マネ虎・岩井良明社長「若者よ、就職することは恥じゃない」

4月21日(日)16時0分 NEWSポストセブン

 今から15年前に惜しまれつつ終了した『¥マネーの虎』(日本テレビ系)で“教育の虎”としで活躍した岩井良明氏は2018年、長いネット上での沈黙を破ってYouTubeで『就活の虎CHANNEL』を開設した。4月1日に『令和の虎』としてリニューアルした同番組では、新システムを加えた『¥マネーの虎』を復活させ、就職活動にチャレンジする大学生たちに、働くことについてのメッセージを伝え続けている。イラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏が、岩井氏に"働くこと"について聞いた。


 * * *

◆出来の悪い子ほどカワイイ


──岩井社長はどのように社会に出られたのですか?


岩井:元々、小説家や役者という仕事をしたいと思っていたんですよ。けれど、何度か挑戦したものの、自分の芸術的才能のなさに気づきましてね……。


 大学時代は応援団で団長までつとめましたので、根性だけはありました。こういった言い方は失礼ですが「営業ぐらいは自分もできるだろ!」とリクルートでアルバイトを始めました。それが、働くことのスタートでした。


──リクルートではどんな仕事をしていたのですか?


岩井:主に新卒採用の仕事ですね。営業成績も良く、正社員になることも出来ました。仕事も順風満帆だったのですが、あることで揉めましてね。3年でやめました。その後、愛知県江南市で塾講師の仕事を始めたんです。


──ここで今に至る教育事業との出会いがあったんですね。


岩井:自分で言うのもなんですが、人気講師だったんですよ。特に出来の悪い子からは絶大なる支持で。だって、塾生でもない子供たちが、僕と話をしたくてビルの屋上でたむろしているんですよ(笑)。


 僕も大学時代にちょっと危ない世界を見た経験があります。屋上でたむろしていた彼らは、その背景を察したんでしょうね。他の講師の言うことは聞かないけれど、僕の言葉はスッと受け入れてくれるんです。だから、授業にも熱がこもりました。ダメだった子の成績を上げることにおいては、カリスマだった。


──前のインタビューで聞いた応援団の話もそうですが、岩井社長の人生はホントに劇画のように人と人が熱い思いをぶつけあう世界ですね。


岩井:かわいいけれど、ちょっと頭が悪い女の子っているじゃないですか。その子が悪の道に入りそうになった時も相談を受けてね。助けてあげたこともありました。◆「己を知る」これが1番大事


──多くのことを経験されている岩井社長ですが、『就活の虎CHANNEL』では学生に対して「己を知れ!」とよく発言されていますよね。


岩井:僕は何度も会社を潰しかけました。ただ、潰してしまうと迷惑をかける人がいるでしょ。月末締めの支払いも出来ないわけだから。うちは企業規模が大きくないので連鎖倒産まではない。ただ長年、友好的に付き合った会社や人に“迷惑をかけること”になる。それが、どんなにやってはいけないことなのか、それを分かっていない若い人たちがいる。そういう彼らは「若いうちにどんどん失敗をして、2回目やればいいじゃん」と平然と言う。だから、腹も立つんですよ。


 今の時代、ネットビジネスで起業し、誰にも迷惑をかけずにやることも理屈では出来るのかもしれない。けれど、会社を立ち上げるってそういうことじゃないからね。


──『令和の虎CHANNEL』のコメント欄でもこういった議論で盛り上がってますよね。


岩井:「日本には民事再生法がある。だから、会社が倒産したって立ち上がる権利がある」といった酷いコメントもありました。


 確かに法律的には会社を倒産させることは正しいかも知れない。だが、こんなことを堂々と書く人と付き合う会社があるのかって話ですよ! 僕が古い人間だということとは関係なく、やっぱり違和感を禁じ得ない。会社を経営するとはどういうことなのか、仕事をするとはどういうことなのか、教えなきゃアカンなぁ、と思いましたね。


──債権者にお金を返さないまま自己破産して、違った業種で再びメディアに現れる社長もいますよね。


岩井:計画倒産だってナンボでもあるじゃないですか。でも、そうやって立ち直った人を僕は、どうやって賞賛できるんだろうと思ってしまう。ただ、ずる賢いだけじゃないか! と思います。


 今ではカリスマ視される元IT長者だって同じですよ。彼がやったことで苦しんだ人、泣いた人が腐る程いる。けれど、成功者の象徴として祀られているじゃないですか。そういった風潮って、少し前からありますよね。及ばずながら、僕くらいは反対しようかな、と思っています。◆“社会を知る” これが社会人への第一歩


──ちょっと、僕の話をしてもいいですか。僕は大学卒業後、3年間くらいプラプラしてたんですよ。その間、就職活動もせず「働きたくない……」とただ思っていました。ものすごいモラトリアムを抱えていたんです。


岩井:「働きたいか?」と聞かれれば、僕も働きたくないですよ。でも、大学を卒業した22歳の大人は自分で飯を食っていかなきゃいけない。その時、よほどのことがない限りは起業なんかできない。しばらくの間、アルバイトをして好きな仕事を見つけるなんて人もいる。でも、これは責任感が求められない仕事ですよね。僕の中では経験に入らない。20代後半にもなった日には、履歴書が汚れてるだけ。


 兎に角、やりたい仕事なんて見つからなくていい。まず、企業で働く経験が必要なんです。それは、仕事の中身を知るためじゃない。“社会を知る”ために企業で働くんです。


──自分もそうですが、モラトリアムなヤツほど理想が高いじゃないですか(笑)。


岩井:多くの大学生がヨシムラさんと同じく「やりたい仕事が見つからない」と言っていますよ。見つからないのは当たり前、経験がないんだから! やりたいことを見つけようとはせずに、直感で良いんです。「なんとなく来年、ここで働いているイメージが湧く」、そんな第六感を信じてやるしかない。


 大学4年間で本当に身になることを得る人の方が少ない。ほとんどが普通の人ですよ。だったら、お金を貰えて修行ができる就職がベター。人に揉まれて、“社会を知ること”が第一歩だと思いますね。


──岩井社長が考える“社会を知ること”とは具体的にどういったことなんですか?


岩井:外に出た時に恥ずかしくない人間になることじゃないですか。


 例えば、うちの会社で3年間鍛えた人間が転職することもある。やっと使えるようになった! と思った矢先ですからね、本音を言うと腹も立つんです(笑)。しかし、その社員だった人と関係性が悪くなったわけではないので「たまには遊びに来いよ」と声を掛けます。


 しばらく経つと実際に来るんですよ。そこで新しい職場での様子を「どうだ?」と聞けば、皆一様に「ビックリするほど褒められます」と言います。転職先で「お前、一体どんな会社で育ててもらったんだ?」と聞かれるらしいんですよ。それは仕事ができるとかではなく礼儀。社会人として最低限のことが全部できるようになっているからです。僕だって、社員が辞めて他の会社にいった際、「前、どんな会社に居たんだ」とバカにされることだけは絶対に嫌なんです。


──“社会を知る”とは礼儀の問題なんですか?


岩井:理系の研究職などはちょっと違うかもしれませんが、最低限の礼儀が出来る子は、仕事上でも利益を被るんですよ。人間関係を上手に構築できますから。世の中にコミュニケーション能力を必要とされない仕事はないんです。それを知るためにも社会へ出て、良いも悪いも学んでいくしかない。


 最近では、大学生が起業して、億万長者になることだってありますね。ただ、そういった社長ってよくトラブルに巻き込まれるでしょ。経営者の経験はあっても使われた立場がないことは、実は弱点なんです。部下として働く社員の気持ちが分からないから、問題が起こりやすくなります。


──ぼんやりとしたイメージですが、社長しか経験したことがない人には冷たい人が多そうな気がします。


岩井:自分が立ち上げた会社を、買収してもらって利益を得るだけで売り抜けようとして、一緒に頑張ってきた人たちを会社ごと捨てる人もいる。「古臭い!」と言われがちな僕から見ると、彼らがやっていることは本来の意味での起業とは違う。虚業だと思う。


 起業した会社を売って儲けたり、計画的に倒産して個人的な損失を小さくして、勝てた一部の勝者はいいですよ。でも、起業しないと一人前ではないと思い込まされて会社をまかされて実際は損ばかりしたり、勝手な人のもとで働いて巻き込まれた普通の人は大変ですよ。そこから復活することは、相当難しい。だから「就職することは恥じゃないよ」と伝えたいんですよ。腹くくって就職する社会を作りたい。


──どこかの企業に就職することを恥だと思う学生もいるんですね。


岩井:残念なことに「どうせ俺なんか何もできない。だから、就職するしかない」といった後ろ向きな考えの学生が沢山いるんです。就職することは、前向きなことですよ。◆働くこと=社会貢献


──今、一括採用が問題となっていますが岩井社長はどうお考えですか?


岩井:まもなく日本も通年採用になるのではないでしょうか。


 今の就職活動の様子をみると、大学生のなかには、一括採用のシステムを上手に利用できる学生もいます。部活一筋でやっていても、力があるから一ヶ月の就活で一流企業の内定を取る学生もいる。また、どちらも出来ない不器用な学生もいます。様々な学生がいるのに、一つの仕組みに入れようとするのはナンセンスですね。


 理不尽な仕組みだと思っている人が多いのに一括採用がなくならない理由は、大企業が楽だからでしょう。うちぐらいの規模の会社は両手を上げて、通年採用に賛成しますよ。


──長年、ニート生活を送っていた僕も、やっと最近になって働くことに慣れてきました。岩井社長にとって働くとはどんなことですか?


岩井:歳を重ねてから気づいたことなんですが、働くこと=社会貢献だと思います。僕が大学時代に経験をした風俗産業を含め、社会貢献をしていない仕事ってない。色々と考えたんですが、社会貢献をしていない仕事ってこの世に残らないと思います。


 仕事って2種類しかないんですよ。自分が社会に貢献していると感じられる仕事、もしくはそうではない仕事。まぁ、どちらにしても貢献はしているんですけど……。だったら、誰かに認められ、喜んでもらえることが目に見える仕事の方が良いですよね。仕事を通して、自らの存在価値を見つける。その時、「あぁ俺、生きてて良かった」と感じるんじゃないですかね。


【岩井社長に1時間に渡って話を伺った。長年、「働きたくない……」とぼやき続けた自分の甘えが苦さへと変わる。インタビューをしながら「もっと若い時に『令和の虎CHANNEL』を見たかった」と何度思ったことか。就職活動もすれば良かった。しかし、全ては後の祭りなのである。諦めるほかない。


 ここ数年やっと仕事にも慣れてきた。慌ただしくすぎる季節も過ぎた。その先にあったのは平穏ではなくぼんやりとした不安。「なんで働くんだ?」という自分の中に巣食う悪いニートの虫が鳴き出した。そんな今日この頃に岩井社長と話せてラッキー。今後、数年間は「働くことは社会貢献、をポリシーに書いていけそう」。帰り道、そんなことを考えた。】


●いわい・よしあき/1960年名古屋市生まれ。東海高校から同志社大学文学部へ進学、大学では応援団第74代団長をつとめた。1984年株式会社リクルート入社、トップ営業マンとなる。1989年小中学生のための学習塾「大志塾」を設立。1993年に法人化し株式会社モノリスを設立。現在は株式会社モノリスジャパン代表取締役社長。『マネーの虎』(日本テレビ系)に虎として出演、人情味あふれる「教育の虎」は今もネットで人気を集めている。


●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)

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