沢尻エリカ演じるベタベタ清純派の良妻賢母が宿した小さなリアリティ/『母になる』第一話レビュー

4月14日(金)1時0分 messy

『母になる』公式サイトより

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 2017年春クールの連続ドラマ、日本テレビの二桁鉄板枠といえる水曜10時(水10)枠は沢尻エリカ主演の『母になる』です。今を生きる3人の女性が『母になる』までの物語とのことで、登場するのは以下の3人。

・ドラマの主人公で、3歳の時に誘拐された息子と9年ぶりに再会した女性・結衣(母になることが自然だと思っていた)。演:沢尻エリカ
・結衣のママ友で、仕事と育児と家事とをこなしている女性・莉沙子(良い母になれないと悩む)。演:板谷由夏
・我が子ではない子を7年間育てた女性・麻子(どうしても母になりたかった)。演:小池栄子

 主人公の柏崎結衣を演じる沢尻エリカは、これまでにも単発ドラマや映画で母親役をやることはありましたが、連ドラ主演では初めて。沢尻の夫・陽一役は藤木直人(44)。この組み合わせ、どうしたって思い出してしまうのが、今から遡ること12年前の2005年の秋に放送された『1リットルの涙』(フジテレビ系、火9)。沢尻が連ドラ初主演にして難病の女子高生を熱演し、並々ならぬ演技力を世間に見せつけたアレです。藤木はそんな沢尻の主治医でした(錦戸亮や松山ケンイチや成海璃子も出演)。「別に」騒動が起こる2年前のことです。

 先日行われた『母になる』試写会&制作会見に行き、すでに第一話を視聴済みだったわけですが、4月12日に無事放送が開始したので晴れてネタバレ解禁、心おきなくレビューさせていただきます。

▼沢尻エリカ『母になる』試写レポート/テレビドラマにおける母親という存在の描かれ方

いかにもな清純女性を演じる沢尻エリカ

 まず冒頭。姿を消してしまった結衣と陽一の息子・広(読み方はコウ)のパーカーやスニーカーが、川から発見され、結衣、陽一、陽一の母・里恵(風吹ジュン)が警察に呼ばれます。伏し目がちな沢尻……ではなく、結衣。地味な色合いのチェックのシャツを第一ボタンまで留め、ジーパンに黒のスニーカーと控えめカジュアルな装いが“育児最優先の着飾らないお母さん”を印象付けます。里恵は「死んだみたいな言い方するんじゃないわよ!」と警官の胸倉をつかみ、床に泣き崩れたり、ひどく冷静さを失っている様子なのですが、その辺の事情も後々判明します。

 タイトルバックは、赤字明朝体でデカデカと『母になる』。背景には母子らしき人のつながれた手。からの田園にて、手招きするロングスカートの女性(母)に少年(息子)が駆け寄る、というもの……。ドラマタイトル及び題材的に致し方のないことかもしれませんが、ほんと頼むから、母性強調物語はやめてほしいなー。

 そんな悪態をつきながらも、幼き広くんの動画が映し出されると、胸が詰まりました。元気いっぱいに「柏崎広です!」と言う姿、親の手を取ってにっこり笑う顔、バスタオルを持っておどける様子、ハイハイで駆け寄る姿……。ああ、いつ何時どうなるかわかんないんだから、面倒くさがっていないで、もっと子どもの動画撮っておかなきゃっ! と(少なくともその瞬間は)決意しました。

 物語は、広の父と母、すなわち結衣と陽一の出会った頃に遡ります。

 2001年春。バスの中で結衣と陽一は出会います。いつも膝が隠れるくらいの丈のスカートかワンピース姿で、いかにも育ちのよさそうな清楚な娘さんといった佇まいの結衣と、理系男子でやや冴えない感じの陽一。北海道出身の結衣は、幼い頃に母を亡くし、男手ひとつで育ててくれた父も事故で亡くなり、肉親はいません。高校卒業後に単身上京、本屋で働いていました。古本や雑貨も扱うおしゃれな本屋です。大学の助教授で人工知能の研究をしている陽一は、客として結衣の働く本屋に通い、2人は徐々に親しくなりました。揃って奥手な性格のため交際発展には時間を要しました(話しかけるのに半年、名前を知るのにさらに半年)が、出会って2年目と思われるクリスマスには、陽一さん宅にておうちデート……陽一さんは結衣に顔面ケーキ食らわせているし、結衣が思いっきりキス待ちしているのにできないし、見ていて可笑しいやら歯がゆいやら……後に起こる悲劇を視聴者は知っているので、イチャイチャシーンがどうにもせつないわけです。

 奥手と言いつつやることやってるわけで、結衣は妊娠、すると陽ちゃんは早々とおむつやらドーナツ枕やらを買い込んで大喜び、2人は結婚します。陽一の母・里恵も大歓迎で大喜び。ちなみに陽ちゃん、バスでおばあちゃんに席を譲っている結衣に一目惚れしたそうで、何ともベタな話、ベッタベタです。心優しく美しい孤独な女性・結衣と、彼女を愛する男、そして妊娠……『おおかみこどもの雨と雪』の冒頭に近いものがあります。このドラマで姿を消すのは夫ではなく息子のほうですが。

 同じ頃、陽一の上司にあたる教授・西原太治(浅野和之)もデキ婚しました。お相手はヘアメイクの仕事をしている莉沙子(板谷由夏)。歳の差夫婦の2人はとてもラブラブなんですが、結婚式の日、莉沙子は自由な独身の仕事仲間を羨ましがって「この子ができてから、私の世界はどんどん狭くなっていく」「もう戻れないのかな」と憂鬱そうな表情で結衣にぼやきます。対する結衣は「私が莉沙子さんと同じ場所にいますよ」と前向き。両親を失いたったひとりで上京した結衣は、気丈に振る舞いながら一生懸命生きていましたが、世界にひとり取り残されたような淋しさを感じていたのも事実で、そんな結衣にとって「妊娠」「出産」は、世界が広がるような出来事だったのです。それまでの生活が充実しているほど妊娠出産という未知の世界に不安を感じ、逆にそれまで孤独や不満があったからこそ妊娠出産で挑む新たな世界に期待を持てる。その対極的な描写は納得のいくものがあります。

 それにしても、この結婚式での結衣のファッションは奇妙でした。黒のワンピースに黒のカチューシャに黒のクロスストラップパンプスと、ネックレス以外は黒づくめ。ワンピースに黒以外の刺繡や模様が入っているとか、ストールやヘアアクセが黒以外っていうのならまだしも、ちょっと黒過ぎやしないか? 喪服としてもいけそうだぞ。

24時間ずっと「母の気持ち」ではいられない

 時は流れ、2008年春。結衣と陽一との間に生まれた長男の広は3歳に成長。平凡ながらも幸せな家族の風景がそこにあります。陽一の母・里恵は、陽一の下に生まれるはずだった第2子を流産した過去があり、そのことをずっと悔やんでいたため、孫が生まれたことが嬉しくてたまりません。広と同い年の娘・繭を育てる莉沙子は仕事復帰したものの、夫が家事を全然やらないことに不満を募らせているのに対して、陽一は“カジメン・イクメン”ふう。結衣が北海道で開かれる同窓会に行きたがっていると知り快く送り出すなど、良い夫として振る舞っています。

 結衣が北海道から戻った日の夜、広は寝る間際、こんなことを言いました。

広「あのねママ知ってる? その人のことを思うとね、心がギューっとなって、キューンとなって泣きそうになるの。なんていうか知ってる? そういう気持ち、なんていうか知ってる?」

 結衣が何だろう、と返すと

広「僕、知ってるよ いとしいっていうんだよ」
結衣「いとしい?」
広「ママ同窓会に行ったでしょ? 僕、ママに合えなくて心がギューっとなって、キューンとなって泣きそうになったよ いとしいだよ 僕、ママのこといとしいだよ」

 ほんの一瞬表情を曇らせたものの、結衣は「ママもだよ」と言い、広は安心した表情を浮かべて眠ります。広が寝た後のリビングでは、結衣と陽一が、近々広が幼稚園のお遊戯会でやる予定の「チュータの大冒険」の振り付けを真似して競い合います。エリカ様と藤木直人が「チュッチュッチュチュッチュチューチュチュ—♪」(笑)。けれど翌日、事件は起こってしまうのでした。

 幼稚園のお迎え時間に莉沙子が仕事で遅れるため、結衣は広と繭の面倒を見ます。タクシーで駆け付けた莉沙子にプリントなどを手渡すほんのわずかな時間、結衣は広から目を離してしまいました。その隙に広は何者かに連れ去られてしまったのです。比較的すぐに判明した誘拐犯は、陽一が大学で教えている学生で、彼は陽一に電話して自分が広を連れ去った、手に入れたものには興味がないと言い残し、広の所在や生存については語らずに自殺。やがてパーカーとスニーカーが河川敷から発見されましたが、広の行方はわからないまま。教え子に子どもを誘拐されるというスキャンダルにマスコミは食いつき、陽一も相当参っている感じですが、それ以上に参っている結衣は、陽一にあることを打ち明けます。

 それは、同窓会が楽しくて、その時つい、広を産まなくてもよかったかも、と思ってしまった……というものでした。昔の友達に会い、久しぶりにお酒を飲み、帰りには広が生まれてから食べたことのなかった熱々のラーメンを食べ、嬉しくてたまらなかった。友達はまだ独身で、明日とか次の休日には何して遊ぼうかを話している。以前、莉沙子が言っていた「もう戻れない」とは、こういうことか、とわかってしまった。子どものいない時間が楽しくてたまらなくて、帰りたくないかも、子どものいない人生もいいかも、産むのが早すぎたかも、いなくても産まなくてもよかったかも。私がそんなことを思ったからこんなことになったのではないか。結衣は後悔でいっぱいになって、広への思いを募らせます。

 いやはや、顔中涙でぐちゃぐちゃにしながら夫に懺悔する結衣の姿には、胸が詰まってしまいました。また、結衣の「広が生まれてから熱々のラーメン食べたことがなかった」という台詞には身につまされるものがあり、非常にリアリティを感じました。小さい子どもがいると、熱々のラーメンを食べるのは難しいです。家で作って食べても外食しても、子どもの世話を焼いているうちに、麺は伸びるしスープは冷めてしまう。小さな子どもと一緒では、気兼ねなく食事を楽しむってことがなかなかできないものです。

 結衣は21歳前後で出産したようですが、成人しているとはいえ20代前半は自分の価値観や考えが大きく揺らいだりする時期です。今までキラキラしてみえたものが、ちっぽけでつまらないものに見えるようになることだってあるでしょう。結婚して出産して優しい夫と子どもがいて幸せだったとしても「あの時こうだったら」とタラレバすることだってあるでしょう。それはとても自然なことだと思います。両親を亡くしていることもあり、家族ができたことを心から喜び家事と育児に尽くす家庭的な女性の結衣は、良き女性で良き妻で良き母親のイメージを具現化しているように見えました。しかし彼女だって四六時中「揺るぎない母親」としてのみ生きられるわけじゃないし、あれこれ思惑するのです。その胸のうちを描いたのは、「母子モノ」ドラマとして画期的なことのように思えます。

 陽一は「結衣のせいじゃない」と結衣を庇い、2人はビラを配るなどして必死に広の行方を捜します。広の消息がつかめず心が壊れて暴走してしまったのは、むしろ陽一の母・里恵で、広と同じ年頃の男の子に近づき警察沙汰になります。里恵の今後の動向も気になるところです。

母子の再会がすべてのはじまりになる

 その頃——。質素な部屋で暮らす地味な会社員風の女性・門倉麻子(小池栄子)は、壁の向こうから聞こえてくる声に不信を抱き、隣室の玄関を覗くと、そこには幼い男の子の姿が——。再び映った麻子は清々しい表情で、自転車を漕ぎ、海沿いの町を駆け抜けます。自転車の後ろには子ども用の座席シートが付いています。路地に入り自転車を留めた麻子に男の子が「ママ」と駆け寄ります。結衣と陽一の息子・広です。広を誘拐したのは陽一の学生でしたが、その広を見つけ保護したのは麻子だったのです。とはいえ自分の元に置いておけばそれもまた誘拐になるでしょう。麻子はどういうつもりなのでしょう……。

 時は流れ、2017年春。陽一と離婚した結衣は、中華料理店で働きながらひとり暮らしています。暮らしぶりは見るからに質素で慎ましやかな様子で、住んでいるのはいかにも古いアパート。いやぁちょっと極端すぎる気もしますが。誰もいないのに食後は律儀に「ごちそうさまでした」を言うのはともかく、ひとり暮らしの女性が食事でお茶を飲む時、グラスでもマグカップでもなく、わざわざ湯呑使いますかね? 勤務先が中華料理店っていうのもいかにもな感じです。高卒であろう結衣が条件のいい仕事に就くのは難しいのかもしませんが……とはいえ、白の割烹着と三角巾姿で働いてボロアパートに帰るというさびれた環境に身を置く結衣、ベッタベタです。そんな結衣の佇まいは、凛としています。何でこんなところで働いて暮らしているんだって周囲が怪訝に思いそうな、可憐な花のような存在。家族に囲まれて幸せだった頃の結衣が、違和感なく「平凡なママ」だったのとは対照的です。そしてそんな結衣の元に1本の電話が入ります。

 電話の主は、神奈川西児童相談所の児童福祉司・木野愁平(中島裕翔)。彼は、ある手紙の情報を元に、児童養護施設「汐風園」で暮らす13歳の少年が、かつて誘拐され消息を絶った広なのでは? と考え、独断で結衣に電話したようです。20代後半の真面目で仕事熱心な青年、といった風貌の木野からは、華やかなジャニーズ臭がまったくせず、試写会では木野を演じているのが中島裕翔だとすぐに気づきませんでした。中島は、2005年に初めて出演したドラマ『エンジン』(フジテレビ系、月9)で、児童養護施設で暮らす子どもを演じていましたが、今回は、子どもを支える大人を演じる立場になったわけですね。

 「汐風園」に駆けつけた結衣は、木野に詰め寄り「会わせてください! 会えばわかります! 母親なんです私」と訴えます。そこに13歳の広(道枝駿佑)が姿を現しました。戸惑いっぱなしの広ですが一生懸命、自分が思っていることを結衣に伝えようとします。

広「今なんかこの辺ギュッっていうか……、キュンってなってそういう感じで……」

 目の前の少年が、3歳の頃の広と同じことを話す。結衣は少年が自分の息子であることを確信し、涙を流し……少年を「広」と呼び、手を取り、抱き締めます。

広「お母さん?」
結衣「会いたかった」
広「お母さん」
結衣「コウ」
広「お母さん」

 2人は抱擁を交わします。ずっと再会を待ちわびていた息子と対面した結衣が感極まるのはわかりますが、9年間別の場所で生きていた広の心境は想像できません。嬉しいんでしょうか? 広は、麻子を母親と思って7年間過ごしたようですが、その後、何らかの事情があって児童養護施設に入所したようです。実の親と離れて育った彼の9年間は、いかなるものだったのでしょうか?

 広のもうひとりの親、陽一は大学を辞めて引きこもっていました。かつて妻と息子と3人で暮らしたマンションには、実家の柏崎モーターの事務員・緒野琴音(高橋メアリージュン)が入り浸っている様子。結衣と陽一と広、3人がまたもう一度、このマンションで暮らせる日はやってくるのか……。

 そんなわけで極めてまれな状況に直面している主人公たち。同一人物とはいえ、13歳と3歳とでは全然別の生き物ですし、広くんが結衣に心を開き母子として一緒に暮らすのは簡単なものではないでしょう。結衣だけでなく、麻子の事情や莉沙子の家庭問題など、スポットを当てる場所は盛りだくさん。生き別れた母子の再会からスタートしていますが、どこまで広げ、どうやって収束していくのか、ワクワク感があります。

 次回二話より、物語は本格的に動き出します。沢尻エリカ、板谷由夏、小池栄子、全然違うタイプの女優3人が「こんなはずじゃなかった」を抱く「母」を演じるこのドラマ、彼女たちの変化していく過程をじっくり味わっていきたいのです。ただし、視聴者が「やっぱり母は偉大だ」「母性にはかなわない」「母子の時間は重要(だから母親は一人の時間が欲しいとか言うべきじゃない、とか)」なんて結論を下したくなるような、安直な展開になりませんように。

messy

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