草笛光子、91歳を迎えて「自由に、そのまんま、わがままに生きるだけ。2度目の主演映画では、自分の感情に素直に従って」

2025年4月4日(金)12時30分 婦人公論.jp


「誰かから『おめでとう』と祝ってもらえるのは、いくつになっても嬉しいことですから」(撮影:鍋島徳恭)

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主演映画『九十歳。何がめでたい』は、幅広い層の支持を集めて大ヒット。数多くの賞を受賞し、令和六年度の文化功労者にも選出された草笛光子さんの次なる主演映画が、この4月、公開されます。美しく、かっこよく。時に周囲のスタッフをからかいながら、楽しそうに『婦人公論』の撮影に向き合う草笛さんの近況をお届けします(構成:本誌編集部 撮影:鍋島徳恭)

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レッドカーペットを歩くのが楽しみ!


振り返ると、2024年は慌ただしい1年でしたね。なにしろ、夏に映画『九十歳。何がめでたい』が公開されましたでしょう。ずいぶん長く、そう、70年以上この仕事をしてきましたけれど、私、映画で単独主演を務めたのははじめてのことだったんです。

現役作家である佐藤愛子さんを演じる、しかも自分自身が90歳を迎える年に作品が公開される、というのは「とんでもないことだなあ」と感じていましたが、おかげさまで、ずいぶんヒットしたそうですね。それを聞き、少しホッとしたものです。

実は私も事務所のスタッフに誘われて、近所の映画館に観に行きました。いえ、誘われたというのは嘘。ごはんを食べに行きましょう、とそそのかされたの(笑)。

平日のお昼間の回でしたが、ありがたいことに満席に近くて。こんなにお客様が入ってらっしゃるのかと思ったら急に恥ずかしくなってしまって、途中から映画どころではありませんでした。

映画であれテレビドラマであれ、普段、自分が出演する作品を観ることはありません。試写会すら行きたくないくらい。自分の姿を見るのが恥ずかしいということもありますが、なにより私は舞台が好き。その場ですべてを出し切ることに懸けてきましたから。

出し切ったら、そこでおしまい。あとから見返したり、振り返ったりすることはありませんでした。そんな生き方をずっとしてきたつもりです。

でも、映画館の客席から終始聞こえてくる皆さんの笑い声が、とても嬉しかった。やった、と思いましたし、行ってみてよかったです。スタッフの誘いにも、乗ってみるものね。(笑)


「91歳の女優らしいレッドカーペットの歩き方を皆さんにお目にかけられたら、と思っています」

『九十歳。何がめでたい』では、ずいぶんたくさんの賞をいただきました。日刊スポーツ映画大賞の主演女優賞、報知映画賞の特別賞、ヨコハマ映画祭の特別大賞、日本アカデミー賞の優秀主演女優賞……。この歳になるとね、もらえるものはもらっておこうと思って(笑)。両手を出して、素直にいただくことにしています。

この記事が出るころには、日本アカデミー賞の授賞式が終わっていることでしょう。優秀主演女優賞をいただきましたので、当日はドレス姿で、レッドカーペットを歩くことになっています。

受賞の連絡をいただいたとき、周りがとても喜んでいました。あまり喜ぶので、「よかったわね、おめでとう」と言って握手をしながら、「あ、歳が上だからよ、きっと」なんて憎まれ口を叩いたりして。でもね、内心では私だって嬉しいんですよ。誰かから「おめでとう」と祝ってもらえるのは、いくつになっても嬉しいことですから。

日本アカデミー賞の授賞式はこれで二度目。最初は3年前だったのですが、映画『老後の資金がありません!』で優秀助演女優賞と会長功労賞をいただいたときのスピーチで、「今度は主演女優賞で戻ってきます」と口にしたそうなのです(笑)。

私はまったく覚えていないのだけれど、そういうことをつい言ってしまうのよね……。だから、少なくとも、嘘つきにならずに済んでよかったと思って。

会場には知っている顔もいるでしょうし、レッドカーペットを歩くのも楽しみ。途中で転んだりしてはいけないから、どなたかがエスコートしてくださるといいのだけど。

91歳の女優らしいレッドカーペットの歩き方を皆さんにお目にかけられたら、と思っています。

《お尋ね者》を演じてみて


そう、昨年10月に91歳になりました。誕生日を迎えるとともに文化功労者にも選出していただき、大変光栄に思っています。多くの方からお祝いの言葉をいただき、事務所はしばらく、きれいなお花で溢れていました。

そしてまもなく、次なる私の主演映画『アンジーのBARで逢いましょう』が公開されます。私が演じるアンジーという女性は、謎のお尋ね者(笑)。ある日、ふらっと街にやってきて、いわくつきの物件を借り、いろいろな人の手を上手に借りながらBARを開くんです。

最初、台本を読んだときは、よくわからないけれど西部劇のようだな、と思いましたね。流れ者が街にやってきてひと騒動を巻き起こすお話でしょう? そういう話をいまの時代にやるのは面白いかもしれない、と引き受けることにしました。しかもその流れ者がおばあさんなんて、素敵じゃない。

すでにこの映画を観てくださった関係者からは、アンジーは草笛さんそのものですね、といった感想をいただきます。実際、この話をいただいたときも、プロデューサーに「脚本家の天願(大介)さんが書くアンジーは、草笛さんそのものなんです」と言われました。

私がお尋ね者ってこと? 失礼だわ、と思いながら、それならそれでこちらは身を任せるので、あとはうまくお料理してもらいましょ、と腹が決まりました。


「自然にやわらかく、肩の力を抜いて。それを皆さんに感じてもらえたら、嬉しいです」

女優にとって、「そのまんま」というのがどれほど怖いことか。私は、役をいただいたら「さて、どうしようか」とあれこれ考えて、悩んで悩んで悩み抜いて、自分の体を通して役をつくってきました。だから「そのまんま」と言われると、かえって難しい。

実際、アンジーは衣装も赤いドレス一着きりですし、台本を読んでも素性がよくわからない。人間かどうかもよくわからないのよ。(笑)

だから、言われるがままにそのまんま、その場の自分の感情に素直に従って演じました。自然にやわらかく、肩の力を抜いて。それを皆さんに感じてもらえたら、嬉しいです。

この映画は、周りを固めてくださる共演者の皆さんも、とても豪華。特に寺尾聰さんは、1974年のドラマ『天下のおやじ』で私と親子役を演じて以来、なにかと駆けつけてくれる、芸能界の親戚のひとりです。仕事の現場でお会いするのはしばらくぶりだったから、とても嬉しかった。

昔を振り返ることは好きではありませんが、それなりに長く女優をやってきました。賞をいただけるのも、こうしてさまざまなお仕事をいただけるのも、これまで私を育ててくださったたくさんの方、作品を楽しんでくださる皆さんあってのこと。感謝しかありません。

この先なんて、もうないですよ。ここまでくると、どれくらい先があるのかしら、としか思わない。最近は、これをやらなきゃとか、ああなりたい、こうなりたいなんて思うこともなくなりました。自由に、そのまんま、わがままに生きるだけ。91歳、何がめでたい、ですよ、ほんとに。

婦人公論.jp

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