内野聖陽さんが『徹子の部屋』に出演。草笛光子さんとのエピソードを語る。初対面から同志だった、25年来の絆「この仕事を長く続けるなら、見習わなければと思います」
2025年4月24日(木)11時45分 婦人公論.jp
俳優の内野聖陽さん(左)と草笛光子さん(右)(撮影:天日恵美子)
2025年4月24日の『徹子の部屋』に俳優の内野聖陽さんが登場します。大学生の時に文学座の研究所に入所し、俳優の道に進んだ内野さん。ドラマや映画など多くの作品に出演し、今年に入ってからは映画『八犬伝』で第48回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。3月に行われた授賞式で、草笛光子さんをエスコートして話題になりました。そこで、公私にわたって交流があるというお二人の対談記事(『婦人公論』2024年5月号掲載)を再配信します。
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25年前、初対面ながら「昔からの知り合いみたいな気がする」と草笛光子さんが感じたという俳優の内野聖陽さんが、今回のゲスト。年齢差を忘れるほど打ち解けた関係性は微笑ましくも、「俳優」としての経緯が互いの絆を深めてきたことが伝わってきます(構成:篠藤ゆり 撮影:天日恵美子)
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<前編よりつづく>
役者における声の面白さ・難しさ
内野 そういうときの草笛さんは、本当に楽しそう。そこがカッコいい。でも、実は草笛さんときちんと共演したのは、あの舞台で一度きりなんですよ。同じ作品に関わっている、というのはいくつかありますけど。そのなかでは、時代劇『蝉しぐれ』が非常に印象に残っていますね。
草笛 あれは、よかった。
内野 少年期に政変に巻き込まれた父を処刑され、その後も運命に翻弄される主人公の牧文四郎を僕が演じて、そのドラマのナレーションを草笛さんが務めてくださったんですが、このナレーションがもう素晴らしくて。
草笛 文四郎を思う母の愛を表現してほしい、というのがプロデューサーの意向だったのよ。
内野 文四郎は養子なので、実母が登場することがないですからね。
草笛 あの作品はね、私も覚悟してやったの。
内野 覚悟?
草笛 肉体は表に出さず、声だけで文四郎を愛情で包まなくてはいけない。さて、どうやってその要求に応えるか、ということ。
内野 20年ほど前の作品ですけど、3年前に再放送されたとき、電話をくださったでしょう。「いまテレビでやってるのよ。いいわねー、あれ」って(笑)。その電話で、改めてナレーションについておっしゃってましたね。「あえてきれいな声は使わずに、寝起きのままで声を出した」って。
草笛 そうね。朝起きてから、「あー」とも「すー」とも言わず、声を一切発さずに現場に行ったの。もちろん発声練習もしなかった。少しでも発声してしまうと、声が響いてしまうから。
内野 響かないようにしたかったというのは?
草笛 声がきれいじゃ意味がないの。むしろ響かない声で、あなたを包みたいと思った。要するに、「うまいナレーションをしよう」とは思わなかったわけ。でも成功するかわからないから、初日はおっかなかったわよ。
内野 多彩な技も豊富な経験も持ち合わせているのに、あえてすべて封じ込めて、まったく違うアプローチでナレーションに取り組む。電話でこの話を聞いたとき、草笛さんはやっぱり役者としての志が高い方だ、すごすぎる! と改めて思いましたね。あれは、ナレーションによって最終的に完成されたような作品です。
草笛 いい作品に恵まれるのは、私たちにとって幸せなことよ。あのときは、録りながら何度も泣きそうになりましたしね。あなたの文四郎も、時代劇の声がちゃんと出ていたから、とてもよかった。舞台でもそうだけど、難なくいろいろな声が出せるのはあなたの強みね。
内野 僕、お寺の生まれじゃないですか。小さいころから父の横でお経を読んで育っているんです。だから独特の発声法で、自然と声帯が鍛えられたのかもしれない、と最近思うようになりましたね。
この道を長く歩いていくには
草笛 6月になったら、『九十歳。何がめでたい』という映画が公開されるんですって。作家の佐藤愛子さんを私が演じたの。
内野 去年の暮れに僕が草笛さんの楽屋を訪ねたとき、まさにその撮影中でしたね。
草笛 私ってかわいそう(笑)。だってあなた、この歳で主演って大変よ。
内野 なに言ってるんですか。これまで何度もやってこられたでしょう。
草笛 やってないわよ。これまで120本以上の映画に出ているらしいんだけど、単独主演とかいうのははじめてなんですって。自分ではよくわからないけど。
内野 それは意外だなあ。そういえばこの間、「新横浜ラーメン博物館」に行ったんです。ここ、昭和30年代のレトロな街並みを模したところに、人気のラーメン店がたくさん入っているんですが、街並みに古い映画のポスターが貼ってあって、よく見たら「草笛光子」の名前があったんですよ。(笑)
草笛 あ、私が古い人間だと思ってバカにしてるんでしょう。(笑)
内野 そうじゃなくて、「草笛さんだ!」と思って、なんだか不思議な感覚になったんですよ。それだけ長く仕事されてきた方と僕は親しくさせていただいているんだ〜って。
草笛 長くねえ。ここ最近は映画があったから、起きると毎朝「撮影です」って。これだけ長くやっていれば、そりゃあ疲れますよ。「今日は体調が悪い」ってウソついてみるんだけど、バレて叱られたりして。でも撮影中、本当に体調を崩して肺炎になっちゃった。もうこのとおり元気ですけど。
内野 (周囲のスタッフに)90歳で主演って、もしかしてギネスものですか?
草笛 賞、もらえるの?
内野 なるほど、国内ではギネスらしい、と。それはもう、ぜひ登録しましょうよ。
「これは要するに、身体が丈夫だからよ」(草笛さん)/「もちろんそうですけど(笑)、長く努力されてきたということじゃないですか」(内野さん
草笛 でもね、内野くん。これは要するに、身体が丈夫だからよ。
内野 もちろんそうですけど(笑)、長く努力されてきたということじゃないですか。僕、もうひとつ草笛さんの忘れられない言葉があって。ずいぶん前に、渡辺徹さん主演の舞台『あかさたな』を芸術座に観に行ったんです。草笛さんも出てらして、終演後にお話ししたとき、「私はもっと草書体の芝居をしたいんだけど、まだ楷書体なのよね」とおっしゃった。
草笛 やだ、全然覚えてない。(笑)
内野 「いやいや、とうに到達してらっしゃいますよ」と思いつつ、いつお会いしても、芝居に対する欲とか向上心を持ってらっしゃることに毎回ハッとしますね。「なんにもしてないわよ、もともと丈夫なのよ」って謙遜されますけど、筋トレもして加圧トレーニングもして。この仕事を長く続けるなら、見習わなければと思います。
草笛 それと正反対の生活もやってるのよ。ガボガボお酒飲んだり、明け方近くまで起きてたり。夕べも、4時まで起きてたんだから。
内野 そんな夜中までなにをしてらっしゃるんですか。
草笛 そういう時間帯のほうが、大事なことが頭に浮かんでくるのよ。映画を見ながら、「あ、これいただき」とか思ったりして。
内野 スマホいじってたら明け方になっちゃった、ということは僕にもありますけど、仕事のことを考えているうちに朝になるのはまずないなあ。
草笛 私、内野くんがどうやって日々を過ごしているのか、気になってるのよ。それで今日お話ししたいと思ったんだけど。だからといって、それをわざわざあなたに聞くのもいやなの。(笑)
内野 インプットの時間は大事に考えているので、ひとつの仕事が終わったら、映画や舞台を見る時間を作るようにしたり、次の仕事に備えて本や資料を読んだり、旅行に出たり。そういう意識はあります。でも僕、それほどストイックなタイプではないからなあ。
草笛 あなたはいい意味で適当だから、心配はしていないけれど。
内野 見抜かれてる?
草笛 はい。
内野 仙人みたいだ。まあ、だから初対面のときから、同志のように感じてくださったのかな。
草笛 こういうことは理屈じゃないのよ。「内野くん、今日は朝から天気がいいから、少し歩くといいわよ」とか、たまに心のなかで思ったりしてるだけ。あなたは素晴らしい役者だけど、この道を歩いていくには、やらなきゃいけないことがまだいっぱいあると思うの。努力は大事よ。私のほうがちょっとだけ年上だから、偉そうなことを言わせてもらうけれど。
内野 いやいや、もうどんどん言ってください。(笑)
草笛 そして、あまりお酒を飲み過ぎないほうがいいわよ。私にまた運ばれちゃうから。
内野 あははは。それが今日僕に一番言いたいことだったんでしょう。これ、一生言われそうだなあ。
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