M・スコセッシ×GUCCIがコラボ支援「失われた傑作」『WANDA/ワンダ』日本初公開へ

2022年4月7日(木)19時0分 シネマカフェ

『WANDA/ワンダ』 (C)1970 FOUNDATION FOR FILMMAKERS

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マーティン・スコセッシやイザベル・ユペール、ソフィア・コッポラら、世界中の名立たる映画人やアーティストたちから愛される映画『WANDA/ワンダ』(1970)が7月9日(土)より日本初の劇場公開となることが決定。日本版ポスター、場面写真、予告映像が解禁された。

ペンシルベニア州。ある炭鉱の妻が夫に離別され、子どもも職も失い、有り金もすられる。少ないチャンスを全て使い果たしたワンダは、薄暗いバーで知り合った傲慢な男といつの間にか犯罪の共犯者として逃避行を続ける…。アメリカの底辺社会の片隅に取り残された崖っぷちを彷徨う女性の姿を切実に描き、70年代アメリカ・インディペンデント映画の道筋を開いた奇跡のロードムービーとなるのが本作。

監督・脚本・主演のバーバラ・ローデンは生まれ故郷ノースカロライナ州での虐待を受けた子ども時代から逃れ、16歳でニューヨークに移り住んだ。ダンサーやピンナップモデルを経て俳優になった彼女は社会派の巨匠エリア・カザン監督映画『草原の輝き』(61)に出演。1964年、カザンの演出でアーサー・ミラーの戯曲「アフター・ザ・フォール」でトニー賞の主演女優賞を受賞。カザンはローデンの演技を「彼女のやっていることには、常に即興の要素、驚きがあった。私の知る限り、そんな役者は若い頃のマーロン・ブランドだけだった」と賞賛。その後ローデンは、カザンと二度目となる結婚をする。

長年、女性らしさに縛られ、女性らしさを売り物にしてきたローデンは、30歳を過ぎたころ、自身のアイデンティティや目標を見出せない従順な女性像に疑問を持ち、本作『WANDA/ワンダ』を製作。「エリア・カザンの妻」と呼ばれ、他人に書かれた役を演じることから、彼女自身が辛うじて逃れてきた生き方を実証した。1980年、乳がんにより48歳の短い生涯を終える。


世界中で愛された傑作がいよいよ日本初の劇場公開へ

1970年ヴェネチア国際映画祭最優秀外国映画賞を受賞したアメリカ映画であり、1971年カンヌ国際映画祭で上映された唯一のアメリカ映画として注目されたが、その名声とは裏腹にアメリカ本国ではほぼ黙殺された作品。この映画の精妙さは、人伝てによって広まり、フランスの小説家・監督のマルグリット・デュラスはこの映画を「奇跡」と称賛し、ローデンの演技を「神聖で、力強く、暴力的で、深遠だ」と驚嘆する。本作を公開するためなら何を差し出してもいいと褒めたたえる彼女は、「本作をいつか配給することを夢見ている」と映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」で語った。

その後も、ローデンが監督した唯一の本作は同世代の女優や映画監督たちに多大な影響を与え続けながらも、長い間、観ることのできない伝説的作品として認知される。

デュラス、スコセッシ、ユペールはもとより、カンヌ映画祭常連のダルデンヌ監督兄弟、親交の深かったジョン・レノンオノ・ヨーコ、カルト映画の巨匠ジョン・ウォーターズ、現代アメリカ映画の最重要作家ケリー・ライカート、ガーリーカルチャーの旗手ソフィア・コッポラなどが口々に尊敬の念を込めて「失われた傑作」と評価し、ローデンを不世出の作家として敬意を表する。「私は洗練された映画が大嫌い」と言い放つローデンの荒削りな美学で骨の髄まで削ぎ落とされた本作には、その後の数多くのインディペンデント映画で用いられるスタイルが見て取れる。常に動いているカメラワーク、無名のロケーション、奇抜さや奇妙なキャラクターを求める姿勢など、このスタイルを駆使した最初の女性監督による映画といえる。


M・スコセッシ監督のザ・フィルム・ファウンデーションとGUCCIの支援によりプリント修復

2003年、ユペールはデュラスの意思を引き継ぐかのように、映画の配給権を買い取り、この幻の映画をフランスで甦らせる。2007年、閉鎖前の「ハリウッド・フィルム&ビデオ・ラボ」の書庫を訪れた「UCLAフィルム&テレビジョン・アーカイブ」の修復師が、放置されていたオリジナルのネガ・フィルムを発見し、破壊から救い出した。2010年にはスコセッシ監督が設立した映画保存運営組織「ザ・フィルム・ファウンデーション」とイタリアのファッションブランド「GUCCI(グッチ)」の支援を受け、プリントが修復。この修復版は、ニューヨーク近代美術館で上映され行列ができるほど大成功を収める。

本作の熱烈な支持者であるというソフィア・コッポラ監督が自ら紹介、観客の中にはマドンナの姿もあったという。同年、ヴェネチア国際映画祭で再び上映。2011年には、BFIロンドン映画祭やロサンゼルスの保存映画祭でも上映される。2012年には、フランスの作家ナタリー・レジェが「バーバラ・ローデンのための組曲」を出版、英訳もされローデンの評価はいっそう高まった。

そして2017年「文化的、歴史的、または審美的に重要」と後世に残す価値がある映画として『スーパーマン』(78)、『フィールド・オブ・ドリームス』(89)、『タイタニック』(97)などと共に認められ、アメリカ国立フィルム登録簿に永久保存登録される。時間が経つにつれて貴重な作品として認識された本作は、アメリカ映画の公式な歴史にはほとんど登場しない。だが、ニュー・ハリウッド時代の金字塔、アメリカ・インディペンデント映画の代表作として、大西洋との両側でカルト映画として注目され続けている。


イザベル・ユペール&ケリー・ライカート、本作へのコメント

イザベル・ユペール(フランスの女優)
『WANDA/ワンダ』は紛れもなく映画界の最高傑作のひとつに数えられる。ローデンは、です。『WANDA/ワンダ』の中には、映画業界のメタファーを見逃さずにはいられませんでした。悪党とその共犯者、まるで映画監督とその女優のように。そこでは、従順で要求が多く、咎め立てられずに消費される一方で、男たちは、映画監督たちは、ちっぽけなヤクザ者として振る舞うのです。全てが非合法な文脈の中にあるものです。映画では、表向きに語られていることもあれば、その裏で語られていることもあります。バーバラ・ローデンは映画のアウトロー的な側面について極めて上手く訴えています。

ケリー・ライカート(映画監督)
なぜバーバラ・ローデンは映画史の中でもっと称賛されないのでしょうか? 私には理解できない。彼女の演技やフレーミングのセンスもさることながら、この映画で彼女が思いもよらない方法でジャンルを弄んでいるのが好きです。当時、他に誰がそんなことをやっていたのでしょう? 場所と人々の真の感覚を得ることができ、脇役も皆素晴らしい。

『WANDA/ワンダ』は7月9日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開。

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