「自立したい」ダウン症の青年が主人公『アハーン』公開決定
2025年4月16日(水)14時0分 シネマカフェ
『アハーン』© Will Finds Way Films
ダウン症をもつ青年アハーンは、愛情深い両親と共にインドの大都市ムンバイに暮らしている。何不自由のない日々を過ごしながらも、周囲の目を気にする両親の“配慮”によって家に縛りつけられた彼は「自立したい」「仕事を見つけたい」「素敵な女性と結婚したい」という切実な思いを募らせていた。
一方、中年男性オジーは、気難しい性格と潔癖症が過ぎて妻のアヌに見限られ、家に1人取り残されていた。そんな折、アヌと親交があるアハーンはオジーの家を訪れる。オジーは妻と会うためにアハーンを利用することを思いつき、自由な外出を願うアハーンとの間に奇妙な協力関係が始まるが......。
本作は、ムンバイ出身ニキル・ペールワーニー監督の長編デビュー作。2019年にメルボルン・インド映画祭で初公開された際には、自主制作作品がら好評を博し、インドのメディア「Firstpost」は本作を “インド映画史における画期的な作品”と評している。
主人公アハーンを演じるのは、自身もダウン症当事者であり、本作で俳優デビューを果たしたアブリ・ママジ。
彼が演じた、両親の意向で外出を制限されていたアハーンは、ひょんなことから始まった気難しく潔癖症なオジーとの交流をきっかけに、外の世界へ飛び出していくことになる。
監督は、本作のリサーチで障がい者のためのデイケア施設を巡っていた際、俳優を夢見るアブリ・ママジと出会った。初めは当事者のキャスティングを想定していなかったというが、2人で時間を過ごし、映画への情熱を共有するなかで彼を主演に抜擢することを決める。
この偶然に導かれた出会いによって、障がいを抱える人々が直面する現実を真摯に見つめながらも希望とユーモアを忘れずに、ダウン症青年の日常をストレートかつコミカルに映し出す、“あんまり歌って踊らない”異彩のインド映画が誕生した。
また、配給を担当するのは医療・健康領域の本を中心に刊行してきた、社員2人のちいさな出版社「生活の医療社」。これまで映画配給の経験はなかったものの、代表の秋元麦踏氏が本作に魅了され、日本での配給権を取得した。
今回披露された日本版ポスターには、タイトルにもなっている主人公アハーンと、気難しく潔癖症なもう1人のメインキャラクター、オジーが並ぶ。
劇中にも登場するインド料理・ビリヤニを食べるアハーンと、それを険しい表情で見つめるオジーという、2 人の対照的なキャラクターをとらえたビジュアルとなった。
配給「生活の医療社」秋元麦踏よりコメント到着
遡ること3年、羽田に向かうコロナ禍で閑散とした国際線の飛行機の中で『アハーン』を観た。「ヒンディー映画初のダウン症当事者主演作品」というような触れ込みが気にはなったが「へー、こんな映画あるんだ」という程度で、たまたまと言うほかない出会いでした。どっこい80分後には、目を腫らし鼻水を垂らしながら、後ろの座席の人に「着陸までの時間ギリギリですが、是非『アハーン』という映画を見て下さい」と熱っぽく売り込んでいました。配給もその延長にあります。
当時、この映画を共有したいと思った「熱」を改めて言語化するならば、作中の対話劇の臨場感から来るものだった様に思います。アハーンが口にする、ごくごく〈ふつうの願い〉に、心の中で〈現実を知ったかぶった否定〉でツッコミを入れる自分がうっかり引きずり出されていたのです。隠したいはずの偏見を言葉ではなく(やさしく、時にコミカルに)あぶり出されるような体験を共有できるのではないか。そういう「熱」です。
右も左も分からないままに見切り発車をしてしまったにもかかわらず、劇場公開に至ったのは、作品の力はもちろん、偶然のツテに恵まれたおかげにほかなりません。翻訳書を出すようなつもりで配給権を取得してしまってから、友人の友人である 「VLVT Films」の松岡優馬さんに出会い、「ラビットハウス」の増田(英明)さんを紹介してもらい、ようやくこのプレスリリースの手順を知った次第です。
『アハーン』は9月5日(金)より新宿シネマカリテほか全国にて順次公開。