発達障害持つ人らを「困った人」と表現、ネット大炎上 出版元謝罪 関連団体は「差別助長」抗議
2025年4月19日(土)16時35分 スポーツニッポン
今月22日に発売予定の書籍をめぐり、発達障害を持つ人らを「困った人」と表現していることについてネット上で大論争に発展している。出版元や著者が声明、謝罪を発表したほか、関連団体からは「差別を助長する」などとして抗議の声が上がる事態となった。
問題となったのは、産業カウンセラー・神田裕子氏の著作「職場の『困った人』をうまく動かす心理術」(三笠書房)。
発達障害や更年期障害などの疾患を抱えた人を「愛すべき困った人」とし、対応マニュアルがまとめられている。本の帯では「なぜ、いつも私があの人の尻拭いをさせられるのか?」と提示し、表紙には「困った人」を動物に例えたイラストが掲載された。
この表現方法にネット上では「世に出していいの?」「強者側のおごりがすごい」「分断をあおる」という意見のほか、「どこがまずいの?」「表現の自由」「未出版の書籍の内容で攻撃とかよくできるよね」など賛否の声がさまざま上がっていた。
これを受け、出版元の三笠書房は19日までに同社サイトで見解を発表。「発行に先立つ事前予告の表現、すなわちカバーのビジュアル、用語、目次などに対しネット上でさまざまなご意見があることについて、当社の見解を申し上げます」とし、「現在、本書籍に対するご批判等賛否の意見が本書籍の発行前に生じておりますが、まずは事前告知の限られた情報の中で、ご不快な思いをされた方がいらっしゃった事実について、お詫び申し上げます」と謝罪。
書籍の概要を説明した上で、「出版予告の表現では伝えがたい内容を一定程度明らかにしなくては本書籍の意図が伝わらないと考え、かかる表明となりました」と事前告知の内容に言及。「ご批判等が生じていると思われる点について簡単に触れておきます。いずれも本書籍をお読みいただくことによってご理解いただけるものと信じております」とした。また、動物イラストについて「ビジュアル表現については、ここに至るまでにさまざまな議論がありました。『困った人』と『困っている人』という対比を人間の表情や姿勢等で表すことには限界があることから、『困った人』を愛らしい動物に置き換えるという表現にしました。事前告知に制約があるとはいえ、その中でご不快な思いをさせてしまったことに対してお詫び申し上げるとともに、表現についてより一層の工夫をしなくてはならないと考えている次第です」とした。
著書の神田氏も同社を通じてコメントを発表し、「さまざまなご批判があることを承知していますが、私自身も含めて、家族に発達障害の特性傾向が見受けられます。あくまでも自己判断ではありますが、他人事とはとらえられないと感じています。そのため、差別意識や偏見などはまったくありません」とした。
一方で、「発達障害当事者協会」は内容について質問状を送付したことを公表。
また「日本自閉症協会」は同書について公式サイトで声明を発表した。「4月22日発売予定の新刊「職場の『困った人』をうまく動かす心理術」(三笠書房)は障害に対する誤解を生み、差別や偏見、分断を助長するものと判断します。このような本を、90年を超える歴史がある三笠書房が発刊されることは誠に残念です」と表明。
「現在、この本は表紙と帯、および目次をネット上で見ることができますが、それでも差別や偏見を助長すると判断する理由は以下の通りです。ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)の発達障害を一方的に『困った人』として扱っていることは誤解を生みます。障害名を人のタイプに結び付けているために障害に対する誤解を生むとともに、表現されている特徴を有する人を障害者とする偏見をも生みます。ASDの特徴として『異臭を放ってもおかまいなし』やADHDを『同僚の手柄を平気で横取り』など特異な事例をことさら強調しているため偏見につながります」と指摘。
「結果としてASDやADHDの特性を有する人の尊厳を傷つけます。大事なことは作者の差別意識の有無ではなく、本が当事者や職場、社会にどう影響するかです。作者や出版社はそのことをよく考えていただきたい」と厳しく批判した。
「精神疾患などデリケートなテーマを扱う際に出版社は監修をいれたり、対象の人たちの受け止めを確かめるなど慎重な姿勢が求められます。かかる書籍が、自閉スペクトラム症を含む障害のある人たちの人権を侵害するおそれがあることを懸念し、出版社が適切な対応をされることを期待します」とした。