「自分で稼ぐ」職業人と、夢を抱えて入社する新入社員の狭間で

4月6日(土)6時0分 文春オンライン

 振り返ってみると、一番最初にお世話になった会社を半年で辞めている私にとって、この季節は「ああ、自分もこういう初々しい時期があったのかな」と甘酸っぱい気持ちになります。


 エモいところを切り出して文章にしてみたのですが、夢いっぱいだったり、入社するにあたって選ばれてあることの恍惚と不安と二つ我に在りって心境だったりは、自分の心の中の在庫を探ってみてもあまり思い当たりません。そんな私ですので、いまこれから新しい人生を開こうという新入社員に、偉そうなことを言える身分ではない、そんな資格はないのです。


 ただ、「これで書け」とテーマを投げられ、どのような球でもしっかり打ち返すモノ書きのプロとして、これから会社や取引先、お客様の期待に応えてお金を戴く一線に立つ皆さんに、参考になることが100グラムでもあればと思って書いてみました。


仕事が続かない童貞のエトセトラ

https://note.mu/kirik/n/n4baed1393b19


私のいた時代とは少し違う、スペシャリストの採用


 仕事柄いろんな会社を訪問したり、投資先にお邪魔をしたり、あるいは研修に呼ばれて新入社員の前で喋ったりということがある私としては、等しく職業人の入り口に立って、頑張って環境に適応していこうとしているのだなあという若者たちの緊張が伝わってきます。


 着慣れないスーツに身を固めた、いまだ嘴の黄色い若者たちの前途を輝かしいものにするにも、やはり環境への理解と各々の性格やスキル、特性に対する理解とをすり合わせながら、一歩一歩前に進んでいく、これしか職業人として必要なことはないと思っています。例えば、ご一緒しているある企業では、さっそくオリエンテーションがあり、今年も1時間半ほど新入社員は何をするべきかという小さなワークショップをやったのですが、私のいた時代と違い、いまでは技術者はほとんどがスペシャリストとして採用されています。企業の規模が大きいからというのはありますが、人事もかなり気を遣って、本人が希望する配属先を最大限叶えることを前提に、採用も研修も配属もする、というのが当たり前の世の中になってきた、というのがあります。



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即戦力として期待される若者たち


 一方で、いろんな現地で即戦力を期待される子たちは、わずかな本社研修を経ていきなり店舗や現場へ配属され、そこにいる諸先輩たちからのOJT気味の「身体で覚えろ」的な試用期間を迎えます。大学で一緒だった子たちもいきなり営業のカバンを渡されたり、技術グループのリーダーに「ちょっとこのコード書いてみて」みたいに試されたり、みんなそれぞれの環境で職業人になるための訓練が待ち構えているようであります。


 また、山本家も下の子が保育園を移ったので入園式に出席してきたのですが、そこでもついこの前までリクルートスーツだったであろう正装をした若い女性が新任の担当保育士の一人ですと言って挨拶をしていました。こんな若い子に拙宅山本家の面倒くさい三男が無理なくお世話されるだろうかと思うと不安でいっぱいです。ややこしいし、煩いですよ、うちの三男は。ほんと、よろしくお願いします。しかし、数日もしないうちに真新しいエプロンで率先して面倒くさい三男も他の騒ぐボーイズも立派に捌いている若い女性を見て、ああ、この新しい仕事の門出で幸あれと思うのです。



会社で働くこと自体に大きな夢を抱けず


 若い人たちを見ていて、最近特に感じるのは「したくて入った会社なのかな」とか「この仕事が好きになってくれるのかな」という点です。私などは、すでに証券投資に手を出し、大学の自治会をやっていた変な新入社員でしたから、世間ずれをしすぎていた分、会社で働くこと自体にあまり大きな希望や夢を抱けずに入社しました。


 目の前のカネが欲しくて、でも世間体もあり、私の当時は内定を取りいい会社に潜り込んでなるだけ長く勤め上げるのが職業人の道だと教えられましたし、私もそう思っていました。20代のころは修業期間と弁えていろんなものを吸収して良い職業人になりなさい、と親も大学も先輩も証券会社で当時ご担当だった証券営業マンも言っていたので、きっとそれが常識なのだろうと思い込んで、よせばいいのに就職してしまったわけです。その結果が、私にとっては勤め人が半年ぐらいしか続けられなかったのは痛恨です。もっと、いろんなことを経験し、我慢しても良かったかもしれない。入社した会社にとっても私にとっても時間を無駄にしたなあという思いもなきにしもあらずです。


 しかし、いまは時代が違います。転職が当たり前になり、数年も勤めないで新しい環境に飛び込んでいく人もいれば、立派にプロパーとして長く頑張る人も出ます。いろんな選択肢があっていいのです。会社だって、本当に何年続くか分からないし、会社に骨を埋める必要もない。そして、判断のきっかけには報酬(ギャラ)の問題が重要だという人もいれば、働きやすい環境を求める人、華やかな職種や堅実な仕事がいいという人が、思い思いの働き方が実現できる社会に向かっていっているように思います。



職業人として正しい努力とは何か


 そして、職業人として一番重要なことは「それはやり遂げたい仕事なのか」です。何をして、感謝されたい人になりたいと考えているのか。最初は漠然としているかもしれないけれど、働く中で様々な経験をして、自分の中で自分とは何をする人なのかを踏み固めていくことが大事だと感じるのです。


 おカネをもらって働くからには、気乗りしないときでもスランプでも一定の成果を出し続けられることで、はじめてプロと呼ばれます。ヤバイ、これは自分にとって得意なテーマではないぞ、面倒くさい気持ちが湧き起こる前に伝えたいことを書ききってしまわなければ。モチベーションを自分で管理し、コツコツと頑張ってやっていける、誰かに指示されずとも必要なことは知ろうとし、インプットとアウトプットを大きくしながら物事に取り組み続けて行けるのかが、どのような職業人であれ求められる資質になってきます。正しい努力とは何かを考え、アンテナを高くして、きちんとした報酬を貰い、家族を養い人生を充実させることが求められるのは、新入社員ならずとも働く人すべてに問われる事象であると思います。


 でも、気が乗らないと続けられない人がいます。私みたいに。ああ、組織向いてねえ。人に使われるのはゴメンだが、人を使うのも面倒くせえ。仕事なんか良いからいつまでも野球を観てゲームをしていたい。上で幹部同士が揉めてるとクソを投げ込みたくなりますし、理不尽な要求をしてくる上司や取引先がいたらうまくサボタージュすることしか考えません。外資系大手のGoogleが採用するときに最も重視するのは「その人と働いていて気持ちよいかどうか」だそうですが、そんなのやりたくない仕事が出てきたときや、どうしようもない関係先から変な仕事を押し付けられたらぶん投げたくなるに決まってるじゃないですか。




価値あるものをどれだけ生み出せるか


 そういう「ああ、面倒くさいな」という自分の気持ちとの戦いなのです。やりたくない作業をし、つまらない人たちと付き合い、興味のないプロジェクトに従事する。いつも「くだらねえな」と思うわけですね。こんなの全部なげうって、ゲームしたいし野球が観たい。そういうやってられない物事に対して、遺憾ながら、面倒くさくても手を付ける。いったん手を付ければある程度集中できる。しばらくしたら集中力が切れて、またダラダラするという繰り返し。


 その集中しているところで、価値のあるものをどれだけ生み出せるのか、面倒くさいことをいかにうまく処理するのかで、他の人や会社からお金をもらって頑張れる、プロの職業人が生まれる。それがすべてだと思うのですよ。



 あー、今日も一日働いた、って言えることの素晴らしさ。明日もまた面倒くさいけどもうこれで終わりにして今日はもうゲームしよ。これを繰り返して、人は歳を取り、疲れていくのです。


ライバルが勝手に定時退社する時代が来る


 で、本当にしたいこと、頑張りたいことが見えているなら頭一つ上に出る方法はある。真面目にやることです。この世はこれから働いて上を目指したい人にとってはやりやすい時代になりつつあります、なんてったってライバルが勝手に定時退社する時代が来るんですからね。頼まれればすぐに返答して、納期を守って、面倒くさくても相手のしたいことを理解して先回りして要領よく仕事ができさえすれば、きっと将来仕事に困ることは無いでしょう。


 仕事も面倒くさい、同僚も上司も取引先も業界トレンドのフォローアップも全部面倒くさいのが職業人ですし、人生です。


 そういう面倒くさいことに立ち向かう自分の気持ちとの戦いに勝利して、立派な社会人になっていってほしいと思います。




(山本 一郎)

文春オンライン

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