レアードのことが忘れられない ファイターズに残したたくさんの「ダイスキ」

4月24日(水)11時0分 文春オンライン

 レアードのことが忘れられない。開幕してもう1か月近いというのに、忘れられない。今まで他の球団に移籍する選手は何人も見送ってきたけど、今回の感情はなんだか違う。もうカモメの街の人なのに……。


 1月、そのニュースを聞いた時の私は年に1度の休暇中。ハワイにいて、トロリーバスの列に並んでいると、目の前の20代半ばくらいの日本人男性がスマホを覗きながらこう呟いたのです。


「まじで、へぇー、レアードってロッテに来るんだ」


 横にいる彼女らしき女性は彼とは反対側のフェラガモのウィンドウを見ながら「そうなんだー」と興味なさげ。あー、だったらすみません! ちょっと私と話をしませんか? ニュースソースどこですか? 「来るんだ」ってことはマリーンズファンなんですか? 私は北海道から来ていて、そうです、そうなんです、ファイターズファンなんですけど、いや〜レアードは本当に…………な〜んて話しかけられるはずもなく、その見知らぬ彼からの一報を受けて粛々と検索したのでした。びっくりしたな、あの時は。おかげでその後のせっかくのポキ丼の味の記憶もぼんやりです。



今季からロッテに加入したブランドン・レアード ©文藝春秋


レアードが残したたくさんの「ダイスキ」


 レアードはたくさんの「ダイスキ」をファイターズに残していきました。


 まずは「カントク ダイスキ」。


 1年目の2015年、守備は素晴らしいのに全く打たないレアードを栗山監督は辛抱強く使い続けました。少しずつ日本に慣れ調子を上げていったレアード。その様子を周りの選手もファンも受け入れたのは、彼の明るくて大らかなキャラクターが「助っ人外国人」というよりも、シンプルに「アメリカからやってきた選手」という雰囲気だったからだと私は思います。言ってしまえば「オーラ」はぜんぜんなかった。こんなに接しやすい外国人選手は初めてのような気がしました。この最初の頃の起用について、栗山監督への感謝の言葉をレアードはよく口にしました。そして照れることなく監督にダイスキを表現しました。


「カントク、マカセテ」「カントク、ガンバッテ」「カントク、ダイジョウブ?」「カントク、ツカレテル?」


 片言の日本語で話しかけるレアードに監督が笑顔で応える。試合の前後、マスコミ前での二人の微笑ましい会話は恒例のようでした。



 次に、「スシ ダイスキ」。


 来日当初、その調子の出ないレアードを当時の白井一幸コーチはお寿司屋さんに誘いました。そこでの会話からスシポーズが生まれたエピソードは有名です。「レアードはね、何でも食べるから偉いよ」、そのお店「空海」の親方は言います。スシポーズを提案した親方の事もレアード選手は「ダイスキ」で、うっかりお立ち台で「(この後)Go to クウカイ.I can’t wait!」って言ってしまったことも。


「移籍の挨拶は別にないよ、でもそのうち来るだろうよ、レアードのことだから」。その通り、札幌ドームで試合のあった夜に家族で訪れました。ハチマキを巻く12月に生まれた赤ちゃんと嬉しそうにカウンターにいる様子がInstagramにありました。


日本一祝勝会での優しい時間


 そう、レアードは「カゾク ダイスキ」。奥さんのラナさんは初めからずっと日本で一緒に暮らしていますし、アメリカからも家族がよく観戦に来ていました。姪っ子ちゃんが3人来たときは3ランホームランを打って一緒にお立ち台に上がったことも。


「カゾク」で私が忘れられないのは2016年の日本一祝勝会、いわゆるビールかけ会場でのこと。私はレポーターで、ビールまみれになりながら目の前にくる選手に次々とマイクを向けていて、その様子はHBCラジオで生中継されていました。メモを見ることも台本ももちろんないぶっつけ本番の中、ふとしたタイミングでレアードが目の前に来てくれました。通訳さんが横にいなかったので一瞬は迷いましたが、意を決して「Congratulation!」とアタック。


「Thank you,〜〜〜〜〜〜〜」と何となく会話が成立して欲を出した私は、「おじいさんは今日のあなたの活躍をなんて言ってるでしょうね」とまるでまとまらない英語で問いかけました。その時のレアード選手の表情は「グランパ?」と私の目をのぞき込みながらとても柔らかくなりました。彼のおじいさんはシリーズ直前に亡くなっていました。母国で孫の活躍を見ようと時差のあるアメリカで目覚ましをかけて応援してくれていたグランパ。


「誇りに思ってくれていると思うよ(もちろん英語)」


 私にわかるようにゆっくりと話してくれたこと、あの時の優しい時間をビールの匂いと共に思い出します。


 そして、私たちは今でも「レアード ダイスキ」。


 最初のマリーンズとのカード、札幌ドームで黒いユニフォーム姿を見ては、「少し痩せたのでは?」と心配。マリーンズの野太い応援歌にレアードの名前が乗っかってるのに、つい持って来ちゃったレアードグッズをスタンドで出してしまう。そして、あんなに今年は調子いいのに札幌ドームではまるで打たなかったレアードを褒めちぎる。更にレアードもファイターズファンに手を振って「かえってきたよ〜」の猛アピール。こんなことだといつまで経っても忘れられないじゃないの! もう! 更に膨れた「ダイスキ」を抱えたまま、私、千葉にも行きました。



「ダイスキ」のままでいよう、忘れる必要なんかない


 4月20日、21日の土日の千葉は暑くもなく寒くもなく野球観戦にはちょうどいいお天気。そこでもレアードは嬉しそうに野球をしていました。痩せたのでは? と思ったのは「黒」の着やせ効果だったようです。ファイターズのベンチを見てはニコニコ、栗山監督を見つけては遠くても何とか構ってもらおうと手をあげたり下げたり忙しい。サードの守備に着けば少しでも間が出来るとサードコーチャーの川名コーチとお喋り。試合前のファンサービスのスタンドへのボールの投げ込みでは迷うことなくファイターズファンの待つレフトスタンドへ……。


 そしてマリーンズファンもレアード選手を「ダイスキ」でいてくれているのが、試合中の声援からもショップのグッズの品切れ具合からもよく分かりました。背番号の54個限定の噂のレアード寿司も、開門すぐに買いに行ってみたら列ができていて他のお弁当と共に次々と売れていました。私も滑り込みで買えて、幕張寿司を楽しみました。



 何だかとても嬉しかった。寂しいとか、ライバルになって悔しいとか、そんなことを本当につまらない感情に思わせてくれて嬉しかった。だから、もういい。「ダイスキ」のままでいよう、忘れる必要なんかない。レアードもまだ私達を思っていてくれて、そのままでいてくれている。レアードはファイターズファンもマリーンズファンも「ダイスキ」。そして、ファイターズ戦でまだ爆発的に活躍しないのも、野球の神様が私たちを繋げてくれている気がする(笑)。


 あー、でも。お寿司。道民としては、それについては、負けたくないような……ねぇ、ポーズの発祥はこちらでもありますし。幕張とはまた別のテイストの北海道ならではのレアード寿司っていうのはもう叶わないでしょうか。


 今年、札幌ドームではあと2カード、マリーンズ戦、あります。「おかえり!SUSHI BOY寿司」とか、「北海道レア(−ド)寿司」とかどうでしょう? どっちのファンにも売れると思うんですけど、たぶん、いや必ず、いや絶対に。お寿司、どうでしょう? ねぇ、札幌ドームさん。



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(斉藤 こずゑ)

文春オンライン

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