「手塚治虫さん的な<明るい未来>への反発もあったかも」大怪虫来襲や疫病発生、未来人類との戦い…『漂流教室』で楳図かずおが描きたかったこととは?

2025年4月7日(月)12時30分 婦人公論.jp


「漂流教室」から(C)楳図かずお

『漂流教室』『まことちゃん』などの名作を生み出した漫画家・楳図かずおさんが、胃がんのため2024年10月28日に逝去されました。その楳図さんが、2023年に読売新聞で連載していた「時代の証言者/楳図かずお 『怖い!』は生きる力」がこのたび大幅加筆され、書籍『わたしは楳図かずお-マンガから芸術へ』として刊行。生前に楳図さんが記者・石田汗太さんを相手に語った<決定版自伝>から、一部を抜粋してお届けします。

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漂流教室


「漂流教室」(1972年)のことをお話ししたいと思います。

—改めて言うまでもない1970年代の代表作。小学校の校舎が丸ごとタイムスリップし、文明が滅びた地球に放り出される。子どもたちの必死のサバイバルが始まる。

基本にあったのは、やはりジュール・ベルヌの小説「十五少年漂流記」です。あれのもっと規模壮大なものをやりたかった。校舎丸ごとにしたのは、主人公の高松翔(たかまつしょう)が終盤に叫ぶ言葉(「ぼくたちは、何かの手により、未来にまかれた種なのだっ!!」)を実現するには、15人ではとても足りないだろうと思ったからです。人類の未来を背負っていくためにはね。

もう一つ、「未来が危ない」というテーマがありました。当時は光化学スモッグで小学生の目が痛くなったり、廃棄プラスチックによる環境汚染が指摘されたりしていました。そういう漠然とした不安を掘り下げてみたかった。僕は作品のテーマを理屈で考える方ではありません。あくまでカンなんです。「このまま、未来にいいことばかりあるはずないぞ」っていうね。

今振り返ると、手塚治虫さん的な「明るい未来」への反発もあったかもしれないと思います。手塚さんの反対を行こうという感じですね。

「ちょっと後悔したのは……」


—この作品では綿密なプロットメモを作り、結末も決めてから連載を始めた。

他の作品では、何も決めずに描き出しちゃうことが多いんです。やったとしても、全体を三行のメモでまとめる程度でした。ここまできちんと設計図を引いたのは「漂流教室」だけです。特に理由はないんだけど、新しいことを試したかったんだと思います。


『わたしは楳図かずお-マンガから芸術へ』(著:楳図かずお 聞き手:石田汗太/中央公論新社)

—この「漂流教室 創作ノート」は、小学館の「楳図パーフェクション!」版「14歳」(全4巻)の購入者特典として復刻された。普通のノートに手書き文字で、連載各回のプロットが詳細に書かれている。シーン細部に多少の違いはあるが、プロットはラストまで完成作品とほぼ同じ。連載前から明確なイメージができていたことを示している。

ちょっと後悔したのは、クラス全員の顔も設定しておけばよかったなって。そこまではやってなかったですね。「柳瀬君」っていう子が出てくるんですけど、本当は「梁瀬君」だった。実は五條市で僕がかかっていた医師の梁瀬義亮(やなせぎりょう)先生から取ったんですね。

大人で唯一生き残るのは……


—未知の世界に放り出されて、最初に心に変調を来(きた)したのは、目の前の現実を受け入れられない大人の先生たちだった。理想的な教師だった若原先生が悪鬼のように変わっていくさまは衝撃的だ。

僕がまず、描きたかった逆転がそこです。現代では「悪い子」としか見られない子どもが、この世界ではリーダーになる。逆に、現代で指導的立場にいる大人は環境の激変に耐えられない。子どもの方が未成熟な分、適応能力が高いと思うんですよ。

—大人で唯一生き残るのは、目立たない「給食のおじさん」だった関谷。性格が邪悪に豹変し、最後まで翔たちを徹底的に翻弄する。

彼に人気が出たのは意外でした。ずるがしこい一方で、間抜けなところが受けたのかな。幼児返りして三輪車に乗ったりね。この人は適応力というより、自分に理解できないことは徹底的に無視して、目の前の現実しか見ない人だから、逆に強いんだと思う。

でも、関谷は話を面白くするための人物でしかないんです。ああいう悪役が一人いないと、お話が面白くならない。そこは計算ずくですね。作者が適当にいたぶっちゃったところのある、かわいそうな人なんです。

—「漂流教室」は、大怪虫の来襲や疫病の発生、異様な姿の未来人類との戦いなど、冒険アクションとして波乱万丈の面白さだ。さらに、楳図さんが貸本時代からずっと挑戦してきた「時間SF」の最高傑作にもなった。

※本稿は、『わたしは楳図かずお-マンガから芸術へ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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