本屋大賞受賞 瀬尾まいこが『そして、バトンは渡された』を書いた理由

4月9日(火)19時39分 文春オンライン

 4月9日夜、全国の書店員が「いまいちばん売りたい本」を決める「本屋大賞 2019」の受賞作が決定した。栄冠に輝いたのは、瀬尾まいこさんの『 そして、バトンは渡された 』(文藝春秋)。圧倒的な支持を得ての受賞だった。



「本屋大賞 2019」を受賞した瀬尾まいこさん ©末永裕樹/文藝春秋


 瀬尾さんは大阪生まれ、奈良育ち。中学校の国語教師として働く傍ら、2001年「 卵の緒 」で坊っちゃん文学賞を受賞して作家デビューした。4作目の『 幸福な食卓 』で吉川英治文学新人賞を受賞。2011年に教師を退職。結婚し、5歳の娘を育てながら執筆を続けている。


 本屋大賞受賞作『そして、バトンは渡された』は、刊行直後から書店員を中心に口コミで支持が広がり、紀伊國屋書店のスタッフが薦める「キノベス! 2019」第1位も獲得している。


 さっそく瀬尾さんに話を聞いた。


——本屋大賞、おめでとうございます。


瀬尾 ありがとうございます。受賞できてすごくうれしいです。書店員の方々が選んでくださったので、すごく身近に感じますし、大きな力のある賞だと思います。


 というのも、うちの夫は普段、漫画や雑誌も含めて全然本を読まないのですが、その夫が「それって面白い本ってことやんな」と言って私の本を読もうとしたんです。これって本当にすごいことなんです。



「本屋大賞 2019」の受賞作『 そして、バトンは渡された 』(文藝春秋)


——感想はどうでしたか?


瀬尾 それが、2〜3行読んで「なんかちょっと難しいわ。もっと簡単な本ないの?」って(笑)。難しい話ではないと思うのですが。


 賞をもらうと娘が喜んでくれるのが嬉しいです。少し前に「キノベス! 2019」の賞状が届いたときには、「瀬尾まいこさん、おめでとう」と言って私に渡す“授与式”を20回くらい繰り返してくれました(笑)。


——『そして、バトンは渡された』の主人公・森宮優子は、“3人の父親と2人の母親”を持つ17歳の女子高生です。実の母親を事故で亡くして以来、7回も家族の形態が変わり、現在は37歳の継父・森宮壮介と2人暮らし。複雑な家庭環境で、悲しい物語なのかと思いきや、優子自身は自分の生い立ちを不幸だとは思っていないし、周囲の“家族たち”も彼女に惜しみない愛情を注いでいます。どうして彼女を主人公にしようと思われたのですか。



瀬尾 私はいつもテーマを最初に決めるのではなく、「こんな人を書こうかな」と考えるところから始めます。今作の場合、「多くの人の愛情を受けて育った、不幸ではない子」を主人公にしようとまず考えました。


 独身時代、中学校の教師をしていると、「生徒もかわいいけど、我が子はもっとかわいいよ」などと周囲の人からよく言われていました。でも実際に娘ができると、もちろんかわいいのですが、「生徒も娘も同じくらいかわいい」ということに気がついた。夫だってそもそもは他人です。誰かを大切にしたり、愛おしく思ったりする気持ちは、決して“血の繋がり”だけで生まれるものではない、と改めて実感したのです。


 それで、何度も育ての親が変わりながらも、すべての親に愛情を持って育てられ、幸せにのほほんと暮らしている優子——というキャラクターを思いつきました。




瀬尾まいこさん


——作品が完成するまでにどのぐらいの時間がかかりましたか?


瀬尾 編集者から原稿を依頼されて、もう何年になるでしょうか。私自身、教師を辞め、結婚し、子どもが生まれ……と、生活に大きな変化があり、だいぶ時間がかかってしまいました。


 ようやく書き上げても自信などなく、編集者に送って「面白かった」と言ってもらえて、ようやく「これでよかったんだ」とホッとしました。本書を手にとって下さった方には、読んでいる間だけでも楽しい時間をすごしてもらいたいです。


——学校や家庭をめぐっては、最近、悲惨な報道を目にすることも多いです。


瀬尾 凄惨ないじめや家庭での虐待事件が繰り返しニュースになるのは、本当に痛ましいことだと思っています。「虐待」といっても実態は暴行、リンチ、殺人じゃないですか! 子どもたちを助けるチャンスは何度もあったのに、どうして誰も動かなかったのかと思わずにはいられません。


 生徒たちや我が子に向き合う日々は、私の人生を晴れやかに変えてくれました。血が繋がっていてもいなくても、誰かに愛情を注ぐことはできる。そして、それは愛情を注ぐ側の人生をも変えてくれる——この確信をもって、私は『そして、バトンは渡された』を書いたのです。



「文藝春秋」2019年5月号


※このほか、瀬尾さんがなかなか教員採用試験に受からなかった時代のマル秘エピソード、教師時代の生徒や保護者との思い出、これまでの意外な読書遍歴などを率直に語ったインタビュー「『そして、バトンは渡された』に込めた想い」は、 「文藝春秋」5月号 に全文掲載されている。あわせてお読みいただきたい。




(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年5月号)

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