【インタビュー】「すごく濃い1年だった」躍進のいま、自分探しの中で――杉野遥亮の想い

2022年4月6日(水)7時45分 シネマカフェ

杉野遥亮『やがて海へと届く』/photo:Maho Korogi

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「誠実に」というワードがインタビュー中、何回か杉野遥亮から発せられた。俳優という職業においても、プライベートでも、彼が大切にしている“誠実”。

杉野さんの映画デビューは2017年に公開された『キセキ -あの日のソビト-』だった。GReeeeN結成と、その後デビューし名曲「キセキ」が作られるまでの実話をベースにした同作において、杉野さんは菅田将暉横浜流星成田凌とともにGReeeeNのメンバーとして演じ切った。あれから5年、年を追うごとに人気も知名度も実力も、もしかして本人が予想だにしないほどジャンプアップしている。引っ張りだこの人気者は、今、何を思うのか。

「自分的に、この1年は濃かったなと思っています。目の前のことに精一杯だった感じがして。充実なのかな、振り返ったときに“あ、あの1年頑張ったな”と思える1年ではあったと思います。けれど100%楽しめていたかと言われると、判らなくて。なんか必死だったんです」

それは「自分探しをしている感覚」と杉野さんは言う。

「自分探しは自分自身もだけれど、役者として(の自分)も探しているんです。“どうあるのがいいんだろう”、“どこにどうやって向かっていくんだろう”ってずっと模索しながら、毎日目の前のことに一生懸命向かっていた感じがしていて。しんどかったといえばしんどかったから、この1年は」

そう言い切ると、一息ついた。忙しさ=作品のオファーが多く、充実の俳優人生と変換できるようにも捉えられる。杉野さんも本音は、「本当の理想は、やっぱり真剣に楽しくものづくりを続けていけたらいいな、と思ったりします。そういうことを常に考えてしまうというよりも、結構ちゃんと誠実に、真剣に生きているだけなのかもしれないです。どうやったら目の前のことを楽しめるようになるかなって、常に模索していった1年でした」。

悩みながらも着実に歩みを進めた1年。では、遠い未来の10年後だったら? 杉野さんはどんな自分になっていたい?

「35歳とか36歳か…! もうだいぶ大人ですね。正直“未来は絶対こうなっていたい!”とかはありません。願望とかはなくて、なるようにしかならないしな、と思っていて。ただ、なんか…誠実に生きていてくれればいいかな、とは思います。俳優の仕事をやらせてもらっているんだから、自分に嘘をついたり、何かに執着して自分に無理をするような10年後ではいたくないなと思います」

颯爽とした雰囲気を持つ彼だが、伝える言葉は非常に明快で、かつ気持ちがこもっていた。




ふたりの関係値をふたりで探している感じに、僕はとても共感をする

TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開中の『やがて海へと届く』は、岸井ゆきの主演、浜辺美波が共演する物哀しくも美しい感動の映画だ。ある日、ひとり旅に出て行ったきり突然いなくなってしまったすみれ(浜辺さん)。その不在をずっと受け入れられない親友の真奈(岸井さん)と、すみれの恋人だった遠野敦(杉野さん)たちの物語。真奈とすみれの出会いから蜜月、敦が関わり様々なことが変わっていく様子が描かれていく。

敦はすみれの恋人でいながら、真奈からはあまりよく思われていないポジション。すみれは達観したような雰囲気を持つ女性だが、敦は彼女の全貌を掴んでいるようで、いない、しかしどうなのか…と演じ方次第で印象が変わる存在だ。敦と向き合った杉野さんは、「自分がひとつ思っていたのは、この人はわかったようなふりをして弱いところがあるな、と。その表現ができればいいなと思っていたのと、すみれに対する気持ちがどの程度なのか、いなくなってから数年経ってからの真奈と遠野の関係値はどこまでなのかを探りました。監督に調整してもらいながらやっていたんです」と撮影時を振り返る。

作品において真奈とすみれはいわゆる親友関係だが、中川龍太郎監督は「この物語が岸井さん演じる真奈と、浜辺さん演じるすみれの時間や空間を超えた“ラブストーリー”だと思っています」としている。ふたりの関係性は観客の想像に委ねられているが、杉野さんから見ると、単純に「とてもいいふたりだなって思う」という。当てはめることはせずに。

「どういった関係値なんて(決めないで)よくないですか、と思うんです。最近、友達とか恋愛とか親友とか、その括りがよくわからないなと思っています。女性同士とか男性同士とかも別に何だっていいよねという価値観は、自分も理解できるんです。本人たち次第だし、僕からしたら、このふたりはみずみずしくていいなとただただ思うから。

僕は何よりも、人として心があることが大事かなと思っていて。相手を思いやれることや、相手を大切に思う気持ちが大事だから、僕自身もあまり区分けとかをしたことがないんです。自然と今、自分の周りにいる人は大事にしている人なんです。だから枠組みから決めるのって違うよな、と思う。“彼女を作る”“親友を作る”というのもおかしな話で、気づいたらもういた、気づいたら大切だった、みたいなことのほうが自然だと思います。外側で決め込むことがおかしいから、このふたりの関係値をふたりで探している感じに、僕はとても共感をするんです」。




杉野さんの仕事とプライベートの切り替え方法とは? 最近編み出したことは…

映画には、様々な楽しみ方がある。例えば、『やがて海へと届く』は尊い人と二度と会えなくなってしまった経験をした人には、心が抱えた鈍い痛みに寄り添ってくれるような、どこか救いになるような感慨を抱く。一方で、非現実的なアドベンチャー的面白さを味わえるような作品、恐ろしさにハラハラする作品など、多彩なジャンルを我々は普段、映画から享受している。出演者側の杉野さんは、普段どのような楽しみ方、映画との向き合い方をしているのだろうか。

「演じる側としては、エンタメとして届けたいという思いと、メッセージ性を伝えていけたらというどちらもあります。でも、僕個人にとって映画は…今はエネルギーをもらうものなのかな。エネルギーをもらいたいし、明日の活力になることを、今自分自身は求めているかもしれないです」。

「例えば」と前置きし、杉野さんは「『グレイテスト・ショーマン』みたいな作品は、本当にザ・エンタメで、エネルギーをもらえますよね!」とうれしそうに話す。俳優という立場を思うと、観ているうちに「自分も興行師のバーナム(ヒュー・ジャックマン扮する)を演じたい」などの思いも湧いてきそうだが?

「あ、僕はエンタメとして楽しむためにしか観ないので、そういう考えには行かないかも。観ていて“こういう役をやりたい”とかも、あまりないんです。スイッチを切って観ているからかな…? 逆にオファーをいただいたりして、“あ、やりたい!”と心が動くことが多いです」。

「スイッチを切る」とは、実に俳優らしい言葉だ。どんな作品や役をやっていても、自分に戻る瞬間が一番ホッとできるとき。杉野さんは、「実は切り替え、下手です」とはにかんだ。「切っているようで切れていないな、とか、切っているように思っていたけど切れていなかったな、と思うことが結構あるんです」。だからこそ、あえて切り替えられるように最近は作戦を立てている。

「家に帰ったら本来の自分に戻れるように、自分の好きなもので囲まれたらいいのかもと思ったので、家具もいいと思ったものをこだわって置いたりしています。オシャレかは…わからないです。あとは、まだ叶っていないけれど、ちょっと郊外に行ってゆっくりしたいなと思ったりもしています。仕事や自分に負担にならない感じで、ぼーっとしたいです」。

誠実に俳優業を邁進する、杉野さんの進化がますます楽しみだ。

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