夏樹静子はなぜ生保が舞台の 『遠い約束』を書いたか

4月25日(月)9時0分 ダイヤモンドオンライン

 『朝日新聞』のアフリカ記者として鳴らし、『朝日ジャーナル』の編集長もやった伊藤正孝は1995年に58歳で亡くなったが、その伊藤と私が出会って異口同音に、「どうして、ここに?」と言い合ったことがある。


 夏樹静子の主催するパーティでだった。


 ミステリーだけでなく、『遠い約束』(文春文庫)などの経済小説も書く夏樹に私はインタビューして以来、文庫の解説も頼まれたりしていた。だから、日ごろはほとんど出ないパーティなるものに出かけて行ったのである。


 伊藤の方は、夏樹の夫が、伊藤の「中学・高校・大学」の後輩に当たるのだった。


 伊藤は夏樹に、いつも、「いずれ、あなたの伝記を書くから、その時は亭主に秘密のことまで喋れ」と言っていたらしい。


 ちなみに伊藤は福岡の修猷館高校出身で、同期生だったのが自民党元副総裁の山崎拓である。


執筆は未知の地点からスタートした


 いまから30年余り前、生命保険業界をテーマにした夏樹の『遠い約束』について、彼女にインタビューした時は驚いた。


「生保は経済界に君臨する巨大な金融資本という貌を持っていますでしょう」


 高校生の娘を持つ母親とはとても思えないほど若くて楚々とした夏樹の唇から、こんな言葉がとびだしたからである。


 不意をつかれて一瞬ひるみ、一呼吸おいて、「え、ええ」と相槌を打った。


 そうしたこちらの狼狽を見すかしたかのように、夏樹は静かに笑い、「私にはヘンな負けん気があって、女には企業は書けないと言われると、企業を書きたくなる。女にはスパイ小説は書けないと言われて、女スパイの活躍する小説を書きましたしね。それと、やはり、企業を知りたかった。私はドメスティックなミステリーから出発したんですが、男の働く世界を知らなければ、真に家庭も書けないのではないか。それを知らないままでは決定的に限界が来るだろうと思ったんです」と言葉を継いだ。




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