朝ドラ『まんぷく』の夫婦は、ドラえもんとのび太のような関係だった

4月7日(日)6時0分 文春オンライン

 新元号「令和」発表とともにスタートしたNHKの朝ドラ『なつぞら』。可愛いですよね、広瀬すずも子役も。そして画面から醸し出される『アルプスの少女ハイジ』感。もちろん、草刈正雄がおんじです。なんとなくクララとペーターっぽいキャラもいて、あとはロッテンマイヤー先生、大きな犬の登場が待たれるところですが、みなさんの記憶が鮮やかなうちに、平成最後の朝ドラ、あの夫婦の物語を振り返ってみたいと思います。


まんぷく』最終回、売り上げが低迷していた「まんぷくヌードル」を歩行者天国で試食販売するまんぷく食品の社員たち。その作戦は大当たりで商品は完売。「福子、ふたりで外国に行こう。世界には僕たちがまだ食べたことがない麺がたくさんある」「はい、行きましょう、萬平さん!」……全151話に渡った福子(安藤サクラ)と萬平(長谷川博己)の長い旅路は、タイの水上マーケットで明るく幕を閉じました。



朝ドラあるある”最終週の過去キャスト登場”


 朝ドラあるあるですが、最終週は大団円に向かって、過去の登場人物たちも続々と登場。うさぎの着ぐるみでお爺ちゃんコントを見せた加地谷(片岡愛之助)さんや、かつて福子に恋をしていた野呂(藤山扇治郎)さん、白馬・蘭丸号のその後が気になる牧善之介(浜野謙太)と、例のCMパロディ「まんぷくヌードルだぁーい好き」をサクっとブッ込む妻の恵(橋本マナミ)、真一さんの後妻・好美(東風万智子)さん。そして鈴さん(松坂慶子)の生前葬に現れた元・塩軍団の赤津(永沼伊久也)! 登場時間5秒弱の赤津ーーっ!


 それにしても、鈴さん80歳が完走してくれて本当に良かった。「私は武士の娘です」のパワーワードと抜群の間合いでたくさんの笑いを生み出した鈴さんですが、じつは彼女はこのドラマにおいて重要な役割を担うキャラクターでもありました。


福子の母・鈴を演じた松坂慶子 ©AFLO

感情と理性の両面からダメ出しできる、義母の特権


 福子の母・鈴さんの『まんぷく』における大事な役割、それは「萬平にある種、批判的な目を向け、それを言葉にする」こと。


 通常、この役割は妻が担当しますが、福子は世界で1番の萬平信奉者。さらに親戚やまんぷく食品の社員、友人たち、行きつけのパーラー経営者まで「萬平さんはすごい発明家」「萬平さんなら大丈夫」「萬平くんは天才や」と萬平マジックにヤラれているため、彼に感情と理性の両面からダメ出しできるのは義母の鈴さんオンリー。


 過去には福子の「萬平さんは発明家」というフレーズに「そう? 私には行き当たりばったりに見えるけど」と真っ当な疑問を呈し、泥棒に入った神部(瀬戸康史)を家に置くことにも当然猛反対。泉大津での塩作りには「塩でお金が入ってくるの?」。できた塩には「茶色い、茶色いっ!」。


 視聴者にとっても彼女は萬平に対するモヤモヤやイライラを代弁してくれる毒抜き的存在であったワケです。鈴さん、ありがとう! 忘れないよ、ブシムス!



『まんぷく』の主人公は福子であり、萬平ではない


 また、結婚当初からつねに萬平を信じ、支えてきた福子——「まんぷくラーメン」ターンと「まんぷくヌードル」ターンでは、そのテンションが少し変わったものの、やはり彼女は最後まで自分が前に出ることなく、夫を支え、助ける妻でありました。



「まんぷくラーメン」開発時には喫茶店のパートで家計を担い、なにかに憑りつかれたかのように研究に没頭する萬平を「信じます」「大丈夫」「萬平さんはきっとやれる」と『巨人の星』の明子姉さんばりに柱の陰から見つめ、励ましサポートし続けてきた福子。


 そして「まんぷくヌードル」のターンに入ってからは、麺を容器に上手く入れ込む技術も、カップのふた圧着の方法も、若者にアピールできる場所で売ればいいという作戦も、すべて福子が日常生活から得たヒントが発端。萬平は福子発信のアイディアをもとに、「福子、それだ!」と一気に問題を解決していくのです。


 あれ? これってなにかに似ている……私たちがよく知っている、あの優しい世界に。


 困難に見舞われる萬平にさまざまなアイディア=“ひみつ道具”を出して、その挑戦を後押しし、陰からそっと見守る福子。


『まんぷく』において、福子はドラえもん、萬平はのび太でした。



 2月に寄稿したコラム「 朝ドラ『まんぷく』で『萬平さん』連呼の安藤サクラにモヤモヤする 」の中で、「萬平さん」ではなく「わたし」が主語になる福子が見たいと書きました。『まんぷく』の主人公は福子であり、萬平ではないはずだと。



『まんぷく』におけるドラえもんとのび太の関係


 でも、物語のふたりの関係性を『ドラえもん』の世界に置き換えてみると、キャラクター構成に頷ける点もあるのです。つまり『ドラえもん』のタイトルロールもメインキャラも当然ドラえもん。ですが、事件を起こすのも、トラブルを持ち込むのも、それらをひみつ道具を使って解決し、成長するのはすべてのび太。ドラえもんはいつも変わらずのび太に寄り添い、最適なひみつ道具を渡して彼の成長を見守る存在。


『まんぷく』におけるのび太こと萬平も、「まんぷくヌードル」ターンで以前とは違ういくつかの成長を見せました。


「まんぷくラーメン」開発時には「僕を研究に集中させてくれ!」と、家のことや子どものことを福子に丸投げし、自分がやろうとしていることこそが世の中のためになる!と、半径1mのすべてをおざなりにしていた萬平。が、時を経て「まんぷくヌードル」の製造・販売ターンに入ってからは「ありがとう、福子。お前のおかげだ!」と、つねに感謝をきちんと言葉と行動で伝え、さらに会社でも社員たちに頭を下げてお礼を言える社長に。



 かわって、ドラえもんこと福子は……困った時や悩んだ時に前髪を触るクセをやめたこと以外、なにも変わりませんでした。最後まで「わたし」が主語になることもなく。でも、それはそれでいいんです、だって彼女はドラえもんなのですから。ドラえもんが一番嬉しいのはのび太が苦難を乗り越え問題を解決し、笑顔でこう口にする時なんです「ありがとう、ドラえもん! ドラえもんのおかげだよ!」と。


朝ドラのセオリーを外れた、徹頭徹尾「夫婦の物語」


 そんなドラえ……いえ、福子と萬平の40年以上に渡る半生を描いた『まんぷく』は、「女性のお仕事ドラマ」「家族のお話」という朝ドラのセオリーを華麗にスルーし、徹頭徹尾「夫婦の物語」として展開しました。ここまで互いのことを無条件に信じ、肯定し合ってきた夫婦は歴代朝ドラの中でも稀有だったと思います。本当、ケンカさえしなかったもんね、福ちゃんと萬平さんは。



 と、毎朝エビだのスクランブルエッグだの謎肉だのの開発過程を見るうちに、やっぱり買ってしまった日清カップヌードルのデフォルト。これを食べつつ、最終回をもう1度リプレイしてみましょうか。「まんぷくヌードル」の命運をかけた歩行者天国での販売日、人ごみの中で風船を配っていたピンクのうさぎの着ぐるみが、ふたりに救われ、人生をやり直した加地谷さんだといいなあ、と願いながら。



(上村 由紀子)

文春オンライン

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