナと雪の女王2』、さらに2024年にアニメ映画史上1位の記録を塗り替えた『インサイド・ヘッド2』をも上回り、3月15日時点で世界興行収入は150億1900万元(約3100億円)を突破して、実写映画の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を抜き、世界歴代興行収入ランキング5位となっているのです。
その興行収入のほとんどが、中国国内の売り上げによるものというのも脅威的。1月29日の公開からわずか3週間で国内の興行収入は119億5400万元にのぼり、その時点でそれまで中国国内で歴代1位だった『1950 鋼の第7中隊』(累計興行収入57億7500万元)の2倍以上にもなっていたのです。
海外でも中国系移民や中国にルーツを持つ人が劇場に多く訪れているようで、北米では3週連続トップ10入り、オーストラリアとニュージーランドでは過去20年間の中国語映画の最高上映記録を達成、この日本でも3月14日より先行公開された中国語・英語字幕版が9日間で興行収入1億円を突破しています。

メガヒットの理由は「圧倒的なクオリティー」や「愛国心」にある

誰もが気になるのは、この『ナタ』がなぜこれほどまでにメガヒットになったのか、ということでしょう。それは、作品としての圧倒的なクオリティーの高さ、とても間口の広いエンターテインメントであることに加えて、中国国内での「愛国心」が大きく影響していると思われます。実は本作は「2作目」であり、2019年公開の前作『ナタ 魔童降臨』の時点で、中国のアニメ会社の力を結集させた3DCGのクオリティーがとてつもなく、アクロバティックな体術も繰り出されるアクションのド迫力ぶりには感嘆するばかりでした。
だからこそ、今回の続編への期待も大きかったのは間違いなく、実際に作品のスケールはさらに広がり、世界観の作り込みや、クライマックスのスペクタクルは、すさまじいという言葉でも足りないほど。その期待をはるかに上回っていたと言えるでしょう。
さらに、主人公およびタイトルにもなっている「ナタ」は、中国の有名な物語『封神演義』に登場するよく知られたキャラクターであり、そのほかの設定や世界観も大胆ながら、中国の文化や物語をリスペクトしています。しかも、前作も今回も「親子愛」や「友情」など共感しやすい要素が多く、大筋の物語はエンタメ性が高く、子どもから大人まで楽しめる分かりやすいものでした。
後述もしますが、今作は世界で起こる問題のメタファーと思われる要素もあり、それを持って中国の「誇り」や「未来」をも喚起しているともいえるため、国民にとってはより「刺さる」ものだったのでしょう。
また、本国での宣伝手法はSNSでのショート動画、タイアップや街頭広告など日本でもよく見られるものですが、その「物量」が圧倒的で、例えば公式動画は1日に10本も公開されていたのだとか。
ともかく、自国のアニメ映画が「すごいことになっている」という評判が評判を呼び、中国国民の熱狂的な支持をさらに加速したと考えられるのです。
さらに、現在ではアメリカのレビューサービスIMDbでのスコアが8.2点、Rotten Tomatoesでの批評家支持率は95%を記録。興行面だけでなく評判もアニメ映画史上トップクラスになっているのです。
さて、ここからは見る前に知ってほしい3つのポイントについて語っていきましょう。日本ではほとんどの人にとって「続編から見る」ことになるのですが、それでも大きなスクリーンで見てほしい理由も併せて解説します。

1:上映時間は2時間24分!スクリーンで目いっぱいに堪能しよう

まず、本作の上映時間は2時間24分と長めであることにご注意を。直前のトイレは必須、その後の予定との調整も必要でしょう。また、現時点では吹き替え版の上映はなく、字幕版のみ。お子さんを連れていく場合は、漢字がある程度は読める年齢の方がベターでしょう。とはいえ、長さばかりを気にし過ぎてしまうというのももったいない話。いや、むしろその上映時間で目いっぱい、世界最高峰の3DCGアニメを堪能し、酔いしれてほしいのです。アクションでの大胆なカメラワーク、見た後の心地よい疲労感も含め、個人的には2023年公開の『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』(上映時間2時間20分)も連想しました。
それでいて、「えっ?もう終わり?」と思うほどにのめり込んで見られること、またそれだけの上映時間にも必然性がある物語の厚みも含め、『ウィキッド ふたりの魔女』に通じていました。画面いっぱいにたくさんのキャラクターが目まぐるしく動く場面もあり、なるべく大きなスクリーンで見ること、特にIMAX上映を選ぶことも強くおすすめします。

2:抑えておくべきは「主人公と親友」&「相関図」

今作は前作を見ていない観客も想定した作りにもなっており、前作のあらすじや基本的な設定は冒頭でざっくりと説明されるのでご安心を……と、言いたいところですが、矢継ぎ早にたくさんの情報が叩き込まれるので、混乱してしまう人も多いのではないでしょうか。例えば、「天界の秘宝『混元珠(コンゲンジュ)』が、英雄となる運命を持つ『霊珠』と、魔王となる宿命を背負う『魔丸』に分けられた」「本来ナタに渡るはずの霊珠は、企てにより『ゴウヘイ』に、そしてナタには魔丸がもたらされてしまった」といった設定です。
日本語字幕でもできるだけ情報を詰め込んでいる印象があり、身構えずに見ると固有名詞の多さに面食らってしまうかもしれないので、初めからスクリーンに「全集中」して見た方がいいでしょう。
しかしながら、主人公であるナタの来歴の大枠は「これまで孤独を抱えてきたが、両親からの愛情を受けて育った」とシンプルで、ゴウヘイとの関係は「親友」です。また、ナタはヤンチャな少年で、ゴウヘイは冷静沈着で思慮深いという、正反対の性格の持ち主。そして、互いにもともとは「違う宿命」を背負った主人公と親友の関係、境遇を主軸に物語を追っていけば、すんなりと飲み込めるでしょう。
さらに、ナタとゴウヘイにそれぞれに師匠がいることも把握していたほうがいいでしょう。それは、ひょうひょうとした性格の「太乙真人(タイイツシンジン)」と、頑固で攻撃的な「申公豹(シンコウヒョウ)」です。
そのほかのキャラクターもかなり多めで、関係性もやや複雑なので、事前に公式X(旧Twitter)でも掲載されているキャラクター相関図を頭に入れておき、公式Webサイト掲載のキャラクター紹介ページも軽く読んでおくことをおすすめします。

3:少年漫画的なアツさと「今」の世界の問題への鋭さも

今作のあらすじは、前作で親友同士になったナタとゴウヘイが、新たな問題に直面し、共に冒険に旅立ち、そして世界の真実を知る……というもの。正反対のコンビによる冒険とアクションは、日本の漫画『うしおととら』をほうふつとさせますし、「修行」パートも含めて日本の少年漫画のようなアツさやエンタメ性に満ちており、日本人にも分かりやすく楽しめるでしょう。激しい肉弾戦や、空間を大きく吹っ飛ぶアクション、はたまた「龍」のキャラクターからは『ドラゴンボール』を思い出す人も多いでしょう。主人公のナタが繰り広げる序盤のドタバタ劇は初期の『ドラゴンボール』っぽさもありますし、ネタバレになるので詳細は伏せますが、後半にはまさに『ドラゴンボール』世代に刺さる、カタルシスのある展開が用意されているのです。
また、こちらも詳細は伏せておきますが、劇中で提示される悲劇と、終盤のとある「種明かし」も含めて、提示された問題はロシアによるウクライナへの侵攻、イスラエルによるガザ地区侵攻に強く通じているものでした。世界中で差別や迫害、さらには虐殺が巻き起こるこの世の中で、何を信じて、どのように行動するべきなのか。主人公のナタのとてつもない怒りや悲しみは切実なものですし、その中でも正しい道を選択しようとする、予告編にもある「俺の道は俺が決める」という宣言も含めて、勇気や希望をもらえる人は多いでしょう。

まとめ:前作を見る手段がないのは残念だけど、予習復習できる作品も

ここまで本作を絶賛しましたが、それでもやはり「今の日本では前作を見る手段自体がない」というのは残念なところ。
筆者は後追いで前作を鑑賞することができたのですが、ナタがいかに「悪魔」と呼ばれ人々から忌み嫌われていた(本人も悪辣な行動をしていた)か、ゴウヘイとどのような過程で友情が育まれていったのか、それを知っていれば今作の感動はさらに増していたと思えるので、もったいなくも感じてしまうのです。
とはいえ、予習と復習がまったくできないということはありません。実はナタが登場する複数の作品が、日本でも簡単に見られます。一挙に紹介しましょう。
・『封神演義』(日本の漫画):キャラクターの特性は異なるものの、ナタこと哪吒(ナタク)や、申公豹(シンコウヒョウ)が登場。ナタの両親の描写との違いを見比べて見るのも面白いかもしれません。
・『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』(中国のアニメ映画):ナタがかわいらしい男の子のキャラクターとして登場。日本でも絶賛の口コミが寄せられ2020年に日本語吹き替え版がヒット。続編映画の2025年の公開や、Webシリーズの日本語吹き替え版の制作も決定しています。
・『ナタ転生』(中国のアニメ映画):ナタの生まれ変わりである青年が、3000年前の因縁の解決を迫られる物語。「スチームパンク」と「サイバーパンク」の要素を併せ持った作品で、ド迫力のバイクレースが見ものです。
・『ヨウゼン』(中国のアニメ映画):2025年3月21日より日本で劇場上映中。『封神演義』に登場する「楊戩(ヨウゼン)」を主人公に迎えた『カウボーイビバップ』のような「SF世界での賞金稼ぎもの」。こちらもアクションがハイクオリティーで、愛憎入り交じる師弟の関係が描かれます。
「Aぇ! group」の佐野晶哉を筆頭とした豪華キャストの日本語吹き替え版が絶品。ナタは本編に登場していないように思えますが、エンドロールでは……?
これらに加えて、日本でも前作『ナタ 魔童降臨』が、映画館や配信で気軽に見られるようになってほしいところです。
それでも、しつこいようですが、「前作を見ていないから」といって今作をスクリーンで見ないというのはもったいなさ過ぎるということも、もう1度申し上げておきます。
前述してきた作品の魅力は、今作からでも十分過ぎるほどに楽しめますし、何よりこの世の全てのアニメ映画でもっとも大ヒットした理由に納得できるクオリティーの高さ、特に中国アニメの頂点となるバトルアクションを隅々まで堪能できるのですから。
『ナタ 魔童の⼤暴れ』は、もう「これを映画館で見ずして何を見るのか」という勢いで、ぜひ最優先で足を運ぶことをおすすめします。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
(文:ヒナタカ)

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