安野貴博氏、“失敗”が未来を作る 誰かが動くことで生まれる挑戦の連鎖「チャレンジが続いていく」
2025年4月17日(木)7時0分 オリコン
安野貴博氏
大胆ともいえる挑戦の裏側には、たくさんの失敗こそが未来をつくるという明確な考え方があった。著書『はじめる力』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成して届ける。
■なめらかに成功し、なめらかに失敗する
挑戦をしやすくするためには、どのようなゴールを設定するのかも重要です。
私は選挙に臨むにあたり、自分が当選したらやりたいことをまとめていました。
ここに、投開票日の2か月前、2024年5月時点で考えていたことを挙げておきます。
1 政治および選挙分野にイノベーションを起こし、未来のビジョンをちゃんと提示する。テクノロジーは重要な政治イシューであることを訴えていきたい
2 新しい選挙戦のあり方をプロトタイプする(具体的な方法を見せる)。今までやらなかったけれど、やったほうがいいことは無数にあるのでどんどん実験していきたい。そしてそれは1のビジョンを考えるきっかけにもなるはずである
3 知見を公開する。これはオープンソースにして、他の地方自治体でも使ってもらえるといい
そして、期待される効果としては2つのことを挙げていました。
(1)政策に対して、この提案が影響力を持つ
(2)アップデートされた選挙戦術が、後の選挙で活用される
(1)については、たとえ自分は落選したとしても、当選者が、戦っていた相手の政策を取り込んで実行するパターンは結構あります。個別市町村に対して支持者数を可視化するなど、選挙戦を通じ、論点として提案したことが、そこに盛り込まれるのは意味があることだと思います。
実際、2024年11月にはブロードリスニングを用いた「〜みんなでつくる『シン東京2050』プロジェクト〜」が立ち上げられ、私もアドバイザーを務めています。自動運転タクシーを導入するためのテストもスタートが予定されています。そういう意味では、実現したい効果をきちんと実現できている部分があります。
(2)については、アップデートされた選挙戦術が、後の選挙で活用されて政治家の質が向上するのも、世の中にとってプラスになる話です。
もちろん、当選して自分が主導して実施できれば最高ですが、そうでなくても、意味がないわけではありません。
成功の尺度も1つではありません。最初からそれを意識していけば、すべて失敗ということではなく「この部分は成功だった」「ここは改善点があった」ということが出てきます。
世の中は、白か黒かだけではないところで変わっていきます。
自分としては「うまくいかなかった」と思っていても、あなたが動いたことは次につながっていきます。今回ダメでも、そのムーブメントは形を変えて続いていく。そういう未来のつくり方だってあるのだと思います。
何か新しいことに挑戦するときは、マイナスとプラスの種類を適切に見極めておきましょう。「うまくいったらこれぐらいプラスがあるけれど、マイナスがこれくらいだとすれば、こういうところでリスクヘッジをしておけると合理的だよね」ということを、自分自身へロジカルに説得ができるようにしておくのです。
すると新しいチャンスを前に不安に思っていても、「こういう考えでいけば合理的だから、これをやるべき」と自分を説得できるようになります。一歩を踏み出すために必要な、物事の捉え方です。
■「失敗の質」を上げる
スタートアップで挑戦してリスクを取る人は、成功すればサラリーマンでは得られないほどの報酬や社会的インパクトを手に入れられます。ただし、ほとんどが失敗する世界でもあります。その中で重要なのは、失敗に対してどれだけ寛容でいられるか、そして失敗から何を学ぶかです。
良質な失敗は次の挑戦につながります。
スタートアップで一度失敗した後「資金が集まる人」と「集まらない人」がいます。そういう人たちを見ていると、その差は、「なぜ失敗したのか」「その過程で何を発見したのか」「その発見をもとに、仮説を変えて、もう1回トライする」というストーリーができているかどうかが1つ理由であるように思います。それが明確であれば、もう一度投資してみようかと、投資家からの信頼を得ることができます。
逆に、失敗の理由をきちんと分析せず、改善策も見えない人には投資が集まりにくいものです。
言い換えれば、挑戦のたびに「打率」を少しずつ上げていく人と、上がらない人がいるということです。打率を上げる努力をしながら学びを最大化することができるといいのではないかと思います。
ちなみに、一度失敗した後「資金が集まる人」と「集まらない人」の違いとしてもう1つ大事なことに、「筋を通せていたか」ということがあります。
事業がうまくいかなかった場合、資金提供者や取引先などに説明をする必要がありますが、そのとき失敗にいたるまでの経緯や原因について、透明性を高めて話すことは大事ですし、何より事業そのものに対して誠実に努力をしているかが問われます。
■「学ぶ」ための挑戦という考え方
見えない報酬として「学び」そのものを得ることを目標に挑戦をする場合もあります。たとえば、勝ち目が薄い分野にあえて飛び込み、その過程で得られる経験や知識を活用することで、最終的には元を取るという考え方です。このように、成功だけを目指すのではなく、学びを含めた挑戦の価値を考えて行動することも1つの選択肢だと思います。
そういう意味で、実は、会社員はリスクを取りやすい立場にあるといえます。生活が安定している分、リスクを取ったとしても比較的安全で、失敗しても学びを最大化する機会にできるのです。もしあなたが今会社員で、やりたいことがあるならば、学ぶつもりでリスクを取ってみるのも悪くないと思います。
挑戦を続け、失敗から学び、少しずつ成長することで、大きな成果につながる可能性が広がっていくのです。
■「失敗」が未来をつくる
もう1つ大事なこととして、「失敗すること自体が、未来をつくっている」という捉え方があります。
たとえば、成功率1%のチャレンジを100人が試みたとします。99人はチャレンジして失敗して「何も変わらなかったね」と言って終わります。
では、その99人のチャレンジは無駄だったのでしょうか?
私は決してそうは思いません。
成功率1%のチャレンジでは、1人成功した裏に、99人の失敗があります。結果を見ると、1人が成功できたのは、失敗した99人が恐れずに挑戦したからだと捉えることもできるのではないでしょうか。
また、自分が失敗しても、挑戦をしたことで、他の人の挑戦のハードルを下げることにはつながります。誰かが「挑戦したけどダメだった」という現実を見せることで「そういう挑戦ができるんだ」と気づく人が5人、10人と出て、またチャレンジが続いていきます。そうしてつながっていったチャレンジの最後に誰かが成功したら、あなたの失敗だって、歴史の1つになるかもしれない。
実際私も、10年前に連続起業家の家入一真さんが都知事選に挑戦していた姿を見て、背中を押されたところがあります。
家入さんは、「政治を遠いところのものにしてはいけない」と、2014年に都知事選に立候補しました。街頭演説ではなく24時間ネットで生放送をしたり、Twitter(当時)で「ぼくらの政策」というハッシュタグを使って意見を求めたり、先進的な手法で若い人たちを中心に票を集めました。結果としては5番目の得票数で、落選はしましたが、私の記憶には強く残っていました。今回、選挙前に家入さんに相談に伺い、温かい応援をいただきました。家入さんがいたからこそ、自分も挑戦ができた部分はあるのです。
そして今度は、私の事例を見た誰かがどこかで立候補するかもしれません。挑戦は、こんなふうに連鎖していきます。結果として、社会的にチャレンジの数を増やせれば、成功する人もいつか出てくるでしょう。もちろん何度も挑戦を重ねることで、いつか自分も成功するかもしれません。
自分がチャレンジできなかったとしても、できることはあります。それは、「失敗している人を愛そう」ということです。ぜひ、身近にいる挑戦者たちを見つけたら見守ってあげてください。具体的な手助けができなかったとしても、周囲の人たちの温かい目はきっと励みになりますし、新しいチャレンジをするハードルを下げるでしょう。
■著者・安野貴博(あんの・たかひろ)
合同会社機械経営代表
AIエンジニア、起業家、SF作家。開成高校を卒業後、東京大学へ進学。内閣府「AI戦略会議」で座長を務める松尾豊の研究室を卒業。外資系コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループを経て、AIスタートアップ企業を2社創業。デジタルを通じた社会システム変革に携わる。未踏スーパークリエイター。デジタル庁デジタル法制ワーキンググループ構成員。日本SF作家クラブ会員。2024年、東京都知事選挙に出馬、デジタル民主主義の実現などを掲げ、AIを活用した双方向型の選挙戦を実践。著書に『サーキット・スイッチャー』『松岡まどか、起業します』(ともに早川書房)、『1%の革命』(文藝春秋)。