有村架純、デビュー15周年に語るものづくりの信念 「作品の祈りを届けられる年齢になってきた」
2025年4月20日(日)7時0分 クランクイン!
■セリフはオール関西弁! 切り替えに苦労は?
——有村さんは『さよならのつづき』(Netflix)の際、脚本制作段階からフィードバックをされたとお話しされていました。同作以降、作品への関わり方が変わった部分はありますか?
有村:撮影が始まる前に監督やプロデューサー、もしくは脚本家の方を交えて話す場をなるべく設けられるようにしています。今回もクランクイン前に打ち合わせを行わせていただき、いろいろと質問をしました。その中で一つ提案したのは、引っ越しの準備をしているシーンで兄やん(鈴木)がフミ子(有村)を怪しむシーンです。脚本上は点描(短いシーンなどを複数並べる演出)で書かれていましたが、自分のお芝居に何か一つ足したら自然な流れで匂わすことができるんじゃないかと思い、そのようなお話をさせてもらいました。
——衣装合わせの際に本作の脚本が好きと有村さんがおっしゃったと伺いました。ファンタジー要素もあり、リアリティーラインが独特の作品であるため、現実味をどこに設定していくかは難しかったのではないでしょうか。
有村:台本を読んでいるときは、ファンタジーの部分や婚約者の太郎さん(鈴鹿央士)がカラスと会話できる部分などに違和感を覚えることはありませんでした。リアリティーで突き詰めていくと無難な作品になってしまいますし、一つのエンターテインメント作品として見る方を信頼して委ねていくことが大事なのではないかと思っています。これは『花まんま』に限らず、例えば『さよならのつづき』ではいきなりクマが出てきますよね。台本を読んだときはびっくりしましたが、そういうエンタメだと考えることで救われる部分があると思うんです。映像自体が嘘の世界ですから、何でもできる中でそういったエンタメ要素を楽しめるかそうでないかの違いだと個人的には感じています。
本作はファンタジー要素がありながら、王道な家族の物語であり、関西の人情映画になっていて、久々にこうしたタイプの脚本を読んだ感覚になりました。そして、主演が一度しっかりご一緒したかった鈴木亮平さんということ、ずっと興味を持っていた前田哲監督の作品ということなどから参加を決めました。
今でこそ主演をやらせていただく機会が多くなってきましたが、元々自分のキャリアは小さい役から始まりました。今回は久々に主演とはまた違った場所から現場を見られる新鮮さを感じましたし、今の自分には必要な時間だったと思います。もちろん主演のときも周りを見るようにはしていますが、今回は余計なものが削(そ)がれた状態で現場にいることができて、ただただ始まりから終わりまで楽しいだけでいられました。オール関西弁でオール関西ロケの地元らしい温かさも大きかったと思います。
——有村さんはご出身が兵庫県ですが、関西弁にパッと切り替えられるものでしょうか。
有村:自分でも不思議なのですが、「今は関西弁にしよう」とか「今は標準語にしよう」と考えずに話せている気がします。今回の現場でも、話すスピードが速くなる、相手の話にすぐ返すといった“関西弁あるある”は特に指示がなくても自然とやり取り出来ました。
亮平さんがカメラが回っていない間もずっと関西弁で話してくださったので、私も一緒になって関西弁でコミュニケーションを取り続けることができたんです。現場のスタッフさんも関西の方が多かったこともあり、ナチュラルに空気感が出来上がっていた感覚があります。
■デビュー15周年を迎えた今後の目標
——鈴木亮平さんとの兄妹感が絶妙でした。どのように生み出されたものなのでしょう。
有村:私は他の作品や役者さんとも話し込んで関係性を築く…ということをあまり行いません。言葉を尽くし過ぎるとそこで消化されてしまう部分があると思うからです。自分にとっては余白を残した方が演じやすいところがあるので、お互いに信頼して身を委ね合うようにしました。
亮平さんはインテリジェンスな方ですが、俊樹同様にとても温かく包み込んでくれる方です。ご自身で2割はストイックで8割はおっちょこちょいとおっしゃっていましたが、現場ではその8割の部分をたくさん目撃して、かわいらしい方だなと感じました。例えば、作品に入る前の食事会の場でお箸を落としたり飲み物をこぼしちゃって慌てていたりして「おやおや?」と微笑ましかったです(笑)。
——本作は幼少期もしっかりと描かれる構成になっていますが、何か連携を取るなどの工夫はされたのでしょうか。
有村:前田監督からも特に指示はありませんでしたが、亮平さんと一緒に幼少期パートの撮影済みの素材を見せてもらいました。田村塁希くんと小野美音ちゃんの2人が頑張ってくれたので、より俊樹とフミ子に感情移入できたと思います。2人がこの物語に説得力を持たせてくれました。
私自身、幼少期から描く作品にあまり関わったことがなく、『ひよっこ』(NHK総合)も高校生時代からだったので、自分にとって初めてに近かったと思います。完成した作品の幼少期パートを拝見したときは、一緒に作品を作った仲間としてもそうですが「頑張って撮影していたんだな」と親心のような目線で見てしまいました。
——フミ子は特殊な秘密を抱えた役どころですが、役作りにおいてどんな部分を取っ掛かりにされたのでしょう。
有村:あくまで彼女の中では無意識の部分なので、あまり深く考えないようにしました。自分には経験がないことなので「どういう感覚なんだろう」と思いはしましたが、親族との距離感や関係性といったものに置き換えながら把握していきました。
——有村さんは今年デビュー15周年を迎えます。今現在の目標などはありますか?
有村:私は医療系や刑事役を演じたことがないので、そういった「いつかやってみたいな」という役柄やジャンルはありますが、今は主観的というより複合的に考えるようになってきた感覚があります。例えば、「これを皆さんに届けるにはどう作るのが正解なんだろう」といった風に。そんな中で、これから貢献出来たらいいなと思っているのが、見てくれる方々に祈りを届けられるようなもの、誰かのためになる作品づくりです。
20代の頃も「誰かに届いてほしい」と思っていましたが、届いてほしい先が具体的に何かまであまり言葉にしたことはありませんでした。ただ、30代に入って、自分の思いや作品の祈りを届けていける年齢になってきましたし、これまで以上にそうした信念を大切にしていかなければいけないと思っています。
(取材・文:SYO 写真:上野留加)
映画『花まんま』は4月25日全国公開。