雪の仙台 ファイターズの新たなチャレンジ「オープナー」に夢を見る

4月5日(金)11時0分 文春オンライン

 あとで何かを振り返る時に、その日の空や空気も一緒に思い出すことがある。2019年の仙台最初の試合を思う時もきっとそうなるだろう。あの雪景色は北国のチームの新しいチャレンジへのはなむけだったんだと私は思う。


 今年も文春野球コラムで書かせていただく事になりました。北海道の斉藤こずゑです。えのきど監督のシモベとして、出来る限りいい仕事が出来るように驀進致しますので、読者の皆様、どうぞよろしくお願い致します。たくさん美味しいお酒が飲めるシーズンになりますように。


◆ ◆ ◆


 ファイターズは今年も開幕は札幌ドームで迎えた。


 開幕前に私が番組で合言葉のように話していたのは、「オープン戦の結果は忘却(最下位)」「去年の開幕カードの事も忘却(3連敗)」、とにかく嫌なことは何もかも忘れて臨むこと。これが功を奏したとは言わないけれど、ファイターズはバファローズに対し2勝1分、負けなしという素晴らしい開幕ダッシュに成功。特に中田選手は初戦のサヨナラホームランも含めて3試合で9打点という大暴れでファンを沸かせてくれた。


 そして、2カード目は、去年と同じ仙台。この時期の仙台の試合は夜の寒さを考慮して平日でもナイターより早い時間に試合開始が設定されるので、今年も4月2日(火)の初戦は16時プレーボールだった。


雪が降りしきる楽天生命パーク


 しかし、この日の仙台は午前中のうちに最高気温の7.7℃を計測してしまって、その後は気温が下がるばかり。冬。いくら防寒しても、いくら練習で体を動かしても、選手の体はなかなか温まらない。後で聴けば両チームのシートノック中には既に吹雪く場面もあったという。そして試合開始の16時には気温は2.8℃にまで下がってしまう。


 この日、私は札幌のスタジオで仙台の試合のラジオ中継を受けながら、映像も同時に見ていた。札幌も今年は春が遅い。その日もほぼ仙台と同じ気温。だから思った。これは、外で野球をする気温ではない。2℃と言えば、ダウンを着てマフラーを巻いて手袋をはめてもまだ寒いくらい。


 北海道の人は「寒さに強い」と思われがちだけど、それは勘違いで、「寒さに慣れている」だけである。家の中は頑丈な作りで暖かいし、外に出る時は絶対に寒い思いをしないように完全防備で出かける。なんならコートの下は少し汗ばんでるくらいの時もある。だから私は思った。選手の皆さん、そんな恰好でそこにいてはいけない。


 試合開始、1回の表を辛島投手にさっさと三者凡退に片付けられて、加藤投手がマウンドに向かうと、楽天生命パークには雪が降ってきた。本当に「あっ」という間にバッテリー間の視界、審判の視界を奪って、加藤投手が4球目を投げたところで中断。試合が始まってまだ11分しか経っていなかった。





 ベンチに用意されたストーブ、雪を防ぐためにグラウンドに敷かれるクリムゾンレッドのシート、作業する人の頭に降り積もる雪、吹雪いてるから何がなんだかよくわからないモニターの映像。これってプロ野球中継? と目を疑った。


 仙台では2006年、フルキャストスタジアム宮城と呼ばれていた頃以来の珍事だとか。結局、22分中断されて、その後は雪が降っても試合は継続された。もちろん気温が上がることはないまま。



あの雪は長い目で見ればファイターズに味方してくれた


 加藤投手はアウトを取るたびに、グラブを外してそれを脇に挟み、ボールを両手でぎゅっ、ぎゅっとしながら手に息を吹きかける。ロジンバッグをたくさん使う姿から「ロジンの妖精」なんて言われていることもあった加藤投手が今日は真っ白い雪の中にいる。結局、3回1安打無失点46球で降板して、4回からはバーベイト投手がマウンドにあがる。



 半袖……ねえ、バーベイト、どうして半袖……もう自分が凍えそう……なんて言ってる場合じゃなかった。そう、これがファイターズの新しいチャレンジ、新オープナーを試した瞬間だった。メジャーリーグのオープナーは本来中継ぎの投手が先発し2回以降に先発投手に引き継ぐものだけど、ファイターズが試みたのは「ショートスターター」とも呼ばれる先発投手に3回を任せ、次も先発タイプの投手が3イニングを投げる、2人の先発投手を起用する「1試合2先発制」のアレンジバージョン。


 最初、寒さと中断の影響もあるのかもと思っていたけど、試合中の木田ピッチングコーチから発表になったコメントに「加藤の3回で交代は予定通り」とあって確信した。結果、バーベイト投手1失点で、2人で6回を1失点に抑えることとなる。その後のリリーフ陣が得点されたのと打線の沈黙で敗戦とはなったけれど、次の日のスポーツ紙には「合格」の文字も躍った。監督のコメントは「常識を疑って新しいものが生まれるはず」。


 前々から栗山監督の口からは「工夫」という言葉もよく聞かれる。苦しい時には工夫が生まれる、ピンチは何か工夫をしなさいというメッセージ。マルティネス投手の離脱がこのアイデアを実行に移すきっかけになったのかなと思う。右腕の痛みで調整中のマルティネス投手は順調ならこの日の先発を務めただろうから。そして、チャレンジするのがこの日でよかったなと思う。


 加藤投手は雪中断の後も調子が良かったから、新アイデアを試す予定がもしなければいけるところまで投げていただろう。そうするとあの気温の低さで起きてはいけないことが起こったかもしれない。「手袋ください」も「ダウン着ていいですか」も、もちろん「寒いのでもう嫌です」も言えないのだから。


 試合には負けてしまったけれど、あの雪は長い目で見ればファイターズに味方してくれたんだと私は受け止めた。後はこれを続けるのなら、この起用法となる投手のモチベーションが少し気になるだけだ。でもきっとそれはチームがクリアしてくれていることだろう、私の心配なんかまったくいらない筈だ。


 あーーー、あとは。楽天さん、屋根を付けるご予定はないでしょうか。いつもとは言いません。こういう時だけ、観覧車の上からスパイダーマンのクモの巣みたいにひゅーーーーーっと出てきてバサッとかかる、終わったらひゅーーーーっと戻る保温性も抜群の屋根とかないんでしょうか。楽天さんだったら、そういうことも出来ないんでしょうか。ねえ、楽天さん……。


◆ ◆ ◆


※「文春野球コラム ペナントレース2019」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイト https://bunshun.jp/articles/11207 でHITボタンを押してください。





(斉藤 こずゑ)

文春オンライン

「仙台」をもっと詳しく

「仙台」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ