岩井俊二監督・豊川悦司・酒井美紀、映画『Love Letter』中山美穂さんへの想いを語る
2025年4月5日(土)9時20分 オリコン
公開30周年記念『Love Letter 4Kリマスター』公開初日舞台あいさつに登壇した(左から)岩井俊二監督、豊川悦司、酒井美紀 (C)ORICON NewS inc.
同映画で、中山さんは神戸に住む渡辺博子と北海道・小樽に住む藤井樹の一人二役を演じ、ブルーリボン賞、報知映画賞、ヨコハマ映画賞、高崎映画賞などで主演女優賞を受賞。
作品としても、1995年度『キネマ旬報』ベストテン第3位、同・読者選出ベストテン第1位に輝くなど多くの賞を受賞した。その後、20以上の国と地域で公開され、韓国では今年1月に9回目のリバイバル上映が話題になるなど、恋愛映画の金字塔として広く愛される続ける作品となった。
岩井監督はまず「美穂ちゃんが天国へいってしまい、その衝撃を受け止め切れていない」と、主演の中山さんがこの日の舞台にいない現実への心境を吐露。「そんな中で、『Love Letter』の4Kリマスター化の動きが本格化し、改めてこの作品と向き合うことになりました。作業中は、美穂ちゃんの映像を直視するのが苦しいところもあったのですが、美穂ちゃんに喜んでもらえるように、なんとか今日に間に合わせました」と語った。
豊川も「本当ならこの舞台に、僕の横に中山美穂さん、美穂ちゃんと呼ばせていただきますが、美穂ちゃんがいなくて本当に残念な気持ちでいっぱいです。『Love Letter』という映画は、美穂ちゃんの映画だと思っています。今日は多くの方に彼女の姿を見ていただけたことで、僕も少しだけ心が軽くなったような気がします」と話した。
酒井は「当時私は16歳で、女優になりたくて、芸能界に入ったばかりの時期でした。中山美穂さんに憧れていた私にとって、同じ役を演じる形ではありますが、デビュー作でご一緒できたことは本当に光栄でした。今日こうして、30年経っても多くの方にこの作品が愛され続けていることに、心から感謝の気持ちでいっぱいです」とあいさつした。
神戸と小樽が舞台となっている作品だが、諸事情から神戸のパートも小樽で撮影していた。1994年10月から約2ヶ月間の撮影時を振り返り、豊川は「僕が合流したのは撮影の後半。現場に入ったら、助監督をしていた行定勲くんたちスタッフが“もう終わらないかもしれない”って言ってて。でも、岩井さんの現場だから、そうなるだろうなって(笑)」
撮影に時間がかかることで有名なカメラマン・篠田昇さんと岩井監督の“二本柱”によって、現場で12時間待ちということも珍しくなかったという。「でもそれくらい待っていると、雪が降っていてほしいシーンで雪が降ってくるんですよ。これはもう、天が味方してるとしか思えなかったですね」と、現場では神がかったことが連発。そんな中で出会った中山さんの印象を、豊川はこう語った。
「現場で初対面でしたけど、『豊川さん、お待ちしておりました』って。普通の人じゃ出てこない言葉ですよね。すごく繊細な心を持っている人だと感じました。美穂ちゃんも僕もあまり話さないタイプだったので、12時間並んで座って待っていて、数言交わすだけでしたけど、その中でも通い合う何かがあった。芝居を通して、本当にひかれていく女優さんだと感じました」
さらに、「彼女は、『Love Letter』の現場を愛しているのがすごく伝わってきた。楽しむ余裕があったのかどうかは僕にはわからないのですが、たぶん、この作品の世界観が彼女にはすごくはまってたんじゃないかと思います。僕、個人の思いですが、この映画は中山美穂の代表作だと思うし、『Love Letter』の前と後で、彼女は変わったんじゃないかって」と思いを馳せた。
実は豊川は、本作の撮影に入る直前、アメリカで腰を痛めて帰国。ベッドに横になった状態で現場入りしたエピソードも明かされた。「でも毎日美穂ちゃんと会って芝居しているうちに、どんどん調子が良くなってきた」と顔をほころばせて話していた。
岩井監督もキャスティングの裏話として、中山さんとの初対面での意外なやりとりを明かした。「プロデューサーの提案で中山さんをご紹介いただいたんですが、最初に会った時、『私、映画あまり好きじゃないんです』って言われて(笑)。断られるのかな?って思いました。僕も長編映画は初めてなので、一緒に映画を作って、撮り終わった頃には映画が好きになったらいいですね、ととりつくろった覚えがあります」。
渡辺博子と藤井樹、一人二役を演じる役づくりにも迷っていたという。「前半に藤井樹のパートを撮って、折り返し地点で美穂さんから“渡辺博子をどう演じていいかわからない”と相談されたんです。美穂さんはご自身を“藤井樹”タイプだと思っていたみたいで。でも僕は、渡辺博子寄りの方だと思っていたから、“そのままでいいんですよ”って言いたいくらいでしたけど、かえって混乱させてしまうかなと思って、遠回しにいろいろ説明していたら“わかった気がします”って。それで本当にこちらの思惑通りの演技をしてくださった」。
いい意味での不器用さが中山さんの魅力だったと、岩井監督は続け、「あの独特な、見飽きることのない。美しさや表現力につながっていたと思います。彼女のラビリンスを垣間見た、なんかそんな印象ありました」と当時を振り返った。
中山さんが演じる藤井樹の高校時代を演じた酒井は「初めてお会いしたのは、小樽のロケバスの中。舞い上がってしまって…。でもそんな気持ちを出しちゃいけないって、必死に自分を抑えたのを覚えています。本当に美しくて、まぶしくて、見えないくらいでした」と、回想。「私にとっての原点であり、宝物のような作品」と語っていた。
豊川は「この映画は、関わったすべての人のキャリアにとって大きな意味を持っていると思います。初めての方には中山美穂という女優の素晴らしさを、何度も観ている方にはこの作品がますます大切な宝物になるように願っています」と、本作の上映中に映画館に足を運んでほしいと呼びかけた。
最後に岩井監督は「まさか30年後にまたスクリーンで観られるとは、夢にも思っていませんでした。『Love Letter』という船にずっと乗っているような30年で、美穂ちゃんは亡くなってしまいましたが、この縁(えにし)はまだまだ続く気がしていますし、末永く続いてほしい」と、締めくくった。