安田顕 さらば平賀源内!「心の中の源内さんと会話しながら演じてきました」【大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」インタビュー】
2025年4月20日(日)20時45分 エンタメOVO
(C)NHK
ー第16回では、さまざまな出来事が源内の身に降りかかった末、非業の死を遂げました。その中で、特に印象に残ったシーンを教えてください。
牢屋の中に白湯が差し出されたシーンは印象的でした。窓の外にはらはらと降る雪を見ながら、寒さの中で孤独に「あめつちの手をちぢめたる氷かな」と、辞世の句を詠む。その直前、牢屋に面会に来た田沼様の前で号泣しながら思いを打ち明けて和解したことで、心は落ち着いていたと思います。そんなとき、ぽっと湯気の立つ白湯が差し出される。それを見て、人生の最後に源内さんはきっと救われたのではないでしょうか。
ー源内の最期を演じる上で、どんなことを心掛けましたか。
今回は、長期間演じる役作りの一環として、自分の心の中の源内さんと「源内さん、今どうしたい? あ、そうだよね」と会話しながら演じてきました。その上で、あらかじめわかっている源内さんの最期は、視聴者の皆さんに楽しんでいただき、「べらぼう」のその後につなぐにはどうすればいいのか。考えた末に出した結論が、落差を大きくした方が、人間らしさも出ていいのでは、ということでした。
ー具体的にはどのようなことでしょうか。
ひょうひょうとして個性的だけど、憎めない、面白い人。そして、なぜか目を離すことができず、誰もがうわさ話をしてしまう。源内さんは本来、そういう人なんですよね。そんな自由な生き方を貫いていたはずの源内さんが、ちょっとしたことで疑心暗鬼に陥り、幻聴が聞こえるようになり、立身出世を果たせなかった悔いを残して、最後はおびえながら死んでいく。その落差です。
ー確かにそれまでの源内を思うと、悲しい最期でした。
でも僕は、そんな生き方をした源内さんを褒めてあげたい。自分を全面的に肯定できるのは、自分だけですから。だから、「あなたの功績は数々の発明だけでなく、他の人にはない自由な発想を持ち、自由な生き方をした人柄が今も語り継がれ、愛されていますよ」とずっと心の中の源内さんと話をしていました。そして最後は、「僕はあなたを肯定し続けます」という気持ちで演じさせていただきました。
ー見事な名演でした。
うれしかったのは、数々の大河ドラマや朝ドラに参加されてきたメイクの方が、「亡くなるときの源内さんは、こういう状態だったのでは」と、いろいろと考えてくださったことです。かつらを担当されている床山の方も、「牢屋に入ったときは、髪を少し乱れさせよう。ひげもつけたい」とおっしゃって。皆さんお忙しい中、そんなふうに色々な提案をしてくださり、とてもありがたかったです。
ー第16回では、獄中の源内と田沼意次が面会するシーンも胸が詰まりました。
あのシーンでは、照明のセッティングなどいろんな準備をする間、僕がセットの中で座って待っていたら、謙さんが「ピンと張っていたら、本番で切れるときがあるから、うまく調整しようよ」とさりげなくアドバイスしてくださったんです。そんなふうに、謙さんは相手がどんなポジションで今、お芝居をしているのか、ちゃんと見ているんです。僕も、そんな気遣いができるようになりたいと思いますが、簡単なことではありません。でも、それができるのが、渡辺謙さんなんですよね。本当にすてきな方でした。
ー源内は蔦重と一緒のシーンも多かったですが、横浜流星さんとの共演はいかがでしたか。
僕も横浜さんも格闘技好きなので、空き時間にはボクシングの話などをしながらコミュニケーションをとっていました。横浜さんは、そんなふうにさりげなく、共演者に合わせて空気感を作ってくださるんです。おかげで、一緒にいる時間が楽しかったです。
ー横浜さんとの撮影時のエピソードを教えてください。
第11回で、エレキテルの実験をする源内さんが「この野郎、何で(火が)出ねえんだよ」と文句を言いながら、蔦重の頭をパチパチたたく場面がありました。実は、台本には1回しか書かれていなかったのですが、なぜかそのとき僕は、子どもの頃に見たドリフのコントを思い出し、つい4回もたたいてしまって(笑)。横浜さんも「全然大丈夫です」と楽しんで演じてくれて、ありがたかったです。まっすぐで真面目な上に、そんなやんちゃな面もあり、「漢」と書いて「おとこ」と呼びたくなるすてきな方でした。
ー第1回の登場から印象的なシーンばかりだった源内ですが、特に心に残ったシーンを教えてください。
やっぱり、第5回で源内さんが仕官のかなわない身の上を蔦重に明かした上で、「わが心のままに生きる。わがままに生きることを、自由に生きるっつうのよ。わがままを通してんだから、きついのは仕方ねえや」と「自由」について語った場面です。
あの時代に「自由」という言葉があったのか、気になって調べてみたら、源内さんは似たような言葉を書き残しているんです。それをヒントに、森下(佳子/脚本家)さんはあのせりふを書かれたわけです。誰もが共感できるすごい言葉ですし、それを書かれた森下さんも本当にすごい方だなと。
ーところで、クランクアップは第16回ではなかったそうですが、そのときの様子はいかがでしたか。
クランクアップは、源内さんと田沼様の出会いのシーン(第15回)だったのですが、撮影後、渡辺謙さんが握手をしながら「これで終わらせないぞ。森下さんに言って、もう1回出してもらうようにするから。やろうな」と言ってくれたんです。渡辺謙さんからそんな言葉をかけていただき、感無量でした。今回、まるでバディのように謙さんとお芝居させていただけたことは、この上ない幸せです。もちろん、スタッフの皆さんも笑顔で迎えてくれましたし、数多くの大河ドラマや朝ドラを経験しているメイクの方が「いろんな方が源内さんをやっていますが、安田さんの源内さんは、とっても人間くさかったです」と言ってくださったのも、うれしかったです。
ーこの作品で平賀源内を演じたことは、安田さんにとってどんな経験になりましたか。
実は今回、最初に打ち合わせをしたとき、「源内さんは、はたから見ると癖があり、ちょっと奇天烈な人だから、それを象徴するような癖をつけられませんか?」とご相談したことがあったんです。その後、届いた台本の決定稿を見たら「源内、舌を上唇に押し当てて」と書かれていて。おかげで、それを源内さんの癖として特徴づけることができました。先ほどお話しした最期のシーンのメイクの方や床山の方のことも含め、スタッフの皆さんと一緒に作っていることを実感しながら、「べらぼう」という作品に携わることができたのは、とても幸せな経験でした。
(取材・文/井上健一)