稲泉連「〈廃炉〉という、困難な仕事に挑む人々を取材して」

4月8日(木)12時50分 婦人公論.jp


「廃炉という、前例のない困難な仕事に挑む人が何千といる。彼らはどのようなことを考えているのか聞いてみたい、と心が強く動かされた」(稲泉連さん)撮影:藤岡雅樹

東日本大震災をテーマに『命をつなげ』『復興の書店』といった著作を世に出してきたノンフィクション作家の稲泉連さん。新刊『廃炉ー「敗北の現場」で働く誇りー』では、福島第一原発を取り上げている。(構成=本社編集部 撮影=藤岡雅樹)

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前例のない困難な仕事に挑む人々


ノンフィクションを書き始めた20 代の頃から、「働くこと」への関心が常に自分の根底にありました。2011年に発生した東日本大震災後に取材したテーマも、東北の大動脈と呼ばれる国道45号や、被災した書店などの現場で働く人々を追ったものです。2冊を書き上げてもなお、震災のことが心から離れず、取材を続けていました。

初めて福島第一原発を訪れたのは、17年の9月のことです。当時、町の一部が帰還困難区域内だった双葉郡大熊町内は静まり返っていましたが、ひとたび原発の敷地に入ると、作業服を着た人が大勢行き交う「仕事の現場」が突如として現れました。廃炉という、前例のない困難な仕事に挑む人が何千といる。彼らはどのようなことを考えているのか聞いてみたい、と心が強く動かされたことからこの本の取材が始まりました。


『廃炉  「敗北の現場」で働く誇り』稲泉連・著、新潮社

廃炉には、社会から常に厳しい視線が向けられています。家族や友人から原発の仕事をすることを反対された人も多かった。しかし、彼らは“誰かがやらなければいけない仕事”だと認識したうえで福島にやってきて、働き続けていたのです。

東京電力の若手社員たちがどう受け止めているか


話を聞くときは、現場で直面した問題やその解決法、働くモチベーションなどを具体的に尋ねていきました。そんななかで、心の中に抱えていた思いを取材対象者が時折ポロッと話してくれるときがあります。事故を起こした会社のために働くことへの葛藤や悩み、自分が見出した仕事の意味など。自然と出てきたその言葉を、大切に書きとめようと思いました。

この本でもうひとつ書きたかったことは、“事故の記憶の継承”です。発生から10年が経ち、現場の世代交代も進みました。廃炉には最低でも30〜40年の時間が必要と言われていますから、事故の記憶を風化させないための取り組みは重要です。現場で共有された記憶を東京電力の若手社員たちがどう受け止めているかも、掘り下げていきました。

原発事故のどのような側面を見つめ、それをどんな視点で描くのか、政治的な主義や主張と切り離すことも難しいテーマですから、常に悩みながら取材・執筆を続けてきました。ただ、廃炉がどのように行われているのか、その作業に携わる人たちにとってどんな意味を持っているのかは、知っておいたほうがいいはず。ひとつの“仕事”をめぐる本として、先入観なく読んでもらえたらと思っています。

婦人公論.jp

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