“タブー”へ切り込んだ『3年A組』、番組Pが語る「“時代錯誤”を主流に変えた熱量」

4月20日(土)8時40分 オリコン

前クールを賑わせた『3年A組―今から皆さんは、人質です―』のプロデューサー・福井雄太氏 (C)oricon ME inc.

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 前クールに大きな反響を呼んだ菅田将暉主演の連続ドラマ『3年A組—今から皆さんは、人質です—』(日本テレビ系)は、最終回で15.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)の高視聴率をマーク。菅田が演じた柊先生による“7分の独白”はSNSでも大きな話題となった。そんな、“社会的ムーブメント”を巻き起こした本ドラマのプロデューサー・福井雄太氏に、このドラマがいかにして企画され、何を伝えたかったのかなど、今だからこそ聞ける“名作誕生の舞台裏”を聞いた。

■「世の中に対して訴えたいこと」「伝えたいこと」が共鳴し、“僕らの物語”がスタートした

——学生時代からエンタメ業界を目指していたのでしょうか?

【福井雄太】高校3年生のときから脚本家になろうと思っていたんです。それで、脚本の描き方を教えてくれる学校に通って脚本の書き方を学び、賞レースにも応募して「賞」を頂いたこともありました。いろいろな脚本を書いているなかで、新しい作品を企画し、アイディアを形にすることが好きになった。そう思ったときに「脚本家」ではなくテレビ局の「プロデューサー」がという選択肢が生まれました。

——企画を生み出す喜びに魅せられたからですか?

【福井雄太】プロデューサーは「ゼロ」を「イチ」にする仕事なんだと感じたんです。それでテレビ局を志望して、日本テレビに採用してもらいました。

——入社後、3年目で“日本テレビ史上最年少”のプロデューサーになられたんですよね。

【福井雄太】それは周りの方々のおかげですね。当時、企画書を何十本も出していて、その1つを採用してもらいました。僕の企画書は実はかなり下手くそで、イメージキャストや具体的な内容はあまり書かないんです。それよりも、「このセリフが言いたい」という一行が生まれた時に企画書ができる。こういう事を伝えたい、そのためにはこんなシチュエーションが大事。そうやって一つひとつを繋げて企画書を作っていきます。3年目の僕が担当した作品は予算の少ない深夜枠だったんですが、もう毎日、がむしゃらに作っていました。反省点もたくさんありましたが心底楽しくて、その時の出会いや経験が“僕の原点”です。それ以降、何十本も企画書を出すようなことは無くなり、「本当にやりたいことはなんだろう」と突き詰めて考えるようになりました。

——『3年A組』は、“本当にやりたい”1枚の企画書からスタートしたわけですね。

【福井雄太】『3年A組』は変わった始まり方をしています。6年前に菅田(将暉)くんと初めて出会って、その時にいろんな話をしました。お互い同じテーマを抱えていて、何時間も語り合いました。「いつか仕事をしたいね」と話していたら、ちょうど2年くらい前に一緒にドラマを作れることが決まった。そこで改めてもう一度「何をやりたいか」を話しました。お互いに世の中に対する同じテーマを持っている中で、彼が「教師をやりたい」と言ったんです。その一言を最初のきっかけにしてまず“学園モノ”をやろうと決めました。

——同ドラマでは、脚本家・武藤将吾さんの存在も大きかったとお聞きしました。

【福井雄太】僕にとって、武藤さんは“もう一人”の天才です。武藤さんとずっと話していたことは、今回の“学園モノ”というジャンルでどんな「テーマ」をどう伝えるかということでした。

——『3年A組』の「テーマ」とは何だったのでしょうか。

【福井雄太】いま、自分の思いだけで生きるのが難しい世の中で、「生きる」という思いをどうやって見つければいいのか。同時に、SNSが発達してコミュニケーションの様相が変わる中で、責任を持って生きることが難しくなっている。では、自分の人生をきちんと生きる、ということを伝えるにはどうすればいいんだろう。そう考えた時に、今の世の中と“背反している教育”、「体と体がぶつかりあうこと」、そして「目と目を見てちゃんとコミュニケーションをとる」ことをテーマにしました。

——そのテーマを劇として見せるうえで、“人質”という舞台を作ったと。

【福井雄太】結果、一番原始的な「密室劇」をやろうという話になったんです。最初に武藤さんが突然「人質にとる」っていうのはどうだろうと提案してくれたんです。その一言からドラマはドンドン広がっていって、僕も新しく企画書を書きはじめて、タイトルを『3年A組—今から皆さんは、人質です—』に決めました。その内容を菅田くんに話したとき、僕と菅田くん、武藤さんの3人が「世の中に対して訴えたいこと」「伝えたいこと」が共鳴し、僕らの物語がスタートしました。

■窮屈な現状を変えるため、『3年A組』を番組制作の“フラッグシップ”にしたい

——「学園モノ」を作るうえで、意識したことはありますか?

【福井雄太】武藤さんと話をしていて、「見た後に何かとんでもないモノを見てしまった」という感覚になるドラマを作ろうという目標を掲げました。それで、僕が勝手に思っていたことは、すべての“タブー”をやろうということ。「学園モノのドラマは当たらない」と言われているなかで、今までやれていなかったことをやる。「1話完結が主流で視聴率も取れる」。じゃ、連続モノでいこう。そして、「原作モノがあたる」と言われている中でオリジナルをやろう、などなど。

——“やってはいけない”と言われていることを全部かき集めて、本当にやりたいと思ったことをやったわけですね。

【福井雄太】そうですね。だから、それでダメなら仕方ないと、僕の中で「大きな覚悟」を持っていました。おこがましいことですが、作っている人間として“どんどん窮屈”になっていく現状がすごく嫌だった。モノ作りをしている人たちはみんな、自分たちが面白いと思っているモノを持っています。でも、いろいろな事に合わせないといけない事情も勿論ある。そんな中で“タブー”にあえて切り込んだこの作品が、TV番組を作る人たちにとっての『フラッグシップ』になれたら、何かを変えられる気がしたんですよね。

——実際、反響はどうでしたか?

【福井雄太】さまざまな反響があったなかで特に若い人からの反応が大きくて、それは本当に嬉しかったですね。テレビドラマは若い人たちが見ても面白いんだ、「まだまだ捨てたもんじゃない」というのを少しは伝えられたんじゃないかと思っています。

——本作がこれほどヒットした要因とはなんだと思いますか?

【福井雄太】あえて変な言い方をしますが、良い意味で「時代錯誤」なんだと思います。この時代になんだか見たことがないもの、会ったことのない人の姿が詰め込まれている。そして、その時代錯誤の一番の要因は「熱量」です。

——終始一貫、菅田さんの演技からは“熱”が感じられました。

【福井雄太】菅田くんの全身全霊の熱量と3年A組のチームとしての熱量。それをテレビの前で見ている人は画面から感じてくれたんだと思います。

——おっしゃる通り、毎回の放送ごとにSNSで『3年A組』が話題になっていました。

【福井雄太】今まで見た事がない“いびつなもの”を見た感覚が視聴者の中で「あれ見た?」という話題にもなってくださったんだと思います。もう一つは、菅田くん演じる柊一颯(※本ドラマの主人公)の人間臭さ。不器用に愚直に生きる、自由に生きるのが難しい今の世の中で自身の最期の命を燃やしながら、人間らしく生きることが多くの人の心を揺さぶったんだと思います。

■『3年A組』は菅田将暉と“心中”する気構えだった

——菅田さんの演技には見ていて圧倒されました。プロデューサーの立場としてどこまで指示されていたんですか?

【福井雄太】俳優、菅田将暉とはお互いに相棒のような信頼感があったと思います。この作品はある意味ドキュメンタリーのようなドラマでした。だから、「良い芝居だったね」とは一回も言わなかったんですよ。

——本ドラマは“菅田さんと心中する”くらいの気構えだったのでしょうか。

【福井雄太】それはありますね。撮影の合間に話すのはお互い感じている共有部分で、「良い芝居だった」ではなく「伝わったね」ということ。その「伝わった」には2つの意味があって、1つは菅田くんの芝居が僕に伝わったこと。2つめは作品が伝えたかったことを菅田くんがレンズに向けて伝えてくれたという意味もありました。もう“全身全霊”という言葉があんなに似合う役者はいないですね。

——そして、最終回の7分間の独白部分がドラマを象徴するシーンになりました。

【福井雄太】あのシーンは、一発撮りだったんです。頭から最後までの7分間、NGなしのノーミスです。1回しか撮影していません。最後の最後で、あのライブ感を撮れたのはとても大きかった。僕と武藤さんの中では企画創世記から、このドラマで一番伝えたかったことを表現するために、最後は『独白』という形を会話していました。世の中の人たちとの対話、SNSとの対話。文字と闘うシーンも武藤さんのアイディア。菅田くんが言いたい事、僕の伝えたい事を話しながら武藤さんが見事に台本にしてくれた。あの独白のライブ感は凄かったですよね。

——このドラマで1番伝えたかったことはなんですか?

【福井雄太】「考えること」だと思います。いま、多くの人が「他人から見た自分」を生きる時代になってしまいました。僕もそういう生き方をしてしまった時代もあります。いまって、周りから見て「ズレていないかな?」「どう思われているかな?」をまず考えてしまう。例えばもし、「自分の好きな曲はコレです」、と言った時にそれが“アイデンティティ”になってしまうから言いづらいし、怖い。

——自分をさらけ出すことが、叩かれ炎上することの要因になっている。つまりデメリットになってしまうと。

【福井雄太】なので、今って「これ嫌いって」言った方が楽なんです。それなら“アイデンティティ”にならないし、自分がどういう人間かをさらけ出さなくていい。でもそれだと、世の中つまらなくなってしまうなって思ったんです。だから「ドラマ」というエンタメやフィクションを通して、自分のことでも、他人のことでも良い。反射的に空気を読んで合わせるのではなく、「何をしたいのか」「相手は何が良いと思っているのか」を自分で考えて何か一歩踏み出すことができたら、それは本当に素敵な事なんだと思うんです。自分で「考える」こと。それがどんどん広がれば、世の中もっとおもしろくなると思っています。

取材・文/山本圭介(SunMusic)

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