「飲み水が足りないと連絡が…」ミャンマー大地震 日本人医師が明かす“炎天下”被災地の惨状
2025年4月11日(金)6時0分 女性自身
200年ぶりともいわれた巨大地震は、ミャンマーに甚大な被害をもたらした。建物の耐震性も高く、震災に慣れている日本は大丈夫、とは安心できない、ある共通点があった。
ミャンマー中部で3月28日に発生したマグニチュード7.7の巨大地震。その被害は、日を追うごとに深刻さを増している。
ミャンマー軍事政権の発表によると、死者は4月4日時点で3千145人、負傷者は4千589人、221人が行方不明になっている。一部報道では死者数が1万人を超える可能性も指摘される。
■まさに手術中に巨大地震に襲われた日本人医師
「ちょうど、甲状腺がん患者の手術を始めようとしたときでした。全身麻酔を投与した直後、大きな揺れに襲われたんです。一瞬、内戦下のため近くで衝突が起きたのかと思いました」
地震発生時の状況をそう語るのは、国際医療NGOジャパンハートの創設者で最高顧問の医師、吉岡秀人さん。
小児外科が専門の吉岡さんは、「医療を受けられずに命を落とす子供を減らしたい」という思いで、1995年からミャンマーで医療支援を開始。2004年にジャパンハートを設立し、東南アジアに医療拠点を作り、貧困な子供たちに無償で医療提供を行ってきた。
そんな折、ミャンマーでは2021年に軍事クーデターが勃発し、国軍と民主勢力などの間で内戦が激化。
しかし、あの日襲ったのは内戦下の衝突ではなく、「200年ぶり」ともいわれる巨大地震だった。
「地震当時、私がいたのは震源地のザガイン地域にある病院です。
大きな揺れが1回来て収まったあと、数秒して、さらに大きな揺れが来ました。手術室の壁のタイルがすべて崩れ落ちて散乱し、ひどい状態になりました」(吉岡さん、以下同)
手術室の患者は、すでに麻酔が効いて意識がない状態になっていたが、この状況下で手術はできない。吉岡さんはスタッフに患者の見守りを頼んで、ほかの入院患者の安否を確かめに行った。
「当時、入院患者は50人ほど。その多くが子供でしたから、すでに親が抱えて病院の向かい側にある畑に避難させていたので全員無事でした」
病院の建物の外に出てみると、2棟ある病棟のうち、1棟の1階部分が傾き、倒壊しかけていたという。
「誰か下にいるのではーー」
吉岡さんが、確認しようと建物に近づこうとした瞬間、3回目の大きな揺れが襲った。
「一気に傾いていた棟が崩れてしまい危機一髪でした」
吉岡さんは奇跡的に命拾いした。
「もう一度大きな揺れが来たら、残りの棟も崩れてしまう恐れがある。それで、急いで麻酔が効いて意識がない患者を、スタッフと共に外の広場に運び出したんです」
外は炎天下だったが、麻酔が覚めるまで待機するしかなかった。
「そうこうしているうちに、地震の影響で頭部から出血した人や、顔にケガをした人などが、治療を求めて病院にやってきました。病院の中には入れませんので、野戦病院のように外で応急処置を続けていました」
このままでは医療提供が継続できない。吉岡さんは、いったんミャンマー南部最大の都市、ヤンゴンの事務所まで車で戻り、物資の調達を始めることに。しかし、その道中が困難を極めた。
「あちこちの道路が、陥没、寸断し、橋も崩落していて、通常8時間くらいで着く距離なのに20時間もかかるという状態でした。大型トラックも通れないので、物資の輸送もむずかしい。道路の復旧作業が遅れると、水や食料、医療品など、さらに不足してくるおそれがあります」
■気温が40度近くまで上がる中、飲み水も傷口を縫う糸すらない!
ミャンマーでは、日中の気温が40度近くまで上がる厳しい環境だが、家が壊れたり、余震におびえる人たちは、路上での避難生活を余儀なくされている。そうしたなか、気がかりなのが人々の健康状態だ。
「衛生状態が悪化すれば、感染症のが危惧されます。とにかく安全な水の供給を急ぐ必要がありますが、空港の閉鎖も続いているため、救援物資の遅れが心配です」
吉岡さんのところにも、連日SOSが届く。
「昨日も、首都のネピドーにある病院から、『飲み水が足りない、医師も足りない。点滴も、傷口を縫う糸すらない』と連絡があり、スタッフが急いで水や医療物資を運びました」
被害の全容も見えていないため、復旧への道のりも不透明だ。
「当面は、医療スタッフと共にドクターカーで各地に出向き、その場で薬の処方やケガの応急処置などを続けるしかありません。
加えて、手術を待っている子供たちがいるので、なんとか手術室だけでも突貫工事で復旧させたいですが、この状況では少なくとも1カ月半はかかるでしょう」
大きな病気を抱える人にとって1カ月半もの手術延期は、命を脅かす事態にもなりかねない……。
■これからの災害死は努力次第で減らせる
ミャンマーで起きた大災害はけっして対岸の火事ではない。日本でも、南海トラフ地震や首都直下型地震など、巨大地震が間近に迫りつつあるのだ。
吉岡さんは、私たち日本人に対し、こんなアドバイスをくれた。
「とくに高齢者や子供は、飲料水が不足すると体力を奪われてしまう。最低1週間分くらいは確保しておくことをおすすめします」
日本も夏は40度を超える。そんななか、支援物資が届くまでの飲料水の備蓄は必要不可欠だ。加えて、調理なしで手軽にエネルギー補給できる携帯食も常備したい。
「米よりも、すぐ口に入れられる甘いクッキーなどを備えておくと、救援物資が届くまでなんとか持ちこたえられます」
最後に吉岡さんは、こう熱い思いを明かしてくれた。
「戦争が起きたとき、戦闘で命を落とす人より、戦争の影響で亡くなる人のほうが圧倒的に多い。それは、自然災害でも同じことです。
私たちは、地震で建物の下敷きになった人を救いに行くことはできませんが、災害の影響で失われる命は今後の努力で減らすことができる。だから、一人ひとりが今できることを精いっぱいするしかないのです」
ジャパンハートのウェブサイトでは、ミャンマーへの緊急募金も受け付けている。
ミャンマー地震の教訓を受け止めながら、できる支援を行おう。