コンビニコーヒー、小カップに大の分量を注ぐ客にオーナーは

4月12日(月)16時5分 NEWSポストセブン

コンビニでいれたてコーヒーを買ってテイクアウトする客は多い(イメージ)

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 このところ数ヶ月おきに報じられている、コンビニのセルフコーヒーで、支払った金額よりも大きいサイズの分量を注ぐ事件。公務員だったため懲戒処分を受けたり、逮捕されたりする事例だが、実際にはニュースにはなっていない同様の事件が各地のコンビニで発生しているらしい。俳人で著作家の日野百草氏が、「みみっちい」客や万引きにメンタルを削られると嘆くコンビニオーナーの胸のうちを聞いた。


 * * *
「小さいサイズで買って大きいサイズ入れるとか、そういう客見ると、メンタルやられるんだよね」


 東京下町、古くからのコンビニオーナー、久保田直雄さん(60代・仮名)に話を伺うことができた。思ったより広いバックヤード、商品のダンボールに囲まれた折りたたみテーブルに案内される。


「数十円の損でも損だからね、でもそれ以上に、なんかうんざりするんだよ、みみっちいというか、情けないというか」


 オーナーと同年代、筆者がお世話になっている方からの紹介。当初は取材のつもりはなかったが、久保田さんの愚痴は興味深い。すっかり定着したコンビニのセルフ式コーヒーマシン、あの小のカップに大の量を入れる猛者がいるというのか。


「いるよ。だって入っちゃうもん」


 なるほど、余裕はないが入れられないことはないらしい。もちろんサイズが一緒なら他の高い飲み物も余裕で入れられる。当たり前だが「犯罪」である。罪状は強いてあげれば窃盗罪、あるいは詐欺罪だろうか。


「そうなんだけど、犯罪って言ってもね、間違ったと言われればそれまでだし、わかんなかったとかね。わざとらしくてうんざりだ」


 コンビニ大手3社の基本コーヒーサイズはセブンイレブンがR(レギュラー)とL(ラージ)で、ファミリーマートとローソンがS(スモール)とM(ミディアム)となっているが、本稿ではそれぞれ大と小とする。


「でも、コーヒーの量増やしただけで警察なんて呼んだことないね」


 確かに、警察も通報されれば動くし事情は聞くかもしれないが故意かどうかはわからない。まして罪は罪でもあまりに微罪、起訴されるとも思えない。


「レジからは一応わかるんだけどね、忙しいとか、面倒だから声掛けしないこともあるよ」


 それほどに久保田さん曰く「みみっちい」数十円の話、いったいどんな連中なのか。


「俺が知る限りこれまで3人くらいかな、そんなに多いわけじゃない。ぜんぶ男だね。それも40代とか50代のサラリーマン、ちゃんとスーツ着てるような連中だ。コーヒーに限らず、スーツ着たサラリーマンの態度が一番悪い。ストレス溜まってんだろうね。あとコンビニの店員を見下してる。長くやってるとわかるんだよ」


 いまやコンビニの仕事は複雑多岐に渡る。昔のコンビニバイトとは随分と違う。20世紀の感覚のまま、上目線というのもあるのかもしれない。


「そうそれ、昔はのんびりしたもんだったからね。学生時代にやってましたって50歳過ぎの男がバイトをしたいと来たけれど、覚えることもやることも多すぎるって辞めちゃったよ。脱サラ自営で仕事がなくて生活の足しにって始めたクチさ。うちは外国の人ほとんどいないけど、あれなら若い外国人のほうが優秀かもね」


ごっそり持っていかれた、コンビニくじ万引き


 久保田さんのコンビニ経営歴は長い。これまで万引きなど珍しくもないだろうが、コロナ禍で変わったことはあったのか。


「とくにないね、万引きするヤツはコロナ関係なくやるよ。そうねえ、昔は漫画とか多かったけど店にあまり置かなくなったから減ったね。最近だと”くじ”かなあ。景品ごっそりもってかれたこともあるよ」


 いわゆる”コンビニくじ”というものか。期間限定で店内の商品が貰えるスピードくじの類いではなく、人気アニメやゲームのキャラクターグッズが当たるくじのほうだ。確かに店先に並ぶ景品は魅力的なグッズが多い。ちなみに、久保田さんによれば犯人は男女関係ないのではという。


「誰でも知ってる有名なのが人気だけど、俺もよく知らない女の子の絵とか、イケメンの絵とかのオタクっぽい景品のほうが熱心なマニアがいて、バンバンくじ引いてくれるから助かるよ。でも万引きもそっちが多い」


 誰でも知ってる有名なの、の固有名詞やくじの総称はコンビニチェーンが特定されるので端折らせてもらうが、久保田さんも60代なのでジャンプ作品くらいはわかる。しかしライトノベル原作やソーシャルゲーム原作の深夜アニメ、キャラクターとなるとちんぷんかんぷんだ。それでも熱心なマニアが引いてくれるため助かる反面、そういった作品は熱心さが高じてか転売で高値が期待できるからか万引きも多いという。


「出来心で一個二個じゃなく、ごっそり持ってく奴もいた。そんなに欲しいのかね、勘弁して欲しいよ」


 出来心でも犯罪だが、長くやってると万引きなんて店の日常過ぎて変な話だが慣れてしまうという。ただ年齢的に仕方のない話かもしれないが、オタクが犯人という先入観は尚早だろう。とくに興味もなく、ただフリマアプリで売る目的の一般人も多い。それでも久保田さんは現行犯か、よほどの被害でもなければ警察には通報しないという。


「警察の取り調べに時間とられたくないからね。年がら年じゅうごっそりもってかれるならともかく、知らないうちにちょこちょこ持ってかれるのがほとんどだからね。誤認でもあったら大変だし」


 常習はしっかりカメラで確認しているそうだが、だからといって入店拒否というわけにもいかない。高価で貴重な”くじ”でこれなのだから、コーヒーの小サイズに大の量をガブ入れなんていちいちかまってられないということか。


「店にもよるんだろうけどね、厳しいとこは警察に通報しまくってるんだろうけど、うちは繁華街の店(コンビニ)ほど被害はないしね。ほんとうんざりだけど」


 都心でいえば、赤坂のコンビニは大きく張り紙で常習であろう万引き犯への警告状が貼られていた。対応は各コンビニでまちまちのようだ。大きな声では言えないが、昔からの近所の住人が犯人だったこともあるという。


「知り合いだとちょっと通報しづらいよね、○○さんとこの息子さんだけど、近所の店の跡取りだったりするし」


 その「○○さんとこの息子さん」はそれまでも特定の作品になるとくじを引きまくっていたが、ついに金がなくなったのか景品を持っていってしまったという。


「小さなころから知ってるし、うちの息子と同い年なのにね、30過ぎてよくわかんないよ、ほんとうんざりする」


 30歳過ぎのおっさんを捕まえて景品のアニメグッズを盗んだからと警察に通報するのもうんざりだし、それが近所の店の跡取りという旧知の間柄というのもげんなりだろう。映像にはバッチリ映っているが狭い下町の商店街、波風立てるのもやっかいだ。それにしても久保田さん、かなりお疲れの様子。


「そりゃコロナは堪えるよ。変な客よりそっちだよ。俺は糖尿病だけど店に出なきゃいけない。去年なんか死を覚悟したね」


 フランチャイズで経営しているコンビニのほとんどはオーナーも店員をやらなければ成り立たない。不規則な生活がたたって基礎疾患をもつ店主も多いだろう。


「ビニールカーテン(コンビニレジに設置されたコロナ対策の幕)もほんとは嫌なんだよ。なんか圧迫感あるし、接客にもいろいろ面倒なんだ。あと、お釣りの手渡ししなきゃ態度が悪いって言う客もいるし、カーテン越しの上にマスクで聞き取れないから仕方なく聞き返すと文句言われる。ほんとうんざりだ」


昔は誰でも雇ったけど、いまじゃ向いてない人はやめてもらう


 久保田さんの愚痴と「うんざり」は尽きない。何気ない日常、当たり前のように利用しているコンビニだが、実際に働く従業員はオーナーからアルバイトまでこのコロナ禍、必死に日本のインフラとも言えるコンビニの灯を守ってきた。「それが仕事だろ」、としたり顔の輩もいるかもしれないが、そうした仕事に私たちの生活は支えられている。エッセンシャルワーカーへの感謝ではなく「それが仕事だろ」で片付けるこうした輩こそ、このコロナ禍の社会を分断している元凶ではないか。


「みんな長いコロナ(禍)で余裕がなくなってるって、コンビニやってると一番わかるよ。生活の一部だもんね、日常だから素が出るんだろうね。だからもう、いちいちお客にあれこれ言わないし、言いたくもないよ」


 そうは言っても見過ごすとつけこまれるのでは? と問いただすと、久保田さんは力なく笑った。


「そりゃ俺も昔は注意したよ。でも長くやってるとねえ……そのコーヒーだって、さっきも言ったけど『間違えました』って開き直られたらおしまいだ。それに仕返しというか、嫌がらせされることもある。俺もコンビニもここから逃げられないし、微罪だからすぐ出てきちゃうし。そういう連中のささいな嫌がらせって、地味にメンタルにくるんだよ」


 コーヒーが入ったままカップをゴミ箱に棄てる、くじの不正があると文句を言う —— 久保田さん曰く、その辺の報告は従業員からもあり、彼ら彼女らも疲弊しているという。


「それでも仕事があるだけマシだと思うしか無いよね。外食避けて家でお弁当とか、家飲みとかのおかげでなんとかなってるし、人手不足も以前ほどじゃない」


 ずっと人手不足に悩んでいたが、このコロナ禍でシフトを減らされたフリーターや収入の減った会社員が短時間ながら応募してくれるようになった。おかげでその心配だけはなくなったそうだ。それでも、久保田さんが店に立つことなく、オーナーだけをやっていられるほどの収入はない。久保田さんは「巣ごもり需要」の話をしてくれたが、残念ながら昨年の外出自粛と時短営業により大手3社の国内コンビニ事業の利益は前年同期比25%減(2020年3〜8月期)となった。需要より自粛の悪影響が上回っている。久保田さんの店は自己所有なので、その点は余裕があるのかもしれない。


「それでいて、いまじゃ仕事が増えるばっかりだ。昔は誰でもできる仕事だったし誰でも雇ったけど、いまじゃ向いてない人はやめてもらうしかない。公金とか、間違ったら大変な処理もしなくちゃいけないからね」


 思えば日本のコンビニは、日本人の日常をほぼ網羅している。公共料金から税金の徴収、宅配の受け付け、チケットや金券どころか先のくじ引きまで店員が対応する。店内はコミックや雑誌もあればコーヒーマシンに写真の現像もできる複合機、銀行のATM、ファストフードにイートインまである。この小さなショッピングモールを久保田さんは毎日休むこと無く切り盛りしている。そんな中、いちいちコーヒーの小サイズを買っといて大サイズや数十円高い銘柄をぶっこむ輩や、推しキャラが出ないと喚いたあげく勝手に持って行く中年男なんか相手にしていられないのも致し方ないということか。


「外に置くとろくなことがないから店内に設置したのに、ゴミ箱に家庭ごみどころかとんでもないものが捨てられてた。女子トイレが血まみれとか、俺の店は掃き溜めかっての」


 江戸っ子の久保田さんの口調は少々荒っぽいが、ここまで酷いと無理もない。ちなみにその「とんでもないもの」は昨年末のクリスマスに捨てられていた成人玩具だったそうだ。


「でもまあ、ちゃんとプラスチックごみに捨ててくれたから、いいかな」


 と怒りながらもひとり納得の久保田さん。その他、昨今話題のコンビニのFC問題なども久保田さんは力説してくれたが、これは本稿の趣旨ではないため省かせてもらう。コンビニオーナー、本当に大変な仕事だ。


「愚痴ばかりでごめんね、あんまり(記事に)使えないだろ」と久保田さんは謝るがそんなことはない。やはりコンビニは社会の縮図。景気や世相、このコロナ禍もダイレクトに映し続ける社会の鏡だ。それは久保田さんが繰り返すような、うんざりする、みみっちい、情けない甘ったれどもの吹き溜まりだ。そんな些細なトラブルの積み重ねのせいで、エッセンシャルワーカーの誰もが大なり小なりメンタルをやられている。


 大げさな、ただのコンビニよもやま話と思うかもしれないが、残念ながらこの間抜けな事例の数々も、翻って現代日本の、日本人の縮図である。


【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、新俳句人連盟賞選外佳作、日本詩歌句随筆評論協会賞評論部門奨励賞受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)、近日刊『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太に愛されたコミュニスト俳人 』(コールサック社)

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