見事な落語、長編スリラーを表現した「殺しの龍玉」

4月14日(日)7時0分 NEWSポストセブン

落語通が蜃気楼龍玉の魅力を語る

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 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、長編スリラーを見事に表現した「殺しの龍玉」こと蜃気楼龍玉についてお届けする。


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 五街道雲助の三番弟子、蜃気楼龍玉。三遊亭圓朝作品や怪談噺など、重厚な作品を好むいぶし銀の演者で、人呼んで「殺しの龍玉」。3月13日、半蔵門・国立演芸場で彼の『緑林門松竹』通し口演を聴いた。


 譽石という毒薬を手に入れた者が次々と人を殺していく長編スリラー『緑林門松竹』は、『真景累ヶ淵』や『怪談牡丹灯籠』と同じく圓朝がまだ江戸の時代に書いた初期の作品で、龍玉はかつて発端から結末までを全17回の口演で語りきったことがある。その長編を龍玉が「2時間で通して演じる」ため、落語作家の本田久作氏が新たに脚色を施したのが2016年のこと。今回はその再演だ。


 室町時代に南蛮から渡った譽石は人に悪心を起こさせる魔の毒薬。長年の間に転々と持ち主を変え、根津七軒町の医者、山木秀英が所持していたが、これを盗もうと下男を装って入り込んだ新助市という悪党が、秀英の妻を殺して入手。さらに秀英も殺した新助市は、秀英の妾おすわと一緒になり前橋へ逐電した。


 三年後のある日、新助市は娘連れの老人を殺して娘を吉原へ売る。その晩、おすわは秀英との間に出来た幼い息子に新助市を殺させようとするが、返り討ちに遭って息子ともども殺される。ここまでが「上」。


「下」では江戸で女占い師を装い美人局で稼ぐ「またかのお関」という悪女が登場。昔の男だった新助市に偶然再会して譽石入手の経緯を聞くと、これを殺して譽石と百二十両を手に入れる。お関が惚れ込んでいる亭主の平吉は、世話になっている若旦那が松葉屋の常磐木という花魁を身請けするための金を工面しようとしていたが、常磐木とは新助市がかつて殺した老人の娘お時。百二十両はお時を吉原に売った金だった。


 若旦那と惚れ合っている常磐木に横恋慕し、先に身請けの手金を打った剣術使いの天城豪右衛門。これが邪魔だと平吉とお関は天城の道場に乗り込み、門弟たちは譽石で皆殺し、天城はお関が色仕掛けで唇を合わせ、舌を噛み切って殺す。すぐに事は露見し、お関の家の周りを十手を持った男たちが「御用!」と取り囲むと、お関は「地獄に逃げよう」と平吉に譽石を舐めさせ、その死を見届けて自らも譽石を口に……。


 劇的な最期を遂げる二人。「この先も譽石は持ち主を変えながら人を殺し続け、最後に用いたのは岩倉具視とも言われている」とのエピローグで締めくくられた。


 圓朝の原作とは異なる結末で余韻を残した脚本は実に見事。そしてそれを「殺しの龍玉」が完璧に表現した。聴き応えのある口演だった。


●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。


※週刊ポスト2019年4月19日号

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