負担が重いPTA役員、人間関係も悪化する危険な状況に

4月13日(金)7時0分 NEWSポストセブン

想像以上に荷が重いPTA活動

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 ソメイヨシノの咲いた校門を息子とくぐり、万感の思いで迎えた小学校の入学式。緊張した面持ちで校長先生の挨拶を聞くわが子の姿に、新たな門出を実感していた茨城県在住のAさん(42才・保険会社勤務)は、式典の後、一転して暗い気持ちになった。


「保護者だけ体育館に残されて、PTA活動の説明と役員決めが始まったんです。壇上にいるPTA会長の女性が定例会議の日程や、放課後の校庭見守り活動や広報誌の作成などの仕事について延々と説明して、『はい、じゃあ役員を決めましょう』と。“ちょっと待ってよ!”という感じでした」(Aさん)


 Aさんのクラスには役員に立候補する保護者がおらず、急きょくじ引きで決めることになった。全員が不安げな表情を浮かべて静まりかえるなか、粛々とくじが引かれていく。入学式の感動はとっくに消え失せていた。


「幸いなことに私は当たりませんでしたが、当たってしまったお母さんの呆然とした顔が忘れられません。そもそもPTAって強制加入の団体じゃないんですよね。私のように毎日働いている人間には時間的にも難しいし、当たり前に全員参加になっているのもおかしい。この前時代的な組織は一体何なのでしょうか」


 4月初旬、全国各地で入学式のシーズンがやって来た。子供にとっては晴れ舞台のこの季節、毎年保護者の頭を悩ませているのがPTA問題だ。昔から母親にとって負担の大きいPTAだが、とりわけ最近は「入会をめぐるトラブル」が続出している。


 発端は昨年3月、ツイッターに投稿された「♯PTAやめたの私だ」というハッシュタグだった。女性同士の人間関係トラブルや無駄に長い会議など、PTA活動に悩む母親たちが退会するまでのプロセスを思い思いに綴り、各メディアに取り上げられる騒動となった。PTA問題に詳しいジャーナリストの大塚玲子さんが指摘する。


「共働きが増えた今、昼間の活動が多いPTAは時代に即していません。そもそもPTAは全員参加ではなく任意加入の組織でありながら、これまで入会することが当たり前とされてきました。『#PTAやめたの私だ』騒動をきっかけに、“強制力はないので参加しなくてもいい”という事実が広まる一方、“やらない人は許さない”との風潮も根強くなり、両者の対立が深まっています」


 保護者と学校の“相互援助組織”はどこへ向かい、何を目指すのか──。


◆この間のバザーに参加していませんでしたけど、何かあったんですか?


 PTAに詳しい文化学園大学現代文化学部の加藤薫教授が語る。


「本来の位置づけは、『児童生徒の幸せのために必要な法律や規則や施設をつくることを国や公共団体に働きかける団体』で、GHQはPTAが民主主義の推進に大きな役割を果たすことを期待したのです。戦後、PTAはあっという間に全国の学校に広がりましたが、残念ながら、保護者が自発的に参加する組織にはなりませんでした」


 PTAは任意加入団体にもかかわらず、保護者が当たり前のように全員入会するのは、組織の出発点が「上から降りてきた」点にある。


「PTAはGHQから文科省、都道府県、市区町村、自治体、学校校長、保護者と、下へ下へと働きかけて半強制的にできた組織。保護者が入会を拒むことが難しかったんです。“みんなで一緒にやる”ことを重んじる日本特有の文化も『全員参加』の暗黙ルールを後押ししました」(加藤教授)


 こうして始まったPTAは、いつの間にか「母親参加」が主流になった。前出の大塚さんが語る。


「家父長制で父親や兄しか子供の保護者と認めなかった戦前の反動もあり、戦後は母親が保護者として積極的にPTA活動に参加するようになりました。高度成長期に突入して『父親は外で仕事、母親は家事育児』との性別役割分担が進むとますます『PTA=母親化』が進みました」


 専業主婦が当たり前の時代、平日昼間に開催されるPTA会議に、母親たちは子育てや家事の延長としてこぞって集まった。ベルマークの集計を手作業でせっせと行いながら、井戸端会議的なノリで子供や先生についての情報交換をすることも多かった。


 だが、時代は変わった。古きよき時代のPTAが終焉を迎えて、「♯PTAやめたの私だ」がブームになる背景には、女性の社会進出と少子化があると加藤教授は指摘する。


「男女雇用機会均等法の成立以来、女性の社会進出が進みました。同時に少子化が進んで学校の規模が縮小されたので、PTAのなり手が少なくなった。それなのに仕事量は旧態依然として変わらず、役員一人ひとりの負担が重くなる。近年は『地域で子育てをしよう』との目標を掲げる学校が多く、PTAに押しつけられる仕事が増えています。時代が変わったのにPTAが変わらないのであれば、保護者の不満が高まるのは当然です」


 いびつな環境下では、人間関係も悪化する。5年前に長女の小学校のPTA役員を引き受けたBさん(41才・塾講師)は、「女性特有の陰湿さが凄まじかった」と打ち明ける。


「どうしても仕事の都合で学校行事を休まなければならないこともありますが、次の会議で必ずやり玉にあげられるんです。『この間のバザーに参加していませんでしたけど、何かあったんですか?』とか。仕事があると伝えているのに、『そういえばBさん、プールの見守り担当の日もお休みされていましたね』『連絡の返信も遅いですよ』と、ここぞとばかりに集中砲火され、心が折れそうになりました」


 非効率な仕事があまりに多いことも悩みのタネだった。


「PTA会報誌を毎月出していたのですが、学校行事の写真と解説を載せるだけだし、そもそも誰も読んでいない。こんなものに年間何十万円もの予算が組まれているのはあまりにムダです。誌面作りに追われた時間を返してほしい」(Bさん)


『ある日うっかりPTA』(KADOKAWA)の著者で書評家の杉江松恋さんは2008年から3年間、息子が通う公立小学校のPTA会長を務めた。


「選ばれた理由は本当にわからないのですが、当時学校で読み聞かせのボランティアをしていたので、『あいつは昼間から暇そうだ』と目をつけられていたのかもしれません(苦笑)。しばらく考えましたが、依頼を拒まない職業的習性と好奇心があったので引き受けました」(杉江さん)


 実際に会長に就任してまず驚いたのは、想像以上の忙しさだった。4月はほぼ毎日学校に顔を出し、それ以降も週に1度は“登校”した。


「思いのほか学校外の式典やイベントがあるんです。PTAが作成するすべての書類はPTA会長名で出すので、チェックがすべて私に回ってくる。修正したりハンコを作ったりする作業が煩雑でした」(杉江さん)


 最も衝撃を受けたのは、「保護者の権利を守る組織」と思っていたPTAが、実は「上意下達の行政組織」であったことだ。


「会長になってわかったのは、PTAは学校や教育委員会が決定したことをサポートする組織だということでした。例えば教育委員会から『放課後の空き教室を使って子供たち向けの教室をボランティアで開いてくれ』と頼まれたことがありました。小規模の学校で参加する子供が少なくムダの多い行事でも、上からの依頼なので断れません。それ以外にも、やりたくもないムダなことに時間をずいぶん奪われました」(杉江さん)


 こうしたPTA役員経験者の悲痛な声は母親の間に浸透しており、さまざまな手段で「逃げ道」が講じられている。


「委員を決める最初の保護者会だけ夫に出席してもらい、『妻は体調が悪い』と主張させるんです。出席者はママばかりなので、男性には強く言えない。うちはこの手で4年間逃げ切っていますが、ママ友の中にはPTAが嫌だからと引っ越す人までいます」(37才・パート主婦)


「以前は役員決めの会議中、部屋の片隅でジッと下を向いて気配を消していましたが、最近はわざとホステス風のド派手な衣装で出席しています。“面倒臭そうな人”と思わせれば、役員に指名されることはありませんから」(40才・事務員)


 本誌・女性セブンが小中学校の保護者200人を対象にアンケートしたところ、『PTA役員を率先してやりたいと思いますか?』という問いに「はい」と答えたのはわずか4%。これがPTAの現状である。


※女性セブン2018年4月26日号

NEWSポストセブン

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