ロック・トリオの最高峰、ベック・ボガート&アピスの唯一のスタジオ録音盤『ベック・ボガート&アピス』

4月14日(金)18時0分 OKMusic

『Beck, Bogert & Appice』(’73)/Beck, Bogert & Appic (OKMusic)

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世にスーパーギタリストと呼ばれるプレーヤーはたくさんいるが、1973年の時点で世界最高峰のロックギタリストは間違いなくジェフ・ベックであった。ただ残念なことには、70年にはもっとも必要とされたスーパーギタリストも、73年には必要でなくなっていたのもまた事実なのである。この頃と言えば、あのエリック・クラプトンもアメリカへ渡り、歌を中心としたアメリカンテイストのサウンドを追求していたし、時代はイーグルスやドゥービーブラザーズに代表されるさわやかなロックへと移り変わっていた。そんな中で、ジェフ・ベックは熱いロックを続け、ベック・ボガート&アピスを結成、60年代のロックスタイルを引きずりながらも最高のテクニックとロックスピリットを持った文句なしのアルバムを完成させた。それが今回紹介する『ベック・ボガート&アピス』である。

クラプトン、ベック、ペイジが在籍したヤードバーズ

前回紹介したスリー・ドッグ・ナイトを書いている時に、ふと思い出したのがベック・ボガート&アピス(以下BB&A)で、なぜかと言うとスリー・ドッグ・ナイトのメンバーふたりが本作『BB&A』に参加していたからだ。スリー・ドッグ・ナイトのメンバーとジェフ・ベックの関係は残念ながら分からない(たまたまスタジオに遊びに来たとか、その程度の気がする…)が、このアルバムは僕がリリース当時に大きな衝撃を受けたアルバムでもあったから、今回取り上げることにした次第。

クラプトンやジミー・ペイジと肩を並べるギタリストとして知られるジェフ・ベック。はっきり言って、テクニックではジェフ・ベックのほうが一枚も二枚も上手である。彼ら3人は同じグループ(ヤードバーズ)に在籍していたことで知られ、リードギタリストとして活躍した期間はクラプトン→ベック→ペイジの順となる。ヤードバーズでは特にベックがいた頃のアルバム『ヤードバーズ』(‘66)は傑作で、ここではブルースベースではない純粋なロックギターをベックは弾いている。はるか後に登場してくるヘヴィメタル的なフレーズや各種トリッキーな奏法は、ヤードバーズ時代のベックが既に確立しつつあったのだからすごいのだ。

ロックにおけるリードギターのルーツは、ブルースとカントリーの両方を混ぜ合わせ、若干ジャズのフレイバーを加味したものである。特にシカゴブルースの影響は大きく、当時のクラプトンやペイジのギターはブルースのコピーからスタートしていることが分かる。ところが、ベックのギターはブルース臭があまりなくカントリーっぽさも感じられない、まさに純粋にロックのギターを若い時から弾いているのだ。それがはっきりと感じられるのが、ヤードバーズを脱退し第1期ジェフ・ベック・グループを結成してからだ。

第1期ジェフ・ベック・グループの『トゥルース』と『ベック・オラ』

ヤードバーズを脱退したベックは『トゥルース』(‘68)をリリース、その当時のロック少年を狂喜させた。実は、このアルバムを僕もリアルタイムで聴いたわけでなく、カッコ良いギターソロのレコードを探していた頃に出会ったのであった。それは中学に入ってからなので、リリースから2〜3年は経っていただろう。しかし、そのロック的なギタープレイと卓越したテクニックには子供ながらも感動した。グループとしてロッド・スチュワートやロン・ウッドを従えたこのアルバムは、出来も素晴らしい。

『トゥルース』の次にリリースしたのが『ベック・オラ(原題:Cosa Nostora Beck-Ola)』(’69)。これも名作で、この頃ベックと仲の良かったレッド・ツェッペリンのメンバーたちはベックの初期のセッションに立ち会い、ツェッペリンのイメージを作り上げたと言われている。各種エフェクターを駆使するなど、すでに他のロックギタリストの手本になるギタープレイを見せている。この頃のベックの飛び抜けたテクニックと対等に渡り合えるのは、ロックでは他にジミ・ヘンドリックスぐらいしか思い付かない。

第2期ジェフ・ベック・グループ

この頃、ベックのお気に入りのグループがヴァニラ・ファッジで、このグループのメンバーのベースのティム・ボガートとドラムのカーマイン・アピスが大のお気に入りだったらしい。しばらくしてからベックとは親友でレッド・ツェッペリンのドラマー、ジョン・ボーナムの口利きで彼らとのバンド結成の話が持ち上がるのだが、ベックは交通事故により長期の入院を余儀なくされ、残念ながらこの話はボツになってしまう。

ヴァニラ・ファッジを抜けたボガートとアピスは入院中のベックをあてにはできず、カクタスを結成する。ベックは1年半以上のブランクのあと、第2期ジェフ・ベック・グループを立ち上げ、それぞれ別の道を進むことになる。第2期ジェフ・ベック・グループでは、ファンクやソウルの要素も加味しアメリカ寄りのスタイルを見せていて、『ラフ・アンド・レディ』(‘71)、『ジェフ・ベック・グループ』(’72)という2枚のアルバムをリリースした。どちらも黒っぽさを前面に押し出しながらも、ベックのロックスピリットもしっかり感じさせ、ますますギタープレイは冴えまくっている。今から思えば、後のクロスオーバー的な傑作『ブロウ・バイ・ブロウ』(’75)や『ワイアード』(‘76)は、この頃からのアイデアではないかと思う。当時は分からなかったけど、かなりセンスの良いロックに仕上がっている。ちなみにこの2枚、どちらも名作である。

本作『ベック・ボガート&アピス』について

第2期ジェフ・ベック・グループは優れたメンバーにも恵まれ、順調にいくのかと思いきや、やはりベックはティム・ボガート&カーマイン・アピスと組みたかったらしく、1年ほどの活動でグループを解散。たまたまボガートとアピスもカクタスを抜けていたので、ようやく念願のトリオをスタートさせる。ベースをギターのように弾きまくるティム・ボガートと、華麗なテクニックを随所に入れながらも重いグルーブが身上のカーマイン・アピスは、間違いなくロック界最上のプレーヤーである。そのふたりとベックが組むのだから、結果は火を見るより明らかである。ただ、個性の強い3人だけに長続きはしないだろうと思っていたら、その読みは当たった。

僕はこの3人のプレイを最初にテレビで観た(『イン・コンサート』という番組)のだが、想像をはるかに超える3人のインタープレイに、まさに釘付けになった。このアルバムには彼らの最上の、それでいて余裕がありそうな圧倒的なパワーが漲っている。第2期ジェフ・ベック・グループのような、ある種都会的なサウンドではなく、汗が滴り落ちるような熱さに満ちたロックがここにある。ハードなナンバーから、しっとりとしたバラードナンバーでさえも暑苦しい仕上がりだ。

冒頭で述べたように、アルバムがリリースされた73年の時点でも、少し古臭いスタイルのロックなのだが、ベックはそれを分かりながらも、最高の演奏を提供できれば誰も文句など言わないことを知っていたのである。それぐらいロックとして圧倒的なパワーを持ったアルバムである。アメリカ南部のロッカー、ドン・ニックスの曲を2曲(「黒猫の叫び」「スイート・スイート・サレンダー」)、スティービー・ワンダーの代表曲「迷信」をはじめ、名曲揃い。主にヴォーカルを担当するボガートとアピスの歌と、彼らの精度の高いコーラスも聴きものではある。しかし、何と言っても当時ロックギタリストの頂点に君臨していたベックのすごすぎるギターが格別。

本作は間違いなくロック史上に残る名盤中の名盤だ。楽器を弾く人であるならば、特にこの3人の尋常でないテクニシャンぶりが理解できるであろうし、この3人が後発のアーティストにどれだけの影響を与えているかが分かると思う。本作がリリースされてから彼らは来日、日本だけで2枚組のライヴ盤が発売された。長い間、コレクターズアイテム扱いで高値が付いていたが、今はそれもCD化されて普通に入手できるので、本作を聴いて気に入った人はライヴ盤もぜひ聴いてみてもらいたい。 

そしてこの後、メンバー間のいざこざが原因でBB&Aは解散、グループはたった1年半しかもたなかった。ベックはしばらくセッション活動を精力的に行なっていたが、そのギターテクニックを武器にソロとしてフュージョン路線で勝負し、前述した『ブロウ・バイ・ブロウ』(’75)と『ワイアード』(‘76)ではジャズ界の凄腕メンバーと合流、70年代後半まで、彼の最高の時代を築くことになるのである。

OKMusic

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