ロバート・ロレンツ監督「ビッグスターでありながらこういう映画に出演し続けるリーアム・ニーソンは希有な存在」『プロフェッショナル』【インタビュー】

2025年4月10日(木)11時30分 エンタメOVO

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 リーアム・ニーソン主演作。1970年代の北アイルランド紛争を背景に、伝説の殺し屋が爆弾テロリストの壊滅に挑む姿を描いたハードボイルドアクション『プロフェッショナル』が4月11日から全国公開される。監督は長年、クリント・イーストウッドとコンビを組んできたロバート・ロレンツ。そのロレンツ監督に話を聞いた。



−まず風景が印象的なアイルランドでの撮影について伺います。

 脚本に、アイルランドの小さな町が舞台だと書かれていたので、インターネットでロケ地を探し始めました。スカウトマンはダブリンなど便利な場所をいくつか提案してくれましたが、私は「この町を実際に見てみたい。この場所がなぜ舞台になったのかを理解したい」と言いました。すると彼は「とても辺ぴな場所ですよ」と言ったんです。そこは車で3時間半ほどかかるような場所でした。でも実際に行ってみると、北大西洋の荒波が岸壁に打ちつけ、壮大な崖が広がっています。まさに息を飲むような美しさでした。そこで私は「ここで撮影しなければならない」と確信しました。また、この町はまるで時が止まったかのようで、現代的な建築がほとんどありません。まるで60年代や70年代にタイムスリップしたような感覚になります。この場所で撮影することで、物語の暗いテーマと美しい風景とのコントラストを表現したいと思いました。特に初めて脚本を読んだ時に、とても重苦しい内容だと感じました。そのため、開放感のある小さな沿岸の町の美しさを生かして物語にバランスを持たせたいと考えました。

−主演のリーアム・ニーソンについてはいかがでしたか。

 彼は本当に素晴らしい人間です。共に時間を過ごすのが楽しい人で、非常にプロフェッショナルです。彼はとてもフォトジェニックで、ヒーロー的な存在感がありますし、周りの人々を圧倒するような身長もあります。あのベルベットのように響く声は、少し抑えめにするのが難しいぐらいです。彼がより親しみやすく見えるように、声を少し抑えるのですが、実際には彼自身がすごく親しみやすい人なんです。それが彼の魅力です。彼はアイルランド人で、この映画を見ていて面白いのは、役柄において訛りを気にする必要がなかった点です。彼はいつも少しアメリカンアクセントを加えたりして、言葉をきれいにする必要があったりするのですが、今回はそれを気にする必要がありませんでした。それが本当に面白くて、他のアイルランド出身のキャストやメンバーと話しているうちに、彼のアイルランド訛りが出てきたんです。何度か彼が何を言ったのか分からなくて、もう一度テイクをやり直したり、後で言葉をきれいにして理解できるようにしたりしました。実は、今も2つほどリーアムと相談しているプロジェクトがあります。これからも一緒に仕事がしたいですね。というのも、本当に楽しい人で、ビッグスターでありながら、今でもこういう映画に出演し続ける俳優というのは希有な存在だと感じるからです。

−リーアムとは『マークスマン』(21)以来の顔合わせでしたね。

 実はリーアムが最初に脚本を読んで気に入ったんです。それで、「ロブが監督に向いていると思う」と勧めてくれました。なぜ私を?と少し驚いたのですが、アイルランドが舞台で、私がその国には関係がないと思われていたからです。でも、物語に引かれて監督を引き受けました。それに、この映画には西部劇的な要素もあると思いました。小さな町にアウトローたちが現れ、保安官はその役目を果たせない。そこで、主人公は銃を取り、どうやって町を救うかを考えなければならない。そこが私の好きな点です。



−監督が長く一緒に仕事をしているクリント・イーストウッドとリーアムとの類似点はありますか。

 コラボレーションに関しては、クリントから学んだことが多いです。彼は、全てをマネジメントしようとはせず、むしろ他の人がどんなアイデアを持っているのかを見ることを大切にしていました。私の場合も、プロダクションデザイナーや撮影監督、俳優たちが「こうしたらどうだろう」と提案してくれることがあり、そのアイデアが私が考えていたものよりもはるかにいいことがよくあります。その意味で、計画を持っていることは大切ですが、他のアイデアがあれば耳を傾けるようにしています。クリントとリーアムの似ている点は、非常に無駄がないというか、必要なことが分かっているところです。やることが分かっていて無駄がないから、2人ともあれだけの本数の映画に出たり撮れたりするのだと思います。私自身も映画製作の現場はとても楽しいし、仕事自体がとても好きなので、そこが私たち3人の共通点だと言えます。

−今回、ケリー・コンドンが演じたIRAの女性闘士との対決がユニークだと思いました。これは脚本通りの設定でしょうか。

 実際の脚本も女性の設定です。実は『セイ・ナッシング』(何も発しない)という本がありまして、これは事実に基づいた話で、主人公が実在したIRAの女性兵士なんです。脚本はちょっと彼女の人生をなぞらえた部分があるのではないかと思いました。そのこともあって、この脚本は非常に信ぴょう性があると感じました。

−この映画の原題は「聖人と罪人の土地」です。また、主人公が悪事をしながらも善をなすという設定や、ドストエフスキーの『罪と罰』も出てきますが、こうした矛盾や相反する要素が混在しているところがこの映画の魅力だと感じました。

 まさにそうした相反する要素がキャラクターに深みを与えている部分だと思います。主人公が映画の終盤で「皆のすることにはそれぞれ理由がある。それぞれの正義がある」と語るように、行動の裏には理由があるとして、それぞれの行動を正当化しているわけです。でも、何が正しいのかということはどこから見るかによって変わってくると思います。白黒がつけられない部分がこの映画を非常にリアルにしている要素であって、多層的であり、一筋縄ではいきません。ですから、さまざまな視点とタイトルがそれを象徴しています。ただ、アイルランドを表現する時に使う、「聖人と学者」という知識を持っている人の土地とする言い方をちょっとひねって、「罪深い者」というふうに変えています。

−最後に、日本の観客や読者に向けて、見どころやアピールポイントも含めて一言お願いします。

 リーアム・ニーソンが日本でもとても人気があるというのは私も知っていますが、果たして日本の人たちがこの映画に共感してくれるのか、どう受け取ってもらえるのかというのは、非常に興味があって気になるところです。私は映画を見て知らない世界のことを垣間見るのがとても好きです。ですから、日本の皆さんも、遠く離れたアイルランドのことを、この映画を通して経験して、この時代にここに住んでいたのはどういう人たちで、どんな気持ちを持って暮らしていたのだろうかと思いをはせていただければと思います。その時代の雰囲気や文化、景色の美しさなどを堪能してもらえたらうれしいです。

−先ほどおっしゃった西部劇的というのもありますが、主人公にはちょっと孤独な侍のようなところもあるので、日本の観客は受け入れると思います。

 私がその言葉を発することができたらよかったのにと思いました。素晴らしい表現です。サンキュー。

(取材・文/田中雄二)

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