<グワシ!>楳図かずおが語るギャグマンガ『まことちゃん』の裏側「僕にとって、笑いは恐怖の一ジャンル」「笑いの中には、人を殺す笑いだってあると思う」

2025年4月8日(火)12時30分 婦人公論.jp


「まことちゃん」から(C)楳図かずお

『漂流教室』『まことちゃん』などの名作を生み出した漫画家・楳図かずおさんが、胃がんのため2024年10月28日に逝去されました。その楳図さんが、2023年に読売新聞で連載していた「時代の証言者/楳図かずお 『怖い!』は生きる力」がこのたび大幅加筆され、書籍『わたしは楳図かずお-マンガから芸術へ』として刊行。生前に楳図さんが記者・石田汗太さんを相手に語った<決定版自伝>から、一部を抜粋してお届けします。

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まことちゃん


—「週刊少年サンデー」で連載した「アゲイン」は、楳図キャラクター最大のスターを生んだ。

「アゲイン」の連載中から、元太郎の孫のまことがダントツの人気になりました。まさか、こうなるとは思いませんでした。「アゲイン」を連載しながら、最初のスピンオフ読み切りを「サンデー」増刊号に描きました。タイトルは深く考えず、「まことちゃん」にしました。

—しばらく不定期読み切りだった「まことちゃん」は、「漂流教室」完結後、1976年(昭和51)から「少年サンデー」で正式に連載開始。「B・G(ビチグソ)」「グワシ!」「サバラ!」など、ここから生まれた流行語は数知れず。全国に「まことちゃん旋風」を巻き起こした。

「グワシ!」はものをつかむ時の「ガシッ」という感じから来ています。最初は中指を立てていたんだけど、外国ではタブーだってことが後で分かってびっくりしました。そんなこと、当時の日本では全然知られてなかったから。だからその後、読者の案も入れて改良して、ものすごくやりづらい、あの形になったんです。

まことのぶっ飛んだ行動について、「幼稚園児はあんなにひどいことしない」ってさんざん言われたけど、あの頃の「サンデー」って読者年齢が大学生まで上がっていたんです。ただかわいいだけの幼児じゃ誰も喜ばない。だから思いっきり描きました。

「僕はこれでも分別のある大人ですから……」


—舞台となる沢田家の外観は、五條市に住んでいた時、道の向かいにあった家をそのままモデルにしたという。徹底的な下ネタづくしは、美しい女性キャラクターにも容赦なし。読者は「ギョエ〜ッ!!」の連続だった。

僕が曽爾村に住んでいた頃、若い女性が道ばたにしゃがんで用を足すなんて、割と日常風景だったんですよ。まことみたいな子もいっぱいいたんです。


『わたしは楳図かずお-マンガから芸術へ』(著:楳図かずお 聞き手:石田汗太/中央公論新社)

「まことちゃん」を描く時、僕はまことになりきっちゃうんですよ。

僕はこれでも分別のある大人ですから、あの作品でしか、あんなこと描けません。

追っかければギャグ、追っかけられれば恐怖


僕にとって、笑いは恐怖の一ジャンルなんですよ。鬼ごっこのように、追いかける者と追われる者がいたとします。追われる方は、自分を傷つける者に追われるのは怖いと思うけれど、追いかける方は、切迫した事情がなければ、すごく楽しいんじゃないか。追われる方が滑ったり転んだりすると、余計におかしい。ギャグと恐怖の差は、そこだけだと思います。

つまり、「追っかければギャグ、追っかけられれば恐怖」なんですよ。同じ物事を、違う方向から見ているだけです。

例えば、お葬式で一人笑っている人がいたら恐ろしいでしょう。笑顔は敵意のないサインだと言いますが、宇宙人が見たら、「引きつけをおこしたような顔で、奇声を出すあの行為は何だ」って思うかもしれない。笑いの中には、人を殺す笑いだってあると思うんです。

※本稿は、『わたしは楳図かずお-マンガから芸術へ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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