「あんぱん」中園ミホ氏「24時間朝ドラ漬け」運勢最悪も執筆決断「絶対に私が」題材やなせ氏夫妻は奇跡的
◇「あんぱん」脚本・中園ミホ氏インタビュー(2)
「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」シリーズなどのヒット作を放ち続ける脚本家の中園ミホ氏(65)が、NHK連続テレビ小説「あんぱん」(月〜土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)で11年ぶり2回目の朝ドラに挑戦している。国民的アニメ「アンパンマン」を生み出した漫画家・やなせたかし氏と妻・暢さんをモデルにした物語で、朝ドラ王道の展開が視聴者の泣き笑いを誘い、序盤から好評。インターネット上をはじめ反響を呼んでいる。やなせ氏とは小学生の頃に文通をしていた仲で、格別の思い入れ。作劇の舞台裏を聞いた。
<※以下、ネタバレ有>
中園氏がオリジナル脚本を手掛ける朝ドラ通算112作目。激動の時代を生き抜いた夫婦を描く。中園氏は2014年度前期「花子とアン」以来の朝ドラ脚本。ヒロインを務める女優の今田美桜は21年度前期「おかえりモネ」以来2回目の朝ドラ出演、初主演となる。相手役の俳優・北村匠海は朝ドラ初出演。
やなせ氏は13年に逝去。「今もお元気なら、各地で戦争や紛争が起きているこの世の中に対して何とおっしゃるのかな」。ここ数年、中園氏の脳裏には“恩師”の顔が思い浮かぶようになっていた。その折、制作統括の倉崎憲チーフプロデューサーとお互いに朝ドラの題材を複数持ち寄ったところ、「私が『やなせたかし』の『し』を言い終わる前に、倉崎さんがやなせさんの本(『ぼくは戦争は大きらい』)をリュックから取り出したんです」。ちょうど倉崎氏も自身の生き方を模索し「アンパンマンのマーチ」の歌詞の深さに感銘。奇跡的な一致だった。
1988年、28歳の時に脚本家デビューして以降、テーマ選びにおける今回ほどの偶然は「初めてです。朝ドラはしんどいと分かっていたので、半分断ろうと思っていたんですけど(笑)、やなせさん夫妻を書けるなら絶対に私が書きたい、老体にムチを打って頑張らなきゃと、とお引き受けしました」と覚悟。「『花子とアン』でやり残したことはなく“もう一生、朝ドラは書かないぞ”(笑)というぐらい完全燃焼して、書き切った後は虚脱状態にもなりました。今回、他の方のお話だったら断って、朝ドラから逃げていたと思うんですけど、何かに導かれて書かされているような気もします。それが厳しいドラマの神様なのか、やなせさんなのか、暢さんなのかは分かりませんけど」。天啓とも運命とも呼べる巡り合わせになった。
「花子とアン」は「赤毛のアン」の翻訳者・村岡花子氏をモデルに、女優の吉高由里子が主人公・安東はな(村岡花子)役を演じた朝ドラ通算90作目。締めのフレーズ「ごきげんよう」(語り・美輪明宏)が「ユーキャン新語・流行語大賞」トップテンに選ばれるなど、大きな話題を集めた。
朝ドラ脚本の執筆がハードなのは、その“物量”。「今回もそうなんですけど、もう息つく暇もなく書き続けないといけません。私はあまり筆が速い方ではないので、それで26週も書くとなると、『花子とアン』の時は途中で“息切れ”したこともありました。体力面も含めて、物理的な大変さですね」と明かした。
夜型人間で、大のお酒好き。現在の生活サイクルは「夜に書いて、BS(午前7時半)で『あんぱん』を見て、本放送(総合、午前8時)から缶ビールを1本だけ飲みながら、『あさイチ』の朝ドラ受けを見て寝る、という感じです(笑)」。「花子とアン」の経験から「外に飲みに行けないぐらい忙しくなるのは分かっていたので、私にとってはそのきつさもありました(笑)。と言っても、昨日もスタッフさんと飲みに行ってしまって(笑)、今はスタッフさんとしか行かないですけど、結局、お酒の席でも仕事の話になるので、もう24時間、朝ドラ漬けという感じです」と全身全霊を注ぐ。
働き方改革の一環として、朝ドラは20年度前期「エール」から週5日(月〜金曜)の放送に。「花子とアン」は週6日(月〜土曜)、全156回だった。
「短くはなりましたけど、自分の体力も落ちているので、十分長いなと感じています」と苦笑しつつも「ただ『花子とアン』の時は、確かに金曜日までは一気にガーッと書けても、土曜日にやることがなくなって、エピローグ的な回にしたこともありました。思えば、土曜日はきつかったですね。今回は5日間にギュッと凝縮できる感じはあって、その部分に関しては前回より楽かもしれません」と分析した。
広告代理店退職後、24歳の時に占い師・今村宇太子氏のアシスタントに。還暦を迎え、占い師としての活動も正式に始めた。
「花子とアン」執筆時の自身の運勢は「空亡(くうぼう)」。算命学の「天中殺」にあたる「凶運期」で、最も気をつける必要がある時期という。
「私の占いでは12年周期で運気のバイオリズムが巡るので、ちょうど今、この4月が空亡年の空亡月という最悪のタイミングなんです(笑)。でも、運勢がよくない時期と恐れるのではなく、人のために頑張れば、その後の人生を歩んでいく自分の足腰を必ず強くする、というのが私が習った空亡の乗り越え方。私は怠け者の星なので、そう考えると前回も今回も、まさに正しい空亡期の過ごし方をしているなと思います。それにしても不思議ですよね。また空亡の時期に朝ドラを書く運命なのか、と(笑)。最初は葛藤もありましたけど、やっぱり逃げたらいけないと思って、今は24時間、『あんぱん』のことだけ考えています」
=インタビュー(3)に続く=