NHK『美女と男子』 笑わない仲間由紀恵の芝居に傑作の予感

4月25日(土)16時0分 NEWSポストセブン

 今クールのドラマ序盤の評価も出揃ってきた。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が、注目枠の「火10」について指摘する。


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 春ドラマも盛り上がってくる頃。先週のコラムでは主役=ジャニーズの3作品をピックアップしました。そして今回はこの3つを。


 火曜夜10時、女優たちのガチンコ勝負。まったく同じ時間帯、話題のドラマが3つ並ぶ。NHK『美女と男子』、TBS『マザー・ゲーム〜彼女たちの階級〜』、フジ『戦う!書店ガール』。


 それぞれの切り札は何?


 ●『美女と男子』


 何の先入観も情報も持たずに見たドラマ。思わず膝を打った。傑作を予感させる滑り出し。物語の主人公は仲間由紀恵演じる一子。仕事はできるがケンカ腰で上から目線のキャリアウーマン。IT企業から出向させられた先は、弱小芸能事務所。スカウトした新人の遼(町田啓太)を、自らの手で大スターへと育て上げていく。まるで「わらしべ長者」か、それとも「不思議の国のアリス」?


 次の展開、その次の展開、その次……めくるめくテンポで進行。まさか、時代劇の撮影現場にまで連れて行かれるとは想像しなかった。変転に引き込まれ、息を呑み、スカッとし、ほんわかと癒されもする。空間を自在につなげていく構成力。ドラマの中にドラマの撮影現場を入れこむ「二重構造」も、脚本の妙。


「私が考えていた一子より、はるかにキツイ女性を求められまして。(監督からは)笑わなくていい、と。できれば会いたくないな、というイメージの女性を少しずつ作っていきました(笑)」と仲間由紀恵が取材に答えていた。コメントから制作現場の様子が伝わってくる。


 演出家は、描く人物像をはっきりと提示。役者はそれに応じて、とことん演じきる。両者の力がピタリと一致したところに、「一子」という人物が生まれてくる。50分間、たしかに一子は1回も笑わなかった。仲間が「ふてぶてしい、会いたくない女」をしっかりと演じ切ると、結果的に、おかしみが滲み出してくる。見ている側は、思わずクスっ。コメディの王道だ。


 面白くもないギャグを振りかざして笑いを強要してくる巷のコメディ風ドラマとは一線を画す。連続20回(2クール)という独自のスタイルも興味津々。20回をこの調子で駆け抜けていけるのかどうか。目が離せない。


 ドラマの基本は、3つの要素。脚本、演出、役者。その3つの力が揃った時、架空の世界がいきいきした「もう一つの世界」となって動き出す。『美女と男子』はまさしくその典型例だ。


●『マザー・ゲーム〜彼女たちの階級〜』


 ひょんなことから名門幼稚園に息子を通わせることになったシングルマザーの蒲原希子(木村文乃)。セレブ幼稚園の内実に驚き疑問を抱き、敵対する母親たち(長谷川京子安達祐実ら)にストレートにぶつかっていく。女の友情と成長の物語、らしい。


 子ども預かってくれる保育園がない、母親同士の陰湿なイジメ、シングルマザーの貧困……一つ一つが今まさに、現実に起こっている深刻でリアルな問題。そうした社会的テーマを描くのかと思えば、主人公はさして深く悩まず、傷つかず。とにかく猪突猛進。それで壁を次々に突破してしまう。煩悶しないシングルマザーの主人公には、なかなか感情移入しにくい。


 セレブ母の生態やお受験幼稚園の中身を、覗き見たいというニーズはたしかにあるだろう。しかし、セレブをやっていた母が言葉の暴力で子どもを虐待し、続けて不倫と、このドラマはてんこもり。シリアスドラマなのか、それとも面白おかしくオンナたちの生態を暴くのか。今一つ掴めずにとまどう。現在一番ホットなテーマに取り組もう、という意欲は買うけれど。一言でいえば、中途半端。進む方向が見えにくい。


 壇れいをはじめ、役者陣も頑張っているけれど、脚本と演出が不十分であれば役者の持ち味をドラマの中に生かすこともなかなか難しそう。


●『戦う!書店ガール』


 正直、期待していなかったAKB・渡辺麻友のゴールデン初主演。ところがどっこい、幕が開けば勝ち気でまっすぐで社会の枠とは少しズレたお嬢様像を、まゆゆが好演。キャラクターのエッセンスを掴み、ネガティブな台詞も勢いよく、切れ味よく演技している。


 AKBの中でも「お芝居を学びたい」と口にするだけあると、まだ荒削りのまゆゆに心地よく驚かされた。物語は「ペガサス書房」が舞台。お嬢様店員の亜紀(渡辺)と、アルバイトから苦労して副店長になった40代の理子(稲森いずみ)、正反対の2人が書店の仕事や恋にと火花を散らす。そこへ、今注目の王子・子犬系役者、千葉雄大が割って入る。


 年上のオンナに「デコドン」。オデコにオデコをトンとつける仕草が話題を呼ぶ。千葉クンファンの主婦達のため息、悶絶ぶりが見えてくる。脇の濱田マリの存在も、スパイスとして効いている。まさしく配役の妙。


 ネット上では本物の書店員から仕事内容にリアリティが足りないと、思わぬダメ出し、つっこみ満載で話題だけれど、ドラマとしての滑り出しは脚本、演出、役者の3つの力が何とかバランスを保っている。一方で視聴率は「初回6.2%の大惨事」と低調ぶりが騒がれた。


 でも、考えてみよう。今や連ドラ録画のための機能を進化させた専用DVDレコーダーが発売される時代。同じ時間帯に3本話題作がオンエアとなれば、録画するドラマファンがどれほどいることか。


 もはや、視聴者動向は数字で測りきれない時代。いよいよ視聴者の方も、視聴率は一つの参考として、数字に振り回されず、自分自身の目でドラマの仕上がりをしっかりと吟味すべし、ということでしょう。

NEWSポストセブン

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