ファイターズの新継投策“オープナー” 原稿でもやってみた

4月20日(土)11時0分 文春オンライン

 先日の記事で、「オープナー」を試すもまだそれで勝ててない、ということをちょろっと書きました。


 その試合の1つ、4月6日の対ライオンズ戦。山賊打線の暴虐を許して16失点しましたが、「オープナー」加藤貴之は2回無失点なんですね。なので辻監督には「抑えられるかと思ったけど、2回で代えてくれた」なんて言われまして。


 そしたら、このコメントを「言葉で牽制した」と評価するツイートを見たんです。オープナーという手法の世評を下げて、ファイターズがこれをやりにくくするものだと。


 えー、そうかなあ……?


 チーム方針とか作戦とか戦術とかというものは、相手の監督にからかわれたからとか世間の評判がとかで変えたりするもんなんでしょうか。それもファイターズが、ですよ。


はなっから開き直ってるんですよ


 2006年のドラフト会議、長野久義を指名して物議を醸しました。その5年後には菅野智之を指名して交渉権を獲得してしまい、原貢氏には人権蹂躙とまで言われました。更に翌年、大谷翔平を指名して、メジャー挑戦を邪魔するのかと批判され、結局彼が入団したので密約を疑われもしました。そして投打二刀流の育成方針で、バカかアホか何考えてんだ野球をなめるな真面目にやれふざけてんじゃねえと非難囂々雨あられだったのはまだ記憶に新しいところです。


 面の皮が厚いというか、鈍感というか。そんな世間の風向きを気にするようなデリケートさなんて、この球団、薬にしたくも持ち合わせちゃおりますまい。


 13年前、球団社長からなぜ長野久義を指名するのかと訊かれたGM補佐吉村浩は「うちに欲しい外野手なのに、なぜ指名しないのですか」と反問したそうですが、GMとなった今の彼は、栗山監督にこんなことを言っているそうです。


「監督の言っていることは、全部間違っていますから」「間違っているけれど、監督が信じた道ならいいじゃないですか」(『栗山魂』より)


 はなっから開き直ってるんですよ、この人達は(青空百景)。


※選手の交代をお知らせします。青空百景に代わりまして、ライターえのきどいちろう。



栗山英樹監督 ©文藝春秋


日本の「オープナー事始め」は一朝一夕ではない


 加藤は開幕4ゲーム目の楽天戦初戦から、実に3カード連続で予告先発に立っている。10日間で3度の先発だ。そんなピッチャー見たことない。雪の楽天生命パークに始まって、東京ドーム、ヤフオクドームと列島縦断のスタジアムツアーだ。もうこれだけで記憶にとどめる価値があるだろう。


 4月2日楽天戦、3回無失点(バーベイト3回1失点)

 同6日西武戦、2回無失点(金子弌大2回5失点)

 同11日ソフトバンク戦、3回2/3、5失点(西村天裕1回1/3無失点)


 これが「3カード連続予告先発」の内容と、2番手投手の成績だ。11日のソフトバンク戦は打線1巡まではほぼ完ぺきに抑え、2巡目で(アンラッキーもあって)大崩れした。4日楽天戦の斎藤佑樹も含め、ここまでファイターズは「オープナー」を立てた試合でただの1勝もしていない。試行錯誤の連続だ。うまく試合をつくれたと思ったら打線が不発であったり、オープナーは機能したのに2番手がうまく行かなかったり、抜群の出来で2巡目も引っ張ってみたら裏目に出たり。日本の「オープナー事始め」は一朝一夕ではない。


 加藤は先発もリリーフも両方経験しているピッチャーだ。単なるメジャー流の受け売りということではなく、加藤自身の経験からも調整法が探られている。中3日程度の登板間隔はリリーフに近い。が、その間、ブルペンには入らないそうだ。コンディション調整のピーキング(ピーク作り)が難しいと思う。状態だけでなく、気持ちもつくらねばならない。



そもそも「オープナー」の成立条件とは


 ここまでのハイライトはやっぱり雪の楽天生命パークだろうか。本邦初の「オープナー」登板。面白いのはあの試合、季節はずれの雪にスポットが当たってしまって、「オープナー」のほうは意外と地味だったことだ。何しろ22分間の降雪中断があったくらいだ。気温2℃。4回裏、加藤が降板して、2番手バーベイトが出てきたときは皆、アクシデントのほうを心配した。あの寒さでは筋肉系のトラブルが起きかねない。


 あの寒いんだけどキョトン、キョトンだけど寒い感じが名シーンだと思う。降る雪や昭和も遠くなりにけり。僕らは平成の終わりに寒キョトンしたのだ。思えば「オープナー事始め」の本質はキョトンかもしれない。別に日本ハム球団から「えー、お集まりの皆さま、本日の予告先発は加藤貴之ですが、これはオープナーです」と事前アナウンスがあるわけではない。フツーに出てきて、フツーに立ち上がって、3イニング投げて引っ込んだのだ。引っ込むまでは球場の誰にもわからない。僕らには「オープナー」の後ろ姿しか見えない。通り過ぎた背中を見て、「あ、オープナーだったのか」と思うだけだ。


「オープナー」かもしれないし、違うかもしれない。いっとう最初には説明がないのだ。アクシデントの降板かもしれないし、(失点がなかったとしても)投球内容に問題があったのかもしれない。何だかわからないのだ。「?」という空気が残る。「?」でなく「!」なら、いちばん近いのは危険球退場だろうか。


 ていうか雪の楽天生命パークではそもそも加藤自身が知らされてなかったらしいのだ。これはスポーツ新聞を何紙も買って、どうもそういうことらしかったので仰天した。「オープナー事始め」、もしかするといちばん寒キョトンしたのは加藤貴之本人かもしれない。「オープナー」「ショートスターター」起用の話自体はオープン戦の頃から出ていた。が、加藤はあの日、フツーの先発のつもりでマウンドに立ったようだ。フツーの先発のつもりでフツーに出てきて、フツーに立ち上がって、3イニングで引っ込んだのだ。すべては栗山英樹監督の胸のなかにあった。


 ということで考えていくと、果たして本邦初の「オープナー」は2日の加藤貴之か、4日の斎藤佑樹か、という問題に突き当たる。これは超難問だ。加藤は「オープナー」として起用されたことを後で知らされたのであり、「結果のオープナー」「現象としてのオープナー」なのである。に対して斎藤佑樹は最初から「オープナーでしょ?」「ショートスターターだよね? 意気込みはどう?」とマスコミの質問攻めに遭い、十分な自覚を持ってマウンドに立ったと思われる。


 これは「オープナー」成立条件として本人の自覚が必要か否かという大問題だ。「結果のオープナー」「現象としてのオープナー」はこれまでのプロ野球史に何人も登場した気がする。が、「あぁ、俺はオープナーだ」とその気になって登板した者はいなかったのじゃないか。その意味では試合前から自覚のあった斎藤に分がある。が、もしかすると加藤が雪のなか、指先を温め投球を続けながら「おやぁ、これひょっとして……」と勘づいたかもしれない。途中から自覚していたらどうなるのか? また本人の自覚などというものは不要なのだという論もあり得る。あくまで栗山監督に用兵の意思があれば成立するという論だ(えのきどいちろう)。


※選手の交代をお知らせします。えのきどいちろうに代わりまして、ライター近澤浩和。



「ハム式オープナー」の今後


 ここまでの原稿を受け取ったのが18日のオリックス戦プレイボール直前だ。先発は金子弌大。


「オープナー」のことは引っかかっていた。一つには僕自身がえのきどさんほど面白がっていないこと。そりゃそうだ。オープナーで一つも勝っていないんだもの。もう一つは、「オープナー」の加藤と「第二先発」で投げる金子は普通に先発して5〜6回投げた方がチームも勝つ可能性が高いと思われること。少なくとも先発ローテに入っているロドリゲスに見劣ることはない。


 金子はどんな気持ちで2度目の先発マウンドに上がったのだろう。プロ初登板もここだったという神戸で去年までの同僚を3人ずつ抑えていく。3回にはブルペンで加藤が準備している。ああ、一回りしたらオールスターのように降板か。でもオールスターなら勝ち投手になれるんだよな。


 ところがそんな予想を裏切って5回まで続投。王柏融の先制打、中田翔のタイムリーなどで4−0となり勝ち投手の権利を得た金子は6回から加藤につないだ。金子と入れ替えに今季初めて2番手で投げた加藤がルーキー頓宮裕真にプロ初ホームラン(2ラン)を献上したりして雲行きが怪しくなったけど、最後は秋吉亮がしめて7−3。移籍後初勝利、12球団からの勝利を達成した金子はヒーローインタビューの終わりに「先発でも中継ぎでも任されたところで投げたい」と語ってくれた。


 そういや13日のロッテ戦、先発のバーベイトも「オープナー」かと思いきや5回まで投げて来日初勝利を手にしている。ハム式の「オープナー」は「5回まで続投」が成功パターンなのか。いや、それじゃ普通の「先発」だ。本当の「オープナー」の成功パターンは他にあるはずだ。


 そして金子の、加藤の、次の登板は中何日なのか。先発なのか、2番手なのか。「オープナー元年」の視界はもやっとしているが、オープナーたちがやりがいを感じて投げてくれることを信じつつ「ハム式オープナー」の今後を見守りたいのである(近澤浩和)。


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(青空百景,えのきど いちろう,近澤 浩和)

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