深夜アニメになかったゆったりした展開に癒やされてほしい 『ふらいんぐうぃっち』奈良駿介プロデューサーインタビュー

4月23日(土)19時0分 おたぽる

(C)石塚千尋・講談社/「ふらいんぐうぃっち」製作委員会

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2016年4月から日本テレビ、青森放送ほかで放送中の『ふらいんぐうぃっち』は、石塚千尋原作で、「別冊少年マガジン」(講談社)にて連載中のマンガをアニメ化した作品。青森県弘前市の美しい風景をバックに、魔女にまつわる不思議な世界が存在する以外はごく普通の日常がほのぼのと進むだけの異色作だ。動きの激しい深夜アニメが多いなか、どのような意図でアニメ化を果たしたのか。番組の立ち上げから関わってきた奈良駿介プロデューサーに聞いた。

■原作本の表紙が目に留まったのが、企画立ち上げのきっかけに

 原作のコミックスは、今年3月に刊行された第4巻が最新という『ふらいんぐうぃっち』。立ち上げの準備期間を踏まえると、アニメ化されるにはかなり早いタイミングだ。どのようなところに目をつけて、企画の早期始動につながっていったのだろうか?

── まず、アニメ化に向けて動き出した経緯を教えてください。
奈良駿介プロデューサー(以下、「奈良」) 仕事上、普段からマンガは数多く読んでいますが、『ふらいんぐういっち』は書店で表紙を見たときに、丁寧に描かれた背景の中に黒髪の女の子(主人公の木幡真琴)が違和感なくたたずんでいて、「かわいいな」と手にとったのが最初でした。そして、中身を読んでいくと、作品からにじみ出てくる不思議な雰囲気が頭に残ってしまい、「その不思議な感じをアニメ化したい」と考え、早々に企画を提案しました。
── 作品の舞台になっている青森県弘前市には、以前から馴染みがあったのですか?
奈良 いえ、まったくなかったです。ただ、原作は表紙だけでなく、作中においても弘前の風景が随所に丁寧に描かれていたので、アニメですべてのシーンに背景がついたら、きっときれいで見栄えのいい面白い作品になるだろうな、という感触は頭にありましたね。
── 原作漫画がまだ第4巻であることを考えると、かなり早いアニメ化ですよね?
奈良 最初にアニメにしたいと思ったのは、まだ3巻が出る前だったと思います。現実としてアニメが原作に追いついてしまう懸念はありましたが、制作会社がJ.C.STAFFさんに決まって内容を詰めていく中で、「いかにじっくりとしたものにしていくか」と話していました。この作品はコマとコマの間をどれだけ丁寧に作って、じっくり見せていくかという作品だと思いましたし、それができれば今ある原作のお話でも成立させられるのではないかと思いました。
—— 原作コミックもアニメも見ていないと、設定や物語の出だしだけを聞くと、某有名長編劇場アニメを連想する人もいるのでは、と思いますが、制作スタッフ陣ではいかがですか?
奈良 設定だけ切り取ってみれば、そう思われるかもしれませんが、私自身はあまり意識することはありませんでしたし、他スタッフもそうだと思います。


■風景が美しく、かわいいキャラを描けるJ.C.STAFFに制作を依頼

 制作はJ.C.STAFFが担当。VAPとしては、この『ふらいんぐうぃっち』が初のタッグとなった。今回、あえて依頼した裏にはどのような意図があったのか? 制作スタッフを固めるまでの流れも含めて聞いた。

── VAPさんはJ.C.STAFFさんとは初めてのお仕事になりますね?
奈良 今回、J.C.STAFFさんにお願いしたのは、弘前の自然の風景を綺麗に描いて、自然の中の光などきれいに見せることができるスタジオがいいと思ったからです。また、主人公の木幡真琴や、一緒に暮らす又従姉妹の小学生・倉本千夏の魅力によるところも大きいので、キャラクターをかわいく描いてほしい。J.C.STAFFさんなら両方できると思いました。
── 桜美かつし監督は、長い間J.C.STAFFの屋台骨を支えてきた方です。
奈良 桜美監督に最初にお会いした際、原作をしっかり読んでくださっていて、この作品をどのようにアニメ化していくか? という方向性もかなり近いものがありました。
── 桜美さんというと、『よみがえる空 -RESCUE WINGS-』では、救難ヘリコプターを迫力満点に飛ばしていた印象が強いです。『ふらいんぐういっち』でも、ほうきに乗った真琴を大空でギュンギュン飛ばす独自の空中シーンがあるのかも、と考えたファンがいたかと思うのですが。
奈良 それは原作のイメージから外れてしまいますからね。空を飛ぶシーンはふわっとした無重力感が出るイメージです。1話では、ほうきに乗った真琴が軽く飛んだときに、周囲に風が起きてほうき売り場の値札の紙がたなびき、水たまりの水面が揺れるなど、桜美さんが細かく表現しています。
── では、「魔法少女もの」にあるような派手な演出は……?
奈良 入れないようにしました。原作の石塚千尋先生と話をしたときに、「もし、“魔女が現実の世界にリアルにいたら……”という部分を大切にしてほしいです」という要望がありましたので、アニメでもその点は大事にしています。もともと、『ふらいんぐうぃっち』の魔法は科学実験に近い感じで、ちょっと煙が出る程度ですからね。
── シリーズ構成に赤尾でこさんを起用したのはどんな意図があったんですか?
奈良 赤尾さんに担当していただいたのは、女性に書いていただいたほうが真琴たちの会話がリアルになると考えたからです。「日常を生きる普通の女子高校生の会話を膨らませる」方向でお願いしました。
── 重要な役割となる背景を担当する美術監督には、奥村泰浩さん(ムーンフラワー)が起用されました。どのような経緯で決まったのですか?
奈良 「かっちりとすべてを描き込んだ背景より、優しく温かみのある画面作りをしたい」と話したところ、J.C.STAFFさんから「ムーンフラワー」さんをご紹介いただきました。想像以上の仕上がりで良かったです。


■原作者・石塚千尋さんの意外な(?)要望

『ふらいんぐうぃっち』の原作者・石塚千尋は弘前市出身。マンガ家としてのデビューは東京に住んでいたときだったが、現在は地元・弘前に戻って執筆している。アニメ化が決まった際、スタッフとはどのようなディスカッションがなされたのか? 奈良プロデューサーの考えるこの作品のキャラクターに対する考えと併せて聞いた。

── 原作者の石塚さんとは、どういった形でお会いになったのでしょうか?
奈良 実際に顔を合わせたのは、アニメ化が決まったあとです。東京にいらしたタイミングでスタッフを交えてご意見を伺いました。意外だったのは、石塚先生が『ふらいんぐうぃっち』を「ギャグに近いコメディ」とおっしゃっていたことです。石塚先生にとってのギャグの捉え方というのを再認識しました。
── 何気ない日常の中で、ゲラゲラ笑うよりクスッとさせるネタが多いですよね。それをアニメで表現するにあたってご苦労されたことはありますか?
奈良 ここは監督や赤尾さんが苦労されていたところではあると思いますが、原作では各話ごとにオチがありますので、23分程度の放送時間の中で、どこに重要なオチをつけていくか。というのは、監督や構成の赤尾さんたちと、本読みの段階で話していきました。
── キャラクターについて伺います。奈良さんの考える真琴の「かわいいところ」はどこでしょう?
奈良 J.C.STAFFさんにお願いしたのは、「黒髪を生かしてほしい」です。男性だけの感覚かもしれませんが、女性の黒髪がきれいにサラサラとたなびく姿は魅力的だと思います。
── 小学生の千夏は、真琴とダブルヒロインのような存在感があります。
奈良 千夏は大変魅力的なキャラクターですよね。アニメ化したら一人だけキャラが立ちすぎてしまうのではないかと心配していたほどです。素のときは小学生らしいリアクションをしますが、急に大人びたことを言ったりして。原作の魅力をそのまま出してもらえればと思いました。
── 第3話から登場した真琴の姉・茜も我が道を行く個性派ですよね。千夏と茜が作品のアクセルで、千夏の兄・圭が落ち着いたキャラでブレーキ役という印象です。
奈良 圭は達観しているお兄さんという感じですよね。ただし、急にギャグを飛ばしたりして、見ている我々が戸惑うときがあります。

■キャスティグは特徴的な声よりも「作品になじむ」を重視

 主人公の真琴に篠田みなみ、千夏には鈴木絵理、圭が菅原慎介と、メインどころには若手の声優が起用された。オーディションで決めたそうだが、配役のポイントは何だったのか? 

奈良 キャスティングは監督や他のスタッフとのお話の上ですが、真琴、千夏、圭の3人とも、特徴的な声を出す姿は想像しづらかったので、できるだけ自然でやわらかな声を出していて、作品の中に声がなじむことを重視しました。
── 舞台が弘前ということで実際には方言があるはずですが、作中で千夏や圭はほとんど話しません。第3話に初登場した2人の父・啓治がその役割を一手に引受けています。
奈良 お父さんの方言は面白かったですね。アフレコ中も「ほとんど何言っているかわからないね。」って感じでした。啓治は、津軽地方出身の小形さんにお願いしました。さすが本場の津軽弁という感じでした。圭の幼馴染・なお役の三上枝織さんも青森県出身で津軽弁が話せますが、メインキャラは津軽弁をほとんど話しません。石塚先生から、若い世代はそれほどきつい津軽弁を使ってはいないと聞いていましたから、無理には入れませんでした。


■地元・弘前のコラボも絶好調。毎週、癒やされてください

 ご当地の弘前では、現在『ふらいんぐうぃっち』のコラボレーションが街中で展開されている。JR弘前駅には縦1.8メートル×3.6メートルの看板が設置され、4月下旬からゴールデンウィークにかけての桜の開花に合わせて開催される、『弘前さくらまつり』のコラボポスターは至るところで目に入るほど。地元の弘南バスや弘南鉄道では、車体に大きなポスターが描かれたラッピングバス&電車が走行し、キャラクターによる車内アナウンスが流れる徹底ぶりだ。

── 地元・弘前はかなりの盛り上がりを見せているようですね。
奈良 以前から原作マンガとのコラボで、弘前の観光コンベンション協会がこの作品の「舞台めぐりマップ」を制作していました。そのご担当者の方を講談社さんからご紹介いただいて「いろいろやりましょう!」となりまして。地元の盛り上がりは本当にありがたいです。
── 4月下旬の「弘前さくらまつり」の時期に、同じ祭りが舞台の第4話が放送されます。
奈良 この作品をやるとしたら4月からの放送しかないと思っていました。4月からは「さくらまつり」が行われ、8月にはねぷた祭りが開催されますからね。
── 地元の青森放送でもしっかり放送されます。
奈良 それも、週に2回放送していただいているんですよ。青森放送さんでは金曜日深夜の初回放送のあと、翌夕方に再放送されています。まさか2回も放送してもらえるとは。この作品が幅広い層に受け入れられると認識してくださったのだと思います。
── 初回放送前に地元・弘前で先行上映会も開催されました。今後もイベントを積極的に展開していく予定はありますか?
奈良 もちろんです。先行上映会で篠田さんと三上さんに出演していただいた際、「ぜひ、またやりたいですね」という話が出ました。地元の方と調整して今後もやっていきたいです。
── 最後にファンの方にメッセージがあればお願いします。
奈良 ぜひ、『ふらいんぐうぃっち』を見て癒やされてください。画面のどこかを注視して見るものではなく、会話、キャラの動き、背景により全体の雰囲気を楽しめる作品です。ゆったりご覧いただいて「明日から頑張ろう」という気持ちになってもらえたらうれしいです。

 現在のところ第3話まで放送された『ふらいんぐうぃっち』。まったりとした展開は、刺激を求める深夜アニメ好きにどこまで響くのか注目していたが、ネット上の反響をチェックする限りなかなか好評を得ているようだ。「日常系」、「癒される」、「風景がきれい」という正当な感想から、第1話では「マンドレイクが……」、「ほうきに乗るとお股が……」などなど、落としどころのギャグが早くもフックになっている点は見逃せない。注目作品が目白押しの2016年春アニメの中で、まったりとしたこの作品が作風からは想像もつかない大きな“反響”という風をおこすことになるかもしれない。
(文・キビタキビオ(フリーライター&編集者))


■『ふらいんぐうぃっち』
・公式サイト http://www.flyingwitch.jp/
・放送情報
 日本テレビ 毎週日曜日2時25分(土曜日 26時25分)
 青森放送 毎週土曜日 1時27分(金曜日 25時27分)/毎週土曜日16時30分
 サンテレビ 毎週木曜日 0:30〜(水曜日 24時30分)
 ミヤギテレビ 毎週土曜日 2:00〜(金曜日 26時00分) ※or 4月23日(土)午前2:00〜
 BS日テレ 毎週水曜日 2:30〜(火曜日 26時30分)
 (放送日時は予告なく変更になる場合があります。)
・Blu-ray&DVD第1巻は6月22日、VAPより発売!

(C)石塚千尋・講談社/「ふらいんぐうぃっち」製作委員会

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