あの“ブリーフ裁判官”が問う「裁判官は劣化しているのか?」

4月23日(火)11時0分 文春オンライン


『裁判官は劣化しているのか』(岡口基一 著)


 本書は、現役裁判官による裁判官の在り方についての建白書であり、「裁判官は劣化しているのか」という聞き捨てならない問いを丁寧に論証し、答えている。


 かつて、裁判官同士のコミュニケーションといえば、裁判所での勤務時間内のみに交わされるものではなく、アフターファイブの飲み会を通じたコミュニケーションもまた重要だった。裁判実務上の智、及び司法はどうあるべきかという意識の承継は実は裁判官同士の人的交流によってなされていたという。


 司法の本質・役割論を真剣に論じていた裁判官がいたこと。民事裁判における判決文の書き方には従来(在来)様式と新様式という作法があり、今では主流ではなくなった従来様式こそが裁判官の教育に大きな意味があったこと。裁判官の育成についての著者の見解は弁護士にとっては新鮮で説得力がある。


 と、これだけ述べると本書評を読まれる諸氏には、本書は自分と関係がない裁判官の話だと早合点する方もいるかもしれない。しかし、裁判官は、司法における判断権者であり、その裁判官がどのような思考方法で判決を書いているのかは、日本に住む全ての者に関わる問題であり、我々が知らなければいけない問題である。


 そして、本書は、告発書でもある。著者の告発は裁判所の憂うべき現状を明らかにする。司法とは「多数決の『暴力』から少数者の権利や自由を守る」べき存在である。そのためには司法制度はどうあるべきかを議論する全国裁判官懇話会に所属していた裁判官が人事上の不当な差別を受けていたこと。弁護士・裁判官において必読書の『要件事実マニュアル』(ぎょうせい)の出版やホームページの開設が裁判所から問題視されていたという著者自身が当事者になった事例も明らかにされる。無罪判決を続出すると出世に影響すること。刑事裁判において警察官の偽証は闇から闇へと葬られること。


 告発と建白の二つの側面をもつ本書は、国民にとって望ましい裁判官の選任・育成のあり方について健全な議論のための情報提供を行う裁判所内部のファーストペンギンとしての役を果たすものと言えよう。


 最後に、昨今様々な批判・擁護がなされている著者のツイッターでの情報発信に関して、弁護士である私の見解を述べたい。著者には、反省すべきところがあれば反省し、言葉足らずであったところがあれば言葉をさらに紡ぎだし、今後も裁判所内部からの情報発信を期待したい。まだまだ我々は裁判所内部のことについて知らないことが多すぎる。


 少数者の権利が多数決の専横から守られる社会であるために、司法制度がどうあるべきか、我々は考えていく必要があるはずだ。著者の情報発信が今必要とされている。



おかぐちきいち/1966年、大分県生まれ。裁判官。東京大学法学部卒業。福岡地裁、東京高裁を経て、仙台高等裁判所判事。著書に『民事訴訟マニュアル』『要件事実入門』『最高裁に告ぐ』など。



からさわたかひろ/1978年、東京都生まれ。弁護士。早稲田大学法科大学院修了。著書に『炎上弁護士』など。





(唐澤 貴洋/週刊文春 2019年4月25日号)

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