平成をともに歩んできた「相棒」を振り返る——亀和田武「テレビ健康診断」

4月9日(火)11時0分 文春オンライン


杉下右京を演じる水谷豊 ©文藝春秋


 平成最後の冬ドラマを制したのは、やはり『相棒』だった。全話平均の数字は断然トップだ。


 最終話では遺伝子工学の世界的な権威、慶明大の秋川教授が殺害される。教授は鳥インフルエンザの研究者だ。現場には極端な反科学主義団体「楽園の扉」のバッジがあった。


 誰もがオウム事件の現場に残されていたプルシャと呼ばれる教団バッジを連想したのではないか。


 准教授の八木橋は、秋川教授が鳥インフルの遺伝子をゲノム編集して、毒性の高いウイルスを作ったと特命の二人に明かす。高い感染力を持ち、致死率は一〇〇%。世界破滅の危機だ。


 視聴者はここでもまた地下鉄サリン事件を嫌でも想起する。最終話の放映日は三月二十日。二十四年前のこの日にサリン事件が起きた。制作側は意図して放映日に選んだはずだ。


 科学を敵視する「楽園の扉」の代表、阿藤は致死性の高い新型ウイルスを入手し、団体施設から消えた。


 捜査線上に成瀬真一郎と水原美波と名乗る若い男女が浮上する。杉下右京(水谷豊)はその名に覚えがあった。鷺宮(さぎのみや)栄一が二十年前に発表した、生物兵器により世界が滅亡する小説『沈む天体』の主人公だ。


 鷺宮と阿藤は、以前にIT企業を立ち上げた盟友だった。阿藤の娘がネット被害で自殺し、二人は科学を否定して自然と共生する団体を作る。暴力路線もとる「楽園の扉」を阿藤は創設し、鷺宮は自給自足のコンミューンを山奥に作る。美波と真一郎は外界から隔絶された集落で育った。


 強い既視感が襲う。カルト教団と内部分裂。原理的な宗教団体の信者を親にもつ子供たち。村上春樹の『1Q84』の世界が重なる。村上はオウム事件の被害者と加害者を取材する過程で、自らの社会との関係性と作風も変えた。



 単発で二〇〇〇年に始まった『相棒』は二年後からシリーズ化される。右京の相棒役が初代の寺脇康文から及川光博に代わったシーズン7から10にかけ、ドラマ世界は劇的に変わり、視聴率も黄金期を迎える。


 ときには市井の犯罪を人情味たっぷりに描く回もあるが、警視庁と警察庁の反目、公安警察の暗躍、官邸の介入に焦点が当たる。牧歌的な刑事ドラマの要素は後退し、陰謀史観や都市伝説のテイストが積極的に取りこまれていく。


 平成七年(一九九五年)のオウム事件で、この社会も私たちの意識も大きく変わった。何が真実で、正義はどこにあるのかを、『相棒』も追求した。二〇一一年の大震災と原発事故で、さらに私たちの視線は変わる。政府と警察は真実を隠蔽している。警察ドラマの視聴者たちの意識に対応してきたから、『相棒』は平成最後のときまで首位の座に君臨することができた。



INFORMATION


『相棒』

テレビ朝日系 水 21:00〜21:54

https://www.tv-asahi.co.jp/aibou/




(亀和田 武/週刊文春 2019年4月11日号)

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